ソーシャルレンディングとアメリカ

国内の個人投資家の間で、今般、大きな人気を博している、ソーシャルレンディング。
金融先進国と言われるアメリカでは、どのようなソーシャルレンディング事業者が存在するのでしょうか。
また、日本のソーシャルレンディング業者を介して、アメリカ関連案件・ファンドへと投資する場合、どのようなファンドが検討対象となるのでしょうか。

アメリカのソーシャルレンディング市場

アメリカにおいて、ソーシャルレンディングは、”Peer to Peer Lending” と称されていることが一般的です。
直訳すれば、「個人間融資」となりましょう。
日本のソーシャルレンディングが、主に「企業・事業者」への融資を前提としているのに対し、アメリカのソーシャルレンディング(Peer to Peer Lending)の場合は、投資家も借り手も、基本的には個人を対象としています。

アメリカのソーシャルレンディング市場における有力企業(仲介事業者)としては、下記のようなものがあります。

  • Lending Club
  • Prosper
  • Funding Circle United States
  • Sharestates
  • MyConstant

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

Lending Club



引用元:Lending Club

言わずと知れた、世界最大級のソーシャルレンディング・プラットフォーム。
創業は2007年で、4万ドルまでの少額パーソナル・ローン(個人向けローン)や、5,000ドル~50万ドルまで幅広く対応するビジネス向けローン、自動車ローンの借換サービスや、医療費支払い向けのサービスなどが提供されています。
累積での貸出実績は、既に500億ドル(日本円にして、約5兆円)超に達しており、顧客数は300万人以上。
日本のソーシャルレンディング業界において大手と言われるSBIソーシャルレンディングの場合で、累計での融資実績は1,400億円程度(※2020年5月末時点)ですから、Lending Clubの規模の大きさが伺えます。
なお、Lending Clubの運営会社は、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の上場企業でもあります。


参考:
Lending Club|公式サイト(英語)

Prosper



引用元:Prosper

アメリカ最古のソーシャルレンディング業者として知られているのが、Prosper(プロスパー)。
少額のパーソナル・ローンのほか、住宅を担保にした融資枠提供(HOME EQUITY LINES OF CREDIT)、借入の一本化などのサービスが提供されています。
下記公式サイトによれば、累積での借手(顧客)数(ALL-TIME PEOPLE EMPOWERED)は100万名以上。累積貸し出し実績は約170億ドル(日本円にして、約1兆7,000億円)。
前述のLending Club同様、アメリカのソーシャルレンディング(P2P Lending)市場を代表するサービサーのひとつです。


参考:
Propser|公式サイト(英語)

Funding Circle United States



引用元:Funding Circle United States

イギリスやデンマーク、オランダなどでもソーシャルレンディング事業を展開しているFunding Circleグループのアメリカ支社に相当。
スモールビジネス向けに特化したローン組成を行っており、下記公式サイトによれば、

  • 2019年時点でのアメリカ国内の融資残高(不良債権分を除く)は11億ドル(約1,100億円)強、
  • 同年の貸出総額は8億ドル(800億円)弱、

とされています。


参考:
Funding Circle United States|公式サイト(英語)

Sharestates



引用元:Sharestates

アメリカで提供されている、不動産特化型のクラウドファンディング投資サービス。
投資案件はいずれも不動産担保付きとされており、想定利回りは8パーセント~12パーセント前後。
投資家は5,000ドルから投資できるとされています。

借手向けには、融資期間や資金使途、必要な資金額に応じて、様々なローン商品が提供されており、
サービス開始来の組成総額は約25億ドル(約2,500億円)。
アメリカ全土の34の州で組成実績があり、投資家の平均的なリターンは10.15パーセント。
既に1,500件弱のプロジェクトが返済済であり、返済された総額は12億ドル以上(約1,200億円以上)に達している、とされています。


参考:
Sharestates|公式サイト(英語)

MyConstant



引用元:MyConstant

投資家は50ドルから投資できるほか、投資口座開設後、デポジット(投資用資金の預託)のみで、年利4.0パーセントのリターンが付されるほか、
預託した資金はいつでも引き出し可能、との特徴が供されています。


参考:
MyConstant|公式サイト(英語)

日本のソーシャルレンディング業者が提供しているアメリカ関連案件

日本のソーシャルレンディング事業者が公開しているファンドの多くは、国内向け案件となっていますが、
なかには、アメリカ関連案件へと投資するファンドも存在します。
どのようなファンドが提供されているか、詳しく見ていきましょう。

クラウドバンクのアメリカ不動産関連ファンド

クラウドバンクにて募集された、「米ドル建カリフォルニア不動産ローンファンド第200号」。出資や分配、償還は、いずれもアメリカドル建てにて行われます。
引用元:クラウドバンク

日本クラウド証券株式会社(東京都港区六本木七丁目15番7号 新六本木ビル 6F)の運営するソーシャルレンディング・サービス「クラウドバンク」で公開・募集されている「米ドル建カリフォルニア不動産ローンファンド」シリーズは、既に第200号(以下、200号ファンド)まで公開されている(2020年6月時点)、人気シリーズ型ファンドです。

アメリカ・カリフォルニア州における不動産開発プロジェクトが関与

200号ファンドの融資先は、SPV(Special Purpose Vehicle。特別目的事業体)に対し、ローン・パーティシペーションの形態によって資金を拠出します。
上記SPVは、アメリカ・カリフォルニア州におけるハリウッド近郊の土地において、23件のコンドミニアム(駐車場51区画を含む)を建設し、完成後に同物件を売却するプロジェクトに係り、最終資金需要者に対して融資を行いますが、その際、最終資金需要者が保有する不動産(宅地)に、担保権が設定されることとなります。
また、200号ファンドの場合、ファンドへの出資も、投資家への分配・償還も、いずれも、アメリカドル建てで行われる、という特徴があります。

アメリカと日本の不動産取引の違い

クラウドバンクの詳説ページによれば、アメリカと日本の不動産取引には、下記のような相違点があるとされています。

  • 売主側には「Seller’s Broker」、買主側には「Buyer’s Broker」、それぞれにBroker(仲介業者)がつくことが一般的。日本の不動産業界でよくみられる、単独仲介業者による両手取引(買い手からも、売り手からも、手数料を徴求する取引)は稀。
  • 仲介手数料を支払うのは、売り手側のみ(日本の不動産取引の場合、買い手も仲介手数料を支払うことが一般的)。
  • 日本のレインズ(不動産流通標準情報システム)よりも充実した不動産関連情報がオンライン公開されている(公開されている情報の一部は、一般消費者も閲覧することが出来る)。このため、不動産取引の内容や、その価値判断基準などについて、透明性が高い。

クラウドクレジットのアメリカベンチャー企業向けファンド

クラウドクレジット株式会社(東京都中央区日本橋茅場町1-8-1 茅場町一丁目平和ビル802)の運営する越境型ソーシャルレンディング「クラウドクレジット」にて先日募集された、「米国セキュリティベンチャー事業者ファンド1号」(以下、アメリカベンチャーファンド)もまた、アメリカ向けのソーシャルレンディング・ファンドのひとつです。

貸付先の親会社は、アメリカのセキュリティ関連企業

上記のアメリカベンチャーファンドの実質的な貸付先は、イギリス領ヴァージン諸島ロードタウンに所在する、CPD Limited。ただし、その100パーセント親会社であり、信用補完先となるのは、アメリカ合衆国ネバダ州に所在するセキュリティ事業ベンチャー、CAPTIS INTELLIGENCE INC.(以下、CAPTIS社)です。

アメリカならではのビジネスモデル

クラウドクレジットのアメリカベンチャー企業向けファンドの実質的融資先親会社、CAPTIS社のメンバー。
引用元:CAPTIS社

CAPTIS社は、2014年の設立以来、約3年の歳月をかけて、アメリカ全土の、約17,000の法執行機関にコンタクトし、各機関が個別に保有する犯罪者の顔写真を統合したデータベースを構築(2019年末時点で約3,000万点の顔写真がデータベース化)しました。
そしてその後、上記構築したデータベースを、監視カメラ向けソフトウェア開発業者や、小売店チェーン等に対して情報供与することで、システム・データベース利用料金を徴求する、というビジネスモデルを採っています。
情報技術を活用した犯罪抑止が、このようにベンチャー企業によって事業化されている、という点は、アメリカならではの経済ダイナミズムの一端と見ることも出来ましょう。

オーナーズブックのアメリカ非上場eREIT関連ファンド

ソーシャルレンディング・サービス「オーナーズブック」の運営会社にあたる、ロードスターキャピタル株式会社(東京都中央区銀座1丁目10番6号 銀座ファーストビル2F)は、2019年6月、アメリカの不動産クラウドファンディング・サービサー、Fundrise,LLC(以下、Fundrise社)との間で、業務提携を締結したことを明らかにしました。


参考:
米国Fundrise社との業務提携に関するお知らせ|ロードスターキャピタル株式会社

アメリカ「Fundrise社」とは



引用元:Fundrise社

Fundrise社は、アメリカ合衆国ワシントンに本拠を構える、不動産クラウドファンディング事業者。
ペンシルバニア大学出身のBen Miller氏が2010年7月に創業し、米証券取引委員会(SEC)との折衝を経て、2012年に最初のオンライン・ファンドを公開。
公式サイトによれば、50万人以上の会員を抱え、米国内不動産への投資済総額は、約20億ドル(日本円にして2,000億円以上)に上るとされています(業務提携締結公開時点)。

公開された、「アメリカ非上場eREIT第1号ファンド」概要



引用元:OwnersBook

その後、オーナーズブック上で公開された、「アメリカ非上場eREIT第1号ファンド」は、想定利回りとして4.6パーセントを提示。最低1口50万円にて募集を行い、投資家合計356名から、3億円以上の資金を集め、投資実行が為されています。


参考:
US非上場eREIT第1号ファンド|オーナーズブック

延滞を起こしたアメリカンファンディングには要注意

上掲して参りましたように、国内ソーシャルレンディング事業者の中には、アメリカ関連ファンドを組成・公開している事業者が存在し、その中には、多数号の組成実績を有するシリーズ型ファンドも存在します。
ただし、国内ソーシャルレンディング・サービサーのうち、アメリカ関連案件を取り扱ってきた事業者の中には、アメリカンファンディングのように、大量の延滞ファンドを発生させたような事業者もあるので、注意が必要です。

アメリカンファンディングとは



引用元:アメリカンファンディング

”アメリカ不動産投資案件に特化したソーシャルレンディングサービス”として投資家を勧誘し、成立ローン総額は26億508万円(下記公式サイトより引用)。
融資先の管理はアメリカンファンディング株式会社(東京都新宿区新宿五丁目15番14号)が行っていた一方、募集取り扱い等については、ソーシャルレンディング・サービス「maneo」の運営会社でもある、maneoマーケット株式会社(東京都千代田区内幸町1-1-7)が行っていました。

アメリカンファンディングの延滞発生状況

アメリカンファンディング公式サイトによれば、アメリカンファンディングの累計貸付件数は全部で792件。このうち完済済が766件で、残りの26件が、2020年5月21日現在、延滞債権扱いとされています。
個別のファンドとしては、

などがあります。


※アメリカンファンディングについては、2019年4月16日に、運営会社にあたるmaneoマーケット株式会社から、新規募集・私募の取扱いの終了が報告されており、現在、新規ファンドの公開・募集等は行われていません。

アメリカ・ドルと日本円との為替には留意

アメリカ関連ファンドへの出資にあたっては、日本円建てではなく、「アメリカドル建て」にて出資・分配・償還が行われるケースが散見されますが、その場合、「アメリカドル/日本円」間の為替変動リスクについても、留意が必要となります。

出資時点よりも、償還時点のほうが、「円安・ドル高」となった場合

1ドル100円の時に、アメリカドル建てで、目標年利10パーセントのファンドに、10万円分の投資(=1,000ドル分)を行い、
その後、ファンドが予定通りの利回りを計上したうえで、無事に満期償還を迎え、
その償還時点で、「1ドル110円」の、「円安・ドル高」となっていた場合、
償還時に受け取る日本円は、1,000ドル×1.1×110円=12万1千円となります。
為替レートが動かなかった場合の分配金は、1,000ドル×1.1×100円=11万円だったはずですから、
12万1千円-11万円=1万1千円分の為替差益を得たこととなります。

出資時点よりも、償還時点のほうが、「円高・ドル安」となった場合

1ドル100円の時に、アメリカドル建てで、目標年利10パーセントのファンドに、10万円分の投資(=1,000ドル分)を行い、
その後、ファンドが予定通りの利回りを計上したうえで、無事に満期償還を迎え、
その償還時点で、「1ドル90円」の、「円高・ドル安」となっていた場合、
償還時に受け取る日本円は、1,000ドル×1.1×90円=9万9千円となります。
為替レートが動かなかった場合の分配金は、1,000ドル×1.1×100円=11万円だったはずですから、
11万円-9万9千円=1万1千円分の為替差損を被ったこととなるほか、
投資時の日本円元本が10万円であったことを考えれば、投資元本が(ファンドそのものは予定通りの利回りをあげたといえども)為替変動の影響により、毀損してしまったこととなります。


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