不動産クラウドファンディングにおける「特例事業」とは|SPC活用のメリット・デメリット、及び不動産特定共同事業法の改正から解説
不動産クラウドファンディングとは
宅地建物取引業者(不動産業者)が、不動産特定共同事業法に基づく許可を取得し、不動産取得のための資金をクラウドファンディング形式で調達、その後、取得した不動産から生じた利益を投資家に対して分配する行為を、「不動産クラウドファンディング」と言います。
近年の不動産特定共同事業法改正により、インターネットを通じた不動産特定共同事業契約の締結や、SPC(特別目的会社)に不動産を保有させることで不動産特定共同事業者の倒産リスクからファンドを隔離する「特例事業スキーム」などが解禁され、上場企業を中心に、不動産クラウドファンディング事業への新規参入が相次いでいます。
また、ソーシャルレンディング業界における不祥事等を原因として、高い期待利回りを求める個人投資家からの関心が、融資型クラウドファンディングから不動産クラウドファンディングへと移行しつつあり、ここ最近、特に活気が見られる投資分野でもあります。
不動産クラウドファンディングの仕組み
電子取引業務による不動産特定共同事業(=不動産クラウドファンディング)の基本的な仕組みとしては、概ね、下記の通りです。
- 宅地建物取引業者が、不動産特定共同事業法に基づく許可(※1)を取得し、「不動産クラウドファンディング事業者」となる。
- 不動産クラウドファンディング事業者は、自身のサービスサイト上で、ファンド情報を公開し、投資家からの出資を募集する。
- 投資家は、不動産クラウドファンディング事業者のホームページを通じて、希望するファンドへの出資申込を行う。出資が成立すると、不動産クラウドファンディング事業者と投資家との間で、不動産特定共同事業契約(※2)が電磁的に締結される。
- 不動産クラウドファンディング事業者は、投資家から募った資金を利用して、不動産を取得する。
- 不動産クラウドファンディング事業者は、取得した不動産から生じた賃料収入(インカムゲイン)や、取得した不動産の売却時に生じた売却益(キャピタルゲイン)を元手にして、投資家への分配を行う。
- 最終的には、不動産を売却・換価し、その売却代金をもって、投資家への元本償還を実施する。
(※1)不動産特定共同事業法上の許可は、第1号事業許可から第4号事業許可まで、4つの事業許可に分かれています。2021年7月現在、国内の不動産クラウドファンディング業界においては、不動産特定共同事業法の第1号事業許可に基づいたサービス運営が主流となっています。なお、本記事にて詳しくお伝えする「特例事業」スキームを活用する場合は、不動産特定共同事業法の第3号事業許可、及び、第4号事業許可が必要となります。
(※2)不動産クラウドファンディング業界において、不動産特定共同事業契約の具体的な契約形態としては、「匿名組合型」及び「任意組合型」の2種があります。国内の不動産クラウドファンディング・サービスの過半が、匿名組合型の契約形態を採用していますが、相続税の圧縮効果などを訴求すべく、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを展開しているケースもあります。詳しくは、下記の別記事を参照下さい。
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不動産クラウドファンディングにおける「匿名組合」「任意組合」とは
不動産クラウドファンディング活用のメリット
不動産クラウドファンディング事業に参入する不動産特定共同事業者、及び、不動産クラウドファンディング事業者の募集するファンドに対して出資する投資家にとっては、それぞれ、主に下記のようなメリットがあります。
不動産クラウドファンディング事業者側のメリット
まずは、不動産特定共同事業者側のメリットから確認します。
不動産事業者側のリスクを抑えて不動産投資を行うことが出来る
例えば、銀行から7,000万円の借り入れを行い、1億円の不動産を購入する場合、その後、不動産市況が急落し、取得した不動産の売却価額が、仮に5,000万円となってしまったとしても、不動産事業者としては、銀行に対し、7,000万円(及び、利息)の返済を行う必要があります。損失は5,000万円(1億円-5,000万円)となります。
しかし、不動産事業が不動産クラウドファンディングを活用し、投資家からの優先出資を9,000万円分(利回りは5パーセント)募り、自身は1,000万円のみ、劣後出資する場合、たとえ、不動産の売却価額が5,000万円となったとしても、不動産クラウドファンディング事業者自身の損失は1,000万円(=劣後出資した資金のみ)に留まります。
このように、不動産事業者としては、クラウドファンディングを活用することによって、極めてノンリコース性の高い資金調達を行うことが出来る、というメリットがあります。
また、自身が出資した劣後出資元本については、投資家の優先出資元本と比較し、元本毀損しやすい(=劣後出資分から元本毀損が始まる)というデメリットがありますが、もしもファンドに大きな残余利益が生じた場合、それを独占できる、というメリットがあります。
例えば、上記例で、1億円で取得した不動産が、運よく、1億3千万円で売却できた(及び、インカムゲインは生じなかった)と仮定します。
この場合、投資家への利払いは、9,000万円×5パーセント=450万円であり、劣後出資者である不動産特定共同事業者が収受できる利益は、1億3千万円-1億円-450万円=2,550万円に上ります。
これは、不動産クラウドファンディング事業者の劣後出資元本(1,000万円)に対して、250パーセント強の利回りに相当します。
自社開発の投資用不動産の新たな売却先の確保
数年前までは、サラリーマン投資家による現物不動産投資が一大ブームであり、地方銀行を中心とする銀行も、サラリーマン大家への、不動産担保融資(いわゆる、アパートローン)の貸出に積極的でした。
しかしながら、スマートデイズ問題や、スルガ銀行の不正融資問題、さらには、上場企業であるTATERUの融資資料改ざん問題などを契機に、銀行が、新規のアパートローン貸出に消極的となり、これが原因で、投資用不動産(アパートや、マンションなど)の開発・販売を本業としていた不動産事業者は、一気に、窮地に立たされることとなりました。
こうした状況下において、投資用不動産販売業者にとって、一筋の希望の光となりつつあるのが、不動産クラウドファンディングの活用です。
投資用不動産の開発・販売を行う不動産業者が、不動産特定共同事業法の許可を取得し、不動産クラウドファンディング投資家向けのファンドを組成、そして、そのファンドの投資対象不動産を、自社が開発した投資用不動産、とすることにより、従来型の販売手法では売り抜けることが出来なくなった投資用不動産の「新たな売却先」として、不動産クラウドファンディングのファンドを活用することが出来るようになります。
不動産投資に興味を持つ「見込み客」の獲得ツールとしてのクラウドファンディング活用
不動産クラウドファンディングに投資するユーザーの多くが、「不動産投資そのものには興味があるのだが、すぐに多額の投資資金を用意することが難しい。また、融資を受けたり、投資資金を数十年間かけて回収していくような投資モデルは、採用したくない」と考えています。
投資用不動産の開発・販売業者としては、不動産クラウドファンディングに参入することで、上記のような投資家を早期に囲い込むことによって、将来的に自社の投資用不動産を購入してくれる(かもしれない)、潜在的な投資ユーザーをリスト化・見込み客化したい、という思惑があります。
不動産クラウドファンディングに出資する投資家の期待メリット
逆に、不動産クラウドファンディング事業者の募集するファンドに投資する、投資家サイドには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
現物不動産投資と比べて手間がかからず、投資資金の回収期間も不要
投資家が現物不動産投資(アパート経営や、マンション投資等)を行う場合、
- 投資対象不動産の選定や、
- 実際の不動産の取得・購入手続き(登記手続き等を含む)、
- (物件が賃貸物件の場合、)入居者の募集・確保、
- 入居者からの賃料収受や、滞納者への対応、
- 物件の修繕・メンテナンス、
- 物件売却時の諸交渉・売却手続き
等々、様々な実務に対応する必要があります。
また、現物不動産投資の場合、数千万円以上の投資費用が必要となることも多く、賃料収入を原資にこれを回収する場合、短くとも10年間程度、長い場合は数十年間に渡る回収期間を必要とするケースが一般的です。
これに対し、不動産クラウドファンディングの場合(※)、不動産投資の実務については、匿名組合の営業者(=不動産クラウドファンディング事業者)側に一任することができます。
さらに、1万円~数万円程度の少額から投資を行えるほか、各ファンドの予定運用期間も、数ヶ月~1年程度で短期です。
(※)基本的には、匿名組合型の場合。ただし、任意組合型の場合でも、業務執行者(不動産特定共同事業者)を選任し、業務を執行させることが可能。
「ポイ活」などで貯めたポイントを、投資に利活用できるサービスもある
不動産クラウドファンディング・サービスの中には、投資家が、外部のポイ活サイト(「モッピー」や「ハピタス」など)で貯めたポイントや、クレジットカード利用で蓄積したポイントを、投資に活用できる機能を提供しているところもあります。
現預金を投資に用いることには慎重な投資家でも、さほどの労力を割かずに蓄積したポイントであれば、投資に回すことの心理的抵抗が小さい、というメリットがあります。
(匿名組合型の場合)投資家が自分で不動産を所有する必要が無く、「有限責任性」が確保されている
国内の不動産クラウドファンディング・サービスの大半が、投資家と不動産特定共同事業者との間の契約体系として「匿名組合型」が採用していますが、匿名組合の特徴として、事業参加者(匿名組合員)は、営業者の行為に関して、第三者への権利・義務を負わない、という点が挙げられます。
すなわち、匿名組合型の不動産クラウドファンディングに投資している限りにおいては、投資家が負うこととなる責任は、「自身が出資した資金の全額」が上限であり、それを上回る責任を負わされることは有りません。
※反面、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、投資家の有限責任性が確保されず、「無限責任」を負うこととなるケースもあるので、留意が必要です。
例えば、ファンドが取得した不動産の管理状況が不十分で、入居者に被害を与える事故等が生じてしまった場合、任意組合の組合員全員が、多額の賠償義務を負わさせることとなる可能性があります。
不動産クラウドファンディングのデメリット
ここまで見てきたように、不動産特定共同事業者、及び、事業参加者(投資家)、それぞれにとって、様々なメリットのある、不動産クラウドファンディングではありますが、反面、両者にとって、複数のデメリットも指摘されています。
※本記事では、以下、不動産クラウドファンディングのデメリットについて、あくまで端的に取り上げますが、不動産クラウドファンディングのデメリットに関して詳細は、下記の別記事を参照下さい。
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不動産投資クラウドファンディングのデメリットとは|元本割れリスク・出資中途解約不可など
不動産クラウドファンディング事業者側のデメリット
まずは、不動産クラウドファンディング事業に参入する不動産特定共同事業者側のデメリットから見ていきましょう。
資金調達コストが高い
不動産特定共同事業者が、不動産クラウドファンディングにて資金調達を行う場合、その調達コスト(金利)は、年率換算で5パーセントを上回ることも少なくありません。
これに対し、銀行から融資を受ける場合であれば、資金調達コストは年率1パーセント程度が相場です。
純粋な資金調達目的で考える場合、不動産クラウドファンディングで資金調達を行うことは本来非合理であり、銀行から融資を期待できる不動産を投資対象とするのであれば、通常通り、銀行からの資金調達を最優先に考えたほうが得策です。
※このため、不動産クラウドファンディングにて投資対象となる不動産は、自然、銀行融資が期待できないような物件(既存不適格物件や、借地権付きの土地物件、底地物件など)となりがちであり、この点は、最終的には、投資家にとってのデメリットのひとつとなります。
持分買取りに無条件に応じていると、自身のリスクがいや増していく
国内の不動産クラウドファンディング事業者の大半は、投資家に対し、出資の中途解約を「原則として不可」としています(※詳しくは後述)。
そのため、他の不動産クラウドファンディング事業者に対して差別化を図りたい新興事業者を中心に、投資家に対し、敢えて出資の中途解約(正確には、投資家の持分を不動産特定共同事業者が買い取る、持分買取)を可、としているケースがあります。
ただし、不動産クラウドファンディング事業者目線で見れば、不動産クラウドファンディング事業参入の最大のメリットのひとつが、「投資家の優先出資をレバレッジとして活用することで、自己のリスクを抑えて、新たな不動産投資を行う」ことであったはずなのに、投資家の(優先出資)持分の買取りを無条件に続けていると、自身の出資分(劣後出資に加えて、買い取った優先出資)がいや増していき、当該ファンドが失敗に終わった場合のリスクが大きく膨れ上がっていく、というデメリットがあります。
ソーシャルレンディング等と比較して、事業許可要件(参入の要件)が厳しい
日本の不動産クラウドファンディング事業者の大半が、不動産特定共同事業法の第1号事業許可に基づいてサービスを運営していますが、1号事業許可取得のためには、資本金1億円以上、などの、厳しい登録要件があります。
同じクラウドファンディング投資類型にある、ソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)展開のための必要許可として知られる「第二種金融商品取引業」の登録要件は「資本金1千万円」であることを考えると、不動産特定共同事業参入のハードルの高さが分かります。
投資家保護にも配慮が必要となる
不動産事業者が、自己資金のみを活用して不動産投資を行っている限り、不動産事業者としては、一(いち)民間・営利目的企業として、自身の利益の最大化(=株主利益の最大化)のみを志向していればよいわけですが、いざ、不動産特定共同事業に参入し、投資家からの資金調達を行う場合、不動産特定共同事業法の内容を遵守し、投資家保護のための諸要件を満たした業務運営を徹底する必要が生じることとなります。
(上場企業等と比較して)管理部門等の内部統制機能が整備されていない未上場企業にとっては、この点は、大きな負担となる場合があります。
不動産クラウドファンディングに投資する、投資家側のデメリット
続いては、不動産クラウドファンディング事業者が募集するファンドに対して出資する、不動産クラウドファンディング投資家の立場から見たデメリットを、整理してみましょう。
出資の中途解約が出来ない
国内の大半の不動産クラウドファンディング事業者が、出資の中途解約を「原則として不可」として、受け付けない姿勢を明朗にしています。
これは、大規模な経済変動や事件が発生した時に、多量の投資家から一斉に解約申請が殺到し、結果として、不動産クラウドファンディング事業者のキャッシュフローがショートしてしまうようなリスクを避けるための施策です。
また、一部の不動産クラウドファンディング事業者においては、投資家の出資持分の買取りを「可」としているケースがありますが、投資家においては、不動産クラウドファンディング事業者による出資の持分買取りは、あくまでも「時価」で行われることが原則である旨を承知しておく必要があります。
例えば、地方の1棟アパートを投資対象とするファンドに、1口1万円×10口、出資をしている、と仮定します。
- そのアパートが建っている地域に、大規模な災害が発生したり、
- そのアパートを建築した建築会社に、大規模な不正(手抜き工事等)があり、
- その不正工事が原因で、入居者に負傷者が出た、等という情報が、報道されたりすると、
そのアパートの「時価」は、少なくとも一時的に、大きく下落することとなります。
そして、投資家が出資の中途解約を行いたくなる時、というのは、まさに、上記のようにして、出資したファンドが投資対象とした物件が、何かのトラブルに巻き込まれたとき、というのが大半です(トラブルもなく、無事に償還される見込みであるファンドを、わざわざ早期に出資解約したい、と考える投資家は、稀)。
では、その時、不動産クラウドファンディング事業者が、当該投資家の出資持分を、1口1万円×10口=10万円で、額面通りに買い取ってくれるか、どうか、は、未知数です。
逆に、「時価が下落している以上、出資時の額面通りでの持分買取りは、してもらえない可能性が高い」と考えておいたほうが無難でしょう。
というのも、時価が下落しているにも関わらず、時価よりも高い値段(=出資時点の額面)で持分買取りを行えば、それは実質的に、監督官庁から「損失補填行為」と見做される可能性のある、かなり高リスクな行動であるため、です。
不動産クラウドファンディング事業者側との利益相反の可能性
不動産クラウドファンディング事業者のホームページなどでは、「不動産クラウドファンディング事業者自身も、投資家と同一の案件に共同・劣後出資するため、投資家と不動産クラウドファンディング事業者との間では、利益相反が生じづらい」などと宣伝されているケースも想定されますが、不動産クラウドファンディングは、そのスキーム上、いくつかの利益相反リスクを内包していますので、留意が必要です。
例えば、不動産特定共同事業者自身が、ファンドが取得する不動産のオリジネーター(現保有者)である場合、
- 不動産を、出来るだけ高値でファンドに譲渡したほうが、不動産事業者の売却益は高まりますが、投資家の期待利回りは低くなります。
- また逆に、物件をファンドに廉価に譲渡すれば、投資家の期待利回りは高まりますが、不動産事業者の売却益は小さくなります。
また、ファンドが取得した不動産に対して、かなり早期に、良値での買取り申し出が外部から為された場合、
- 劣後出資者である不動産クラウドファンディング事業者としては、高値で不動産を売却することを最優先したほうが、自身の残余利益は大きくなる可能性がありますが、
- 投資家としては、ファンドが早期償還されてしまえば、想定していた通りの分配金総額を受け取ることが出来なくなる(=ファンドの運用期間が短縮されるため)可能性があります。
このように、不動産クラウドファンディングにおいては、不動産クラウドファンディング事業者(不動産特定共同事業者)と事業参加者(投資家)との間で、利益相反が生じ得るシーンが複数、想定されますので、投資家においては、留意が必要です。
税務上の不利益、及び、法人口座開設不可の事業者も多い
不動産クラウドファンディングからの分配金利益は、所得の分類上「雑所得」に該当し、総合課税の対象とされています。
申告分離課税制度が利用できないため、給与所得等の大きい投資家の場合、累進課税の関係で、不動産クラウドファンディング分配金に対しても、高い税率が課せられて仕舞う可能性があります。
現物不動産投資では一般的な、(他の所得分野との)損益通算や、通算しきれなかった損失の、翌年以降への繰越控除も認められておらず、目下、(匿名組合型の)不動産クラウドファンディング投資に取り組むにあたっては、税務上のメリットは一切期待できない、というのが実情です(※)。
また、所得の高い投資家が、不動産クラウドファンディング分配金への実効税率を下げるべく、個人名義ではなく、自身が管理する法人(投資用のプライベートカンパニーを含む)名義にて、不動産クラウドファンディングへと投資しようとしても、目下、国内の複数の不動産クラウドファンディング事業者において、法人名義の投資口座開設が認められていないなど、弊害も少なくありません。
(※)ただし、任意型の不動産クラウドファンディングの場合、各投資家の出資持分が、相続財産評価において、「不動産」として評価されるため、資金を現金で持ち続ける場合と比較し、不動産の評価減が加味される関係上、相続税の圧縮効果を期待できる可能性があります。
なお、不動産クラウドファンディングに関する税務について詳しくは、下記の別記事を参照下さい。
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不動産投資クラウドファンディングで得た利益に、税金はかかるのか
不動産クラウドファンディングにおける「特例事業」とは
不動産クラウドファンディングの根拠法である不動産特定共同事業法が成立した当初(1994年時点)、同法にて定義される不動産特定共同事業は、現在でいう「1号事業」のみ、という状態でした。
1号事業の場合、ファンドは不動産特定共同事業者の内側に組成され、自然、ファンドが取得する不動産についても、不動産特定共同事業者の財産として取り扱われることとなります。
このため、1号事業者が、不動産特定共同事業以外の事業(不動産の開発事業や分譲事業、賃貸管理、マスターリース事業等)において失敗し、破産手続きに移行する場合、ファンドが保有する不動産についても、1号事業者の破産財団に組み入れられ、一連の破産手続きの中で、各債権者への支払い原資に充当されてしまう、という、制度上の課題がありました。
ある意味、事業参加者が、1号事業者のその他の事業の失敗リスクまで背負って投資している、と言ってもいいような状況に対し、リスクに敏感なプロ投資家(機関投資家等。資金力が大きいため、金融市場における存在感も段違いに大きい)は当然強い拒否反応を示し、このことが、不動産特定共同事業の拡大にとって、大きなハードルとなっていました。
そこで、2013年の不動産特定共同事業法改正によって、不動産特定共同事業者の外側に組成させるSPC(特別目的会社。合同会社の活用が一般的)に不動産を保有させ、ファンド運用者の倒産リスクから隔離させる、「特例事業スキーム」が解禁される運びとなりました。
さらに、解禁当初は、特例事業へと出資を行える投資家は、一部のプロ投資家に限定されていましたが、2017年の法改正で、軽微な修繕のみで運用できる完成物件を投資対象とする特例事業型ファンドに限っては、一般投資家でも投資できるよう、規制が緩和されました。
特例事業型の不動産クラウドファンディングの仕組み
特例事業型の不動産クラウドファンディングにおいて、宅地建物取引業者は、前提条件として、不動産特定共同事業法に基づく、第3号事業許可、及び、第4号事業許可を取得します。
- 第3号事業許可は、特例事業者(SPC)から、ファンドの資産運用の委託を受け、これを行う事業の許可であり、
- 第4号事業許可は、特例事業者(SPC)のファンドへの出資を募る、募集業務の実施許可に該当します。
その後、不動産特定共同事業者(3号事業&4号事業)は、自社の外部に、SPC(特別目的会社)を組成しうたえで、そのSPCから、ファンドの募集業務(投資家からの出資の募集業務)を受託(=第4号事業)し、実際にサービスサイトにて、投資家向けのファンド情報の掲載、並びに投資申込受付を行います。
その後、SPCは、投資対象不動産を取得し、不動産特定共同事業者(より正確には、3号事業者)に対し、不動産の運用を委託します。
3号事業者としては、SPCからAM報酬(アセットマネジメント報酬)を収受しつつ、不動産へのリーシング(入居者付け)や、バリューアップ、売却先との諸交渉等の運用業務を実施します。
国内の不動産クラウドファンディング・サービスの大半で利用されている、不動産特定共同事業法の1号事業スキームと異なり、
- 不動産を保有する(=不動産の所有者となる)のは、不動産特定共同事業者ではなく、あくまでも特例事業者(SPC)であり、
- 不動産特定共同事業者は、SPCから、投資募集業務、及び、取得した不動産の運用業務を受託するだけ、
という形態をとることが、特例事業スキームの最大の特徴です。
特例事業型の不動産クラウドファンディングのメリット
それでは、特例事業型の不動産クラウドファンディングを展開する場合、不動産特定共同事業者(不動産クラウドファンディング事業者)、及び、出資する投資家には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
不動産クラウドファンディング事業者側の、特例事業スキーム採用のメリット
まずは、不動産特定共同事業者(不動産クラウドファンディング事業者)側のメリットから確認します。
不動産のオフバランスが実現できる
特例事業型スキームを利用する不動産特定共同事業者にとって最大のメリットは、目下自社が保有している(=自社の貸借対照表に計上されている)不動産を、自社の外部にあるSPCに対して譲渡することによって、不動産のオフバランス(=BSからの除外)が実現できる点です。
特に上場企業にとっては、総資産利益(ROA)等の重要指標を底上げするためには、生産性の低い不動産を現預金に変え、より利益効率の高い資産分野へと再投資する(新規事業への設備投資等)ことが必要です。
このため、特に上場企業が不動産クラウドファンディング参入を検討する場合、不動産のオフバランスを主目的としているケースが多々あります。
SPCから、アセットマネジメント報酬を収受できる
不動産特定共同事業者(=3号事業者)は、SPCから、SPCの保有不動産の運用業務を受託します。
そして、その受託に伴い、SPCから、AM報酬(アセットマネジメント報酬)を収受することが一般的です。
AM報酬の料率は、運用不動産総額の数パーセント程度が相場であり、数件の運用報酬だけでは、とても、不動産特定共同事業に伴う管理費などのランニングコストをペイできませんが、ファンド(SPC)が数十件、数百件と積みあがってくれば、ひとつの収益上の柱として育てていくことも可能となります。
投資家に対して、倒産隔離をアピールできる
リスクに敏感なプロ投資家は、十分な倒産隔離の為されていない、不動産特定共同事業法1号事業型の不動産クラウドファンディングへの出資には消極的ですが、倒産隔離の充実した特例事業スキームを活用すれば、こうしたプロ投資家層に対しても、ファンド商品を訴求することが出来るようになります。
また、プロ投資家ほどにはリスクに対して敏感ではないものの、個人投資家の間でも、運用者の倒産リスクへの関心は高まりつつあり、個人投資家へのアピール材料としても、この倒産隔離性を利用できる可能性があります。
投資家から見た、特例事業型の不動産クラウドファンディングへの出資メリット
投資家目線から見ると、特例事業型の不動産クラウドファンディング・サービスへの出資のメリットとしては、ファンドが、運用者の倒産リスクから隔離されている、という点に尽きます。
特にプロ投資家の目線から見ると、倒産隔離が図られている、という点は、投資対象としての最低条件でもあり、重要視されるポイントです。
しかし、近年、国内の不動産クラウドファンディング業界では、資金力の大きい上場企業の参入も相次いでおり、一般個人投資家からすると、
「わざわざ特例事業型の不動産クラウドファンディング・サービスにこだわらずとも(=1号事業型の不動産クラウドファンディング・サービスであったとしても)、運営会社が上場企業であれば、そもそも、倒産リスクは度外視して差し支えないのではないか」
と考える向きがあっても、不思議ではありません。
特例事業型の不動産クラウドファンディングのデメリット
1号事業型ではなく、特例事業型の不動産クラウドファンディングには、固有のデメリットも存在します。
不動産クラウドファンディング事業者サイドから見た、特例事業型のデメリット
1号事業型と比べて、コストがかかるほか、許可取得のハードルが高い
特例事業型の不動産クラウドファンディングを展開するためには、当然、不動産を保有させるSPC(合同会社の活用が一般的)の設立・維持コストを負担する必要が生じます。
また、不動産特定共同事業法第4号事業の許可を取得するためには、前提条件として、第二種金融商品取引業の登録を事前取得しておく必要があり、ハードルは低くありません。
一般個人投資家には、倒産隔離のありがたみが伝わりづらい
プロ投資家にとっては最低条件ともいえる倒産隔離ですが、個人投資家には、いまひとつ、その重要性が伝わりづらい、という難点があります。
特に、ここ最近、不動産クラウドファンディング業界では、資金力の大きい上場企業の参入が相次いでおり、投資家においても、
「上場企業が直接運営するサービスを選択しておけば、たとえそのサービスが、特例事業型ではなく、1号事業型の不動産クラウドファンディングであったとしても、事実上、倒産リスクは無視できるのではないか」
と考える風潮が見受けられます。
投資家目線から見た、特例事業型の不動産クラウドファンディングのデメリット
投資家の立場から見ると、そもそも、特例事業型の不動産クラウドファンディングを展開している事業者が僅少であり、
- 不動産クラウドファンディング事業者選びや、
- 具体的な出資先ファンド選びにおいて、
選択肢が少ない、という点が、最大のデメリットとなります。
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