不動産クラウドファンディングにおける「匿名組合」「任意組合」とは
目次
不動産クラウドファンディングとは
宅地建物取引業者(不動産事業者)が、不動産特定共同事業法に基づく許可を取得し、新たな不動産取得のための資金を、インターネットを介したクラウドファンディング形式に拠って、投資家から調達、その後、取得した不動産から生じたインカムゲイン(賃料収入)やキャピタルゲイン(売却益)を元手にして、事業参加者(投資家)への利益分配を行うビジネス・モデルを、「不動産クラウドファンディング」と言います。
近年の不動産特定共同事業法改正により、
- (紙ベースでの郵送交付を行わない、)オンラインでの契約締結・書面交付や、
- 特例事業者(SPC)に不動産を保有させることで、運営者の倒産リスクから隔離する、特例事業スキームなどが解禁され、
国内証券市場の上場企業を含む、多数の不動産事業者が、不動産クラウドファンディング事業への新規参入を進めています。
投資家の目線からも、従来型の不動産投資(=現物不動産投資)とは異なる、新たな不動産投資スキームとして注目を集めつつあり、昨今、急速に累計調達額を伸ばしつつある投資分野でもあります。
そんな不動産クラウドファンディングにおいて、不動産特定共同事業者(=不動産事業者)側と、事業参加者(=投資家)との間で締結される契約モデルには、「匿名組合型」と「任意組合型」の2種があります。
本記事では、「匿名組合型の不動産クラウドファンディング」と、「任意組合型の不動産クラウドファンディング」とを比較し、両者のメリット・デメリット、及び、各投資家の性格(投資目的や、資産の多寡等)によって、選択すべき不動産クラウドファンディング・スキームについて述べて参ります。
(※)不動産クラウドファンディングの基本的な仕組み、及び、各ステークホルダーにとってのメリット・デメリット・リスク等については、下記記事を参照下さい。
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【2021年7月更新】不動産クラウドファンディングとは?|不動産クラウドファンディングのメリット・デメリット・リスクから徹底解説。上場企業運営サービスも
不動産クラウドファンディングにて活用される「匿名組合」とは
国内で展開されている、オンライン型の不動産クラウドファンディング・サービスの過半で採用されているのは、「匿名組合型」の契約体系です。
不動産特定共同事業者は、当該匿名組合の「営業者」となり、事業参加者(投資家)は、「匿名組合員」となります。
匿名組合の法規制
匿名組合を法的に定義しているのは、商法第535条です。
同条によれば、「匿名組合契約は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる」ものとされています。
- 資金を出資する側(=投資家)と、
- 出資を受けた資金を活用し、営業を行う側(=営業者)、という、
2者間での契約形態であることが特徴です。
例えば、不動産クラウドファンディングの場合、1つのファンドに、数百名以上の投資家が出資を行うことがありますが、匿名組合型が採用されている場合、各投資家1人ずつと、不動産特定共同事業者との間で、相対で、匿名組合契約が締結されます。その一方で、各匿名組合員同士(=投資家同士)の間では、契約関係は存在しません。
匿名組合における投資家の責任範囲
匿名組合において、投資家(匿名組合員)の責任の上限は、その投資家の出資額の全額、とされます。
これは、商法第536条で、「匿名組合員は、営業者の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しない」ことが定められていることに拠ります。
例えば、1人の投資家が、特定のファンドに対し、10万円分の匿名組合出資を行った場合、そのファンドが、どれだけ巨額の損失を抱えようとも、その投資家が負うこととなる責任の上限は、自身が出資した「10万円」まで、となります。投資家が、自身の出資額を上回る責任を問われることは、匿名組合型の場合、有りません。
匿名組合型において、ファンドが取得する財産の帰属
匿名組合型の場合、ファンドが取得する不動産の所有者は、その匿名組合の営業者、すなわち、不動産特定共同事業者となります。
これは、商法第536条の第1項、「匿名組合員の出資は、営業者の財産に属する」との明文規定によるものです。
匿名組合員(投資家)は不動産を保有することが出来ず、結果として(後述する通り)相続税の圧縮効果を享受することが出来ません。
ファンドの事業の執行権
匿名組合型の場合、投資家は、ファンドの事業運営に対して参与する権利(執行権)を持ちません。
これは、商法第536条第3項、「匿名組合員は、営業者の業務を執行し、又は営業者を代表することができない」との明文規定によるものです。
執行権はファンドの営業者(不動産特定共同事業者)が独占しますから、投資家においては、たとえ、不動産特定共同事業者のファンド運営に対して異議があったとしても、その意見をファンド運営に反映させることは出来ません。
※匿名組合員は、ファンドの計算書類の閲覧を請求する権利のみを保有します。
匿名組合型ファンドにおける、二重課税の回避
例えば、株式会社型のファンドが組成される場合、ファンドの利益について、
- まずはビークルにあたる株式会社が法人税を課せられ、
- その税引き後利益の中から、投資家への分配を実施、
- そして、分配を受けた投資家においても、所得税・住民税等を支払う必要があり、
ここに二重課税が生じます。
その点、匿名組合型のファンドの場合、ファンドの営業者は、投資家への分配金を、自身の損益計算において損金算入します(=営業者の時点では課税関係が生じない)。その後、分配金を受け取った投資家が、所得税・住民税を支払うのみ、ですので、二重課税は生じません(=ペイ・スルー方式による二重課税の回避)。
匿名組合型ファンドへの出資持分の、相続財産としての評価
匿名組合型ファンドへの出資持分は、投資家の相続財産としての評価時には、「金銭債権」として評価されます。
例えば、匿名組合型ファンドに対して100万円の出資を行っている場合、その出資持分は、出資時の額面通り「100万円」として評価されることとなり、現物不動産投資を行っている場合のような、相続税の圧縮効果を期待することは出来ません。
不動産クラウドファンディングにおける「任意組合」とは
上述した通り、国内の不動産クラウドファンディング・サービスの過半は、匿名組合型の契約形態にて営まれていますが、ごく稀に、任意組合型の契約形態を採用している不動産クラウドファンディング事業者が存在します。
任意組合の法的定義
任意組合について法的な定義を行うのは、民法第667条です。
同条によれば、「組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる」ものとされており、匿名組合のような、
- 事業の運営者(営業者)と、
- 出資のみを行う事業参加者(投資家)、
という区分はありません。
あくまでも、各組合員が互いに平等な立場で事業に参画するのであって、互いの契約関係についても、
- 匿名組合契約の場合、匿名組合の営業者と、匿名組合の組合員との間の個別契約でしたが、
- 任意組合契約の場合、すべての組合員が、互いに組合契約上の権利・義務を有している、
という体系が取られることとなります。
なお、任意組合への出資にあたっては、「現物出資」「金銭出資」「労務出資」の3種が可能とされていますが、不動産クラウドファンディングの場合、基本的には「金銭出資」か、(不動産特定共同事業契約締結の直前に、不動産特定共同事業者から不動産の共有持分を購入し、即座にその共有持分を出資する、)「現物出資」の体裁が取られることが多いようです。
任意組合員の責任範囲
匿名組合型の場合、匿名組合員の責任は、その投資家が出資した資金の全額まで、とされる「有限責任性」が確保されていますが、任意組合型の場合、基本的には、そのような有限責任性は確保されておらず、原則として、各組合員は、組合の事業の責任について、無限責任を負っています。
例えば、1口100万円の出資を集める、任意組合型のファンドに、1口(100万円)を出資した、とします。
そのファンドが、結果として1億5千万円の損失を抱えることとなった場合、1口あたりの損失は150万円(1億5千万円÷100口)となり、もともとの出資金を超過してしまうこととなるリスクがあります。
国内の不動産クラウドファンディング・サービスの大半で、(任意組合型ではなく)匿名組合型が採用されている理由のひとつは、この、「有限責任性の有無」と言われています(=個人投資家の多くが、無限責任を負うこととなるリスクを忌避する傾向がある)。
任意組合型ファンドの財産帰属
上述の通り、匿名組合型ファンドの場合、ファンドが集めた資金や、ファンドが取得する不動産の所有者は、ファンドの営業者、すなわち、(不動産クラウドファンディングの場合は、)不動産特定共同事業者、となります。
しかし、任意組合型の場合、ファンドの財産は、全組合員の共有財産として取り扱われることとなります。
このことは、民法第668条にて、「各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する」と明文規定されていることに拠ります。
※ただし、任意組合型の場合でも、各組合員は、自身の判断で、自由に自身の持分を外部に売却したり、処分したりすることは出来ません。
任意組合型ファンドの業務執行権
匿名組合型の場合、業務の執行は、匿名組合の営業者(不動産クラウドファンディングの場合、不動産特定共同事業者)が行いますが、任意組合型の場合、業務の執行は、組合員の過半数にて決することとなります。
ただし、任意組合契約で業務執行を業務執行者に委任した場合は、その業務執行者の多数決で業務を決することとなります(いずれも、民法第670条の明文規定による)。
不動産クラウドファンディングの場合、基本的に、不動産特定共同事業者(不動産クラウドファンディング事業者)が、単独で業務執行者に任命され、業務を執行することとなります。
任意組合型ファンドにおける二重課税の回避
匿名組合型ファンドでは、匿名組合の営業者が、組合員への分配金を損金算入することで二重課税を回避する、ペイ・スルー方式が利用されますが、任意組合型ファンドの場合、ファンドの利益や損失が各組合員に直接帰属する、「パス・スルー方式」によって、二重課税が回避されています。
任意組合型ファンドの持分の、相続財産としての評価
任意組合型ファンドへの出資持分(資産)は、相続財産としての評価においては「不動産」として評価されます。
匿名組合型の場合、持分は金銭債権として評価され、相続税の圧縮効果は期待できませんが、任意組合型ファンドの場合、現物不動産投資の場合と同様、評価減による相続税の圧縮効果を期待することが出来ます。
この点は、任意組合型ファンドの最大のメリットのひとつと解されており、国内で任意組合型ファンドを募集している不動産クラウドファンディング事業者の多くが、その投資メリットとして、相続税の圧縮効果を挙げています。
匿名組合型の不動産クラウドファンディングのメリット・デメリット
主に事業参加者(投資家)の立場から見ると、匿名組合型の不動産クラウドファンディングには、任意組合型の不動産クラウドファンディングと比較し、下記のようなメリット・デメリットが存在します。
匿名組合型の不動産クラウドファンディングのメリット
まずは、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスへと投資する場合のメリットから確認していきましょう。
優先出資者の出資元本を保護する、優先劣後スキームが採用されている
匿名組合型を採用している不動産クラウドファンディング・サービスの大半で、不動産特定共同事業者による劣後出資で、事業参加者の優先出資元本を保護する、優先劣後スキームが活用されています。
ファンドの運営に損失が生じたとしても、その損失が、匿名組合営業者の劣後出資幅までに収まれば、匿名組合員の優先出資元本が元本割れを免れる、というスキームであり、主に投資家保護の観点から、不動産クラウドファンディング投資家側にメリットがあります。
なお、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスにおいては、原則として優先劣後スキームは採用されておらず、ファンドに損失が生じれば、その損失は、組合員全体で、各出資者の持分の多寡に応じて、被ることとなります。
匿名組合型のほうが、ファンドの運用期間が短い
匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、各ファンドの運用期間は、短ければ数ヶ月、長くとも1年~2年程度、とされています。
これに対し、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、ファンドが予定している運用期間が長いのが特徴です。
任意組合型が利用している不動産クラウドファンディング・サービスとして知られる「Good Com Fund」の第1号ファンドとして、2020年7月から募集開始となったプロジェクトの場合、運用期間を約15年と設定しているほか、東証一部上場である株式会社インテリックスが運営にあたる不動産特定共同事業「アセットシェアリング」にて募集された「アセットシェアリング北千住駅前」案件の場合、運用期間は30年とされています。
相続税対策などを目的としない、一般的な個人投資家の場合、基本的には、資金が長期間拘束されることのない、短期運用型のファンドを好む傾向があります。
このため、ファンドの運用期間が概ね短期である、という点は、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスのメリットと言えます。
匿名組合型の場合、事業者、及び、ファンドの選択肢が豊富
国内では、目下、多数の宅地建物取引業者(不動産事業者)が、不動産特定共同事業法の許可を取得し、不動産クラウドファンディング事業に参入していますが、その大多数は、投資家の有限責任性が確保される(※後述)、匿名組合型の契約形態を採用しています。
このため、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスと比較して、参入している不動産特定共同事業者の数量自体が豊富ですし、その結果、提供・公開されているファンドの数量・選択肢もまた、豊富です。
投資家の有限責任性が確保されている
匿名組合の場合、匿名組合員(投資家)は、営業者(不動産クラウドファンディングの場合、不動産特定共同事業者)の行為について、第三者に対して権利及び義務を有しないことが、商法第五百三十六条第4項にて明文規定されています。
営業者がファンド運営に失敗し、その結果、ファンドに巨額の損失が生じてしまったとしても、匿名組合員としては、自身が出資した全額の毀損を受け入れれば、それ以上の責任を問われることは有りません。
この点は、任意組合型と比較した場合の、匿名組合型の不動産クラウドファンディングの最大のメリットのひとつです。
匿名組合型の不動産クラウドファンディングのデメリット
続いて、任意組合型と比較した、匿名組合型の不動産クラウドファンディングのデメリットを確認して参りましょう。
相続税の圧縮効果が期待できない
匿名組合型の不動産クラウドファンディングに対して出資する場合、その出資持分は、相続財産評価において、「金銭債権」として評価されます。
現物不動産投資や、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合と異なり、不動産の評価減は加味されませんから、相続税の圧縮効果を期待することは出来ません。
SPCを活用した特例事業スキームでない限り、運営者の倒産リスクから隔離されない
国内の不動産クラウドファンディング・サービスの過半は、匿名組合型、かつ、不動産特定共同事業法の第1号事業許可に基づいて運営されています。
1号許可に基づくファンド運営の場合、ファンドは1号事業者(ファンドの資産運用者)の内部に組成される関係で、ファンドが取得する不動産についても、1号事業者の所有物となります。
このため、不動産特定共同事業者が、1号事業以外の事業(例えば、不動産の開発事業や、売買事業、投資用不動産の販売事業等)で失敗し、多額の債務を抱えたままで経営破綻した場合、1号事業者の所有する不動産についても、当然、不動産特定共同事業者の破産財団に組み入れられ、一連の破産手続きの中で、換価・処分されてしまうこととなります(=倒産隔離が為されていない)。
3号事業許可、及び4号事業許可に基づく特例事業スキームを利用すれば、ファンドの資産は特例事業者(SPC)が保有するため、運用者の倒産リスクからは隔離されますが、
- SPC(特別目的会社。合同会社が利用されることが一般的)の設立コスト・維持コストがかかるうえに、
- 4号事業許可取得のためには、第二種金融商品取引業の登録を得ていることが必須条件とされている等、ハードルが高く、
目下、国内の不動産クラウドファンディング業界においては、積極的に活用されている様子はありません。
任意組合型の不動産クラウドファンディングのメリット・デメリット
続いて、任意組合型の不動産クラウドファンディングへと投資する場合のメリット・デメリットを、匿名組合型のケースと比較しながら、確認して参りましょう。
任意組合型の不動産クラウドファンディング投資のメリット
まずは、任意組合型の不動産クラウドファンディングへと投資するメリットから見ていきます。
相続税の圧縮効果を期待できる
上掲の通り、匿名組合型の不動産クラウドファンディングへの出資持分は、相続財産評価としては「金銭債権」に該当しますが、これに対し、任意組合型の不動産クラウドファンディングへと投資する場合、その出資持分は、相続財産としての評価にあたり、「不動産」として評価されます。
このため、現物不動産投資等と同じように、不動産の評価減を加味することが出来るため、投資家においては、相続税の圧縮効果を期待できることとなります。
この「相続税の圧縮効果」は、任意組合型の不動産クラウドファンディングへと投資する、最大のメリットのひとつです。
相続税を圧縮するために、現物不動産投資に取り組む富裕層投資家は少なくありませんが、その場合、数千万~数億円程度のキャッシュを、不動産投資のために用立てる必要があります。
この点、任意組合型の不動産クラウドファンディングに投資するだけであれば、数十万円~数百万円程度の少額から、相続税対策に取り組むことが出来るため、投資家にとってはメリットとなります。
不動産特定共同事業者の倒産リスクからの隔離効果が期待できる
匿名組合型の不動産クラウドファンディング(1号事業)の場合、ファンドが取得する不動産の所有者となるのは、不動産特定共同事業者です。
これに対して、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、ファンドとして取得する不動産は、全組合員の共有財産として取り扱われることとなります。
たとえ、任意組合の業務執行者である不動産特定共同事業者が経営破綻したとしても、その他の組合員の保有する持分については、破産者の資産とは見なされないため、自然、運営者の倒産リスクから、隔離が為されることとなります。
任意組合型の不動産クラウドファンディング投資のデメリット
続いて、任意組合型の不動産クラウドファンディングのデメリットを確認して参りましょう。
匿名組合型と違い、優先劣後スキームが採用されていない
任意組合型の不動産クラウドファンディングにおいては、匿名組合型のような「優先劣後スキーム」は利用されないことが一般的です。
任意組合において、各組合員の出資持分は、1口ずつ、公平に評価されることが原則であるところ、もし、「優先出資」と「劣後出資」の区別をつけてしまえば、互いの出資持分の均質性に、疑義が生じてしまうことが原因です。
優先劣後スキームが採用された不動産クラウドファンディング(匿名組合型)の場合、たとえ、ファンドの運営に損失が生じたとしても、その損失が、不動産特定共同事業者の劣後出資額未満に収まれば、事業参加者(投資家)の優先出資元本は毀損を免れますが、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、優先劣後スキームが採用されていない関係上、ファンドに損失が生じれば、即、事業参加者の出資元本についても、毀損してしまうこととなります。
任意組合型のファンドの運用期間は長い
匿名組合型の不動産クラウドファンディングの場合、各ファンドの運用期間は、数ヶ月から半年、1年程度の、比較的短期とされていることが一般的ですが、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、各ファンドの運用期間は、10年間を超える長期となることも珍しくありません。
その間、出資の中途解約が認められないサービスも存在しますので、資金の流動性(=出資を速やかに中途解約できる権利を保有すること)を重視している投資家にとっては、この点は、大きなデメリットとなります。
任意組合型の場合、各ファンドへの最低投資額が大きい
匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、各ファンドへの最低投資額は、1万円~数万円程度の少額に設定されていることが大半です。
これは、匿名組合型の不動産クラウドファンディング事業者の多くが、投資用不動産の開発・販売等の本業を別途有しており、不動産クラウドファンディング事業参入の狙いを、「将来的に自社の投資用不動産を買ってくれそうな、見込み客の獲得」としているため、投資家から人気を得やすい、「少額から投資できる、運用期間の短い、高利回りファンド」を組成・訴求する傾向があるため、です。
これに対し、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、各ファンドへの最低投資額が、小さくとも10万円程度、高額な場合は100万円、と設定されていることが多くあります。
これは、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスが、自社利用の最大のメリットとして「相続税の圧縮効果」と提示しており、基本的には、資産形成過程の若年投資家よりは、相続税対策に取り組む富裕層個人をターゲットとしていることにも起因しています。
任意組合では、匿名組合と違って、投資家の有限責任性が確保されていない
匿名組合型の不動産クラウドファンディングの場合、匿名組合員の責任は有限責任(=出資全額が上限)とされていますが、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、このような上限設定は為されていません。
民法第675条では、組合に対して債権を持つ者(債権者)は、その債権の発生の時に、各組合員の損失分担の割合を知らなかったときは、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる、という旨が明文規定されており、組合に対して債権を持つ債権者の保護が図られています。
組合員が無限責任を負う、という点は、任意組合型の不動産クラウドファンディングの最大の弱点のひとつと言われており、国内の不動産クラウドファンディング・サービスの過半が、投資家の有限責任性が担保された、匿名組合型の契約体系を採用していることの、ひとつの要因とされています。
任意組合型の場合、匿名組合型と比較し、事業者・ファンドの選択肢が少ない
目下、国内の不動産クラウドファンディング・サービスの大半で、匿名組合型の契約形態が採用されており、任意組合型の不動産クラウドファンディング事業を展開している不動産特定共同事業者は、限られます。
自然、任意組合型の契約を利用できるプロジェクト・ファンドも限定的であるため、投資家においては、多様な選択肢の中から、自身の投資目的にあった任意組合型の不動産クラウドファンディング案件を探索・選択することは、事実上、容易ではない状況です。
匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスがおすすめされる投資家
任意組合型ではなく、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを選択することがおすすめされる投資家層としては、下記のようなユーザーが想定されます。
投資家の出資元本の安全性を重視したい投資家
匿名組合型の不動産クラウドファンディングの場合、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスと違って、投資家の優先出資元本を一定程度まで保護する、優先劣後スキームが採用されていることが一般的です。
優先劣後スキーム採用済ファンドへと投資したい、と考えている投資家の場合は、任意組合型ではなく、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを選択するほうが適しているでしょう。
※ただし、優先劣後スキームが採用されたファンドであったとしても、ファンドの損失が、営業者の劣後出資額を超過してしまった場合、事業参加者の優先出資元本についても、当然、毀損してしまうこととなります。
また、営業者の劣後出資の具体的な「幅」(割合)については、不動産特定共同事業法等において明文規定がありません。
このため、実際の劣後出資幅は、事業者・ファンドによって様々ですから、留意を要します。
少額から不動産投資を始めてみたいユーザー
任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、最低投資額が10万円~100万円程度とされていることが多くありますが、反面、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、最低投資額は1万円程度の少額に設定されていることが一般的です。
多額の投資用資金を要する現物不動産投資ではなく、数万円程度の少額から投資できる、という点に、不動産クラウドファンディングのメリットを見込んでいる投資家の場合、任意組合型ではなく、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを利用することがおすすめです。
長期の資金拘束を忌避する投資家
匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、各ファンドの運用予定期間は、数ヶ月~1年程度とされていることが一般的ですが、任意組合型の場合、10年間以上の長期間運用を予定していることも珍しくありません。
匿名組合型も、任意組合型も、出資の中途解約が原則として出来ない(とされている事業者がある)点は共通していますから、資金の長期拘束を嫌う投資家は、基本的に、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを活用したほうが得策です。
※ただし、匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合でも、投資対象不動産の売却が奏功しない場合等において、ファンドの運用期間が、営業者の判断により、延長となるリスクがあります。
多数の事業者・ファンドの中から、投資先を検討・選択したい人
国内の不動産クラウドファンディング業界において、任意組合型の契約体系を採用している事業者・サービスは限られますが、反面、匿名組合型の契約形態をとっている不動産クラウドファンディング事業者は、多量に存在します。
匿名組合型に限って言えば、上場企業・非上場企業を問わず、目下、続々と新規参入が相次いでいますので、多数の不動産特定共同事業者、及びファンドの中から、自分の投資目的にあった投資先を選びたい、という投資家は、任意組合型にこだわることなく、匿名組合型の不動産クラウドファンディング事業者への投資を視野に入れたほうが良いでしょう。
任意組合型の不動産クラウドファンディングがおすすめされる投資家
国内の不動産クラウドファンディング業界において主流である、匿名組合型ではなく、あえて、任意組合型の不動産クラウドファンディング・サービスを利活用することがおすすめされる投資家としては、下記のようなユーザーが挙げられます。
相続対策として、不動産クラウドファンディングの活用を検討している投資家
匿名組合型の不動産クラウドファンディング・サービスの場合、各ファンドへの出資持分は、相続財産評価において、「金銭債権」として評価される関係上、相続税を圧縮する効果は期待できません。
その点、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合であれば、ファンドへの出資持分は、相続財産評価時に「不動産」として評価されますから、不動産の評価減が加味され、結果としての、相続税の圧縮効果が期待できます。
純粋な投資目的、というよりは、相続税対策として、不動産クラウドファンディングの活用を検討している投資家の場合、検討俎上にのるのは、匿名組合型ではなく、任意組合型の不動産クラウドファンディングとなりましょう。
営業者からの倒産隔離を重視する投資家
不動産クラウドファンディングの一般的類型として利用されている、匿名組合型の不特法1号事業スキームの場合、ファンドは1号事業者の内部に組成され、ファンドが取得する不動産の所有者も、自然、1号事業者となる関係上、1号事業者が経営破綻した場合、ファンドの投資対象不動産についても、1号事業者の破産手続きの中で処分されることとなります。
この点、任意組合型の不動産クラウドファンディングの場合、たとえ1号事業者が経営破綻したとしても、その他の組合員の共有財産からは区別されているため、1号事業者の破綻リスクからは、原理上、隔離されています。
※なお、匿名組合型の不動産クラウドファンディングの場合でも、不動産特定共同事業法の3号事業許可及び4号事業許可を用いた「特例事業スキーム」の場合、運用者(特例事業者から運用の委託を受ける1号事業者)の倒産リスクからは、隔離されています。
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