日本のFIREの問題点|日本版FIREが「無理」「無謀」と言われる理由とは
日本人には無理?若年サラリーマンに話題のFIREとは
FIREは、「Financial Independence, Retire Early」の略。
(会社からの)経済的な独立をいち早く確立し、定年まで会社に勤めるのではなく、できるだけ若いうちに早期退職を済ませ、その後、悠々自適のセカンドライフを楽しもう、というライフスタイル志向を指すムーブメントです。
一般の会社員がFIREを達成するにあたっては、主に、下記のような5つのステップを踏むことが一般的です。
①自分が目指すFIREを決める
日本ではあまり知られていませんが、FIREムーブメントの発祥の地であるアメリカでは、FIREには、大きく分けて、下記の4つの種類があると言われています
ファットFIRE
FIRE達成後も生活水準を落とすことなく、まさに絵に描いたような、悠々自適のセカンドライフを、経済的なゆとりを持って楽しもう、というのが、こちらのファットFIREの基本的な考え方です。
当然、資産運用で確保すべき利益も大きなものとなりますので、そのためには、巨額の投資資金元本が必要となり、実際問題として、ファットFIREを達成できるのは、一部の「超富裕層」と呼ばれる人々に限定される(=一般的な会社員には、事実上無理)、と言うのも実情です。
リーンFIRE
リーン(Lean)とは、「引き締まった、無駄のない」と言う意味の英語です。
前述のファットFIREとは異なり、FIRE達成後の生活費を、極限まで切り詰めることによって、莫大な運用資産元本を貯蓄することなく、できるだけ早期にFIREを達成しよう、と言う考え方を指します。
ミニマリストと言われるような人々にとっては、あまり苦にならないFIREスタイルともいえますが、これまで、特に節約に熱心に取り組んだことがない家庭にとっては、FIRE達成後の、爪に火をともすような節約生活は、多大な苦痛となる(そもそも現実的に無理)可能性もあり、このタイプのFIREを目指す場合は、事前に家族間で十分な協議を行うことが必要とされています。
バリスタFIRE
FIRE達成後も、就労を完全に止めてしまうのではなく、心身ともに負担の大きい本業からはアーリーリタイヤを済ませた上で、あまりストレスの強くないパートタイムジョブ等に就き、毎月数万円から十数万円程度の収入を稼ぎ、生活費を補填することを前提とするのが、こちらのバリスタFIREです。
FIRE達成後も、ある程度の収入が見込まれることで、FIRE達成にあたって必要な資産元本もさほど大きくなくて済み、一般的なサラリーマンであっても、ある程度現実的に取り組みやすいFIREといえます。
コーストFIRE
例えば、完全なリタイアのために、1億円を貯めなければならない、と考えている投資家がいた場合、逆算して、その15年ほど前に、半額に相当する5千万円を貯めることができれば、その後の15年間で、年率換算5パーセントで複利運用を成功させることができれば十分、と考えることが出来ます(年率5パーセントで複利運用すれば、資産は15年間で倍増する計算となります)。
このように、最終的なリタイアのために必要な資金額をあらかじめきちんと計算し、その額に対して(無理のない運用をしていけば)自然と達するような投資元本の蓄積を済ませた状態を、コーストFIREと表現します。
数学的には、ある程度の説得力があるFIREスタイルと言えますが、実際に資産運用が目論見通りにいかない場合、想定通りのFIREが達成できなくなる可能性もあると言う点に、注意が必要です
②FIRE達成に向けて、まずはじっくりと、無理のない計画を練る
前述した、4つのFIREスタイルの中から、自分(及び、配偶者や、子供を含めた家族)の生活レベル・考え方などに適合するものを選び、その上で、
- 毎月どの程度の金額を稼ぎ、
- 月々の出費をどの程度に抑えたうえで、いくらと貯蓄に回し、
- その後、どの程度の利回りで運用すれば、
- いつ頃までに、何らかのFIREを達成することができそうなのか、どうかを、
あらかじめ、綿密に計算し、シミュレーションする必要があります(緻密な計算無しにFIREに踏み切ることは、文字通り、無謀です)。
自分たちだけで充分に正確な計算を行うことが難しい場合は、ファイナンシャルプランナーや税理士、会計士等といった、「お金のプロ」に相談することも、有効な手立てとなります。
参考:
FIRE(早期退職)実現のためには、結局、いくら必要なのか|毎月の貯金額も検討
③しっかり稼ぐ
FIRE達成に向けては、(いささか逆説的内容ではありますが)今の仕事で、まずはしっかりと「稼ぐ」ことが最重要課題となります。
現在の勤務先に、昇給・昇進等に関する内部規定がある場合は、その規定内容をしっかりと読み込み、できるだけ早期に、十分な昇給・昇格を勝ち取れるように、資格取得なども含めて十分に、努力する必要があります。
また、現在の勤務先では、十分な昇給・昇格が見込めないと言う場合は、転職や副業も含めて、積極的に「稼ぐ力」を身に付けていく必要があります。
④貯める・殖やす
昇給や昇格、副業への取り組みや転職活動によって、十分な所得を得たとしても、その所得を湯水のように使ってしまっていては、いつまでも、FIREに必要な資産元本を構築することが出来ない、という問題が残ります。
FIRE達成を現実的なものとするためには、日々の生活にかかるコストを徹底的に見直し、収入のうち、できるだけ多くの割合を、貯蓄に回していく(=収入に占める「貯蓄率」を高める)必要があります。
日々の、地道な節約・倹約が、ものを言う、というわけです。
また、節約してお金を貯めるだけでは、FIREに達成な資金量を貯める事は容易ではありません。
FIRE達成を1日でも早めるためには、貯蓄した資金を、少しでも早く運用に回し、「お金にも働いてもらう」ことが必要となります。
現に、FIREを希望する会社員の多くが、インデックス投資などを積極的に活用し、資産を増やす取り組みをしています。
参考:
FIREを目指すポートフォリオ運用とは|米国株、債券、現金等、FIRE後のおすすめポートフォリオについても検証
「絶対無謀」って本当?日本のFIREの問題点とは
実際問題として、日本と様々な違いがあるアメリカのムーブメントを直訳して、単純に取り入れただけのFIREには、いくつかの制度上の無理(問題点)があります。
昨今書店に並んでいるFIRE本の多くは、アメリカ人著者が、アメリカでのFIRE体験をもとに執筆したものですが、「日本人が、アメリカ人のFIRE体験を、そのまま鵜呑みにするのは無謀」との指摘もあります。
「年間生活費の25倍貯蓄」は無理
アメリカ人著者によるFIRE本を直接日本語訳しただけのFIRE解説書では、至極頻繁に、「年間生活費の25倍相当額」を、会社員生活時代に貯蓄するよう求めるケースが散見されます。
しかしながら、実際に、会社員として生活しながら、年間生活費の25倍相当額の貯蓄を行うのは、実際問題としては、極めて困難です。
例えば、年間の収入が500万円、そして、年間生活費がおよそ400万円である、という人がいた場合、その人は、年間支出の25倍相当額として、1億円を貯める必要があります。
この人の年間貯蓄余力は、500万円-400万円=100万円ですから、1億円を貯めるには、100年もの歳月がかかることとなります。
実際問題として、日本とアメリカでは、年金制度を始めとする社会保障制度の内容・充実度に、大きな差があり、この違いを無視して一律「年間生活費の25倍」を語るところに、この問題点の主要な原因があります。
税引き後年利4パーセント運用は無謀?
同じく、アメリカのFIRE本を直訳した日本のFIRE指南書でよく指摘されているのが、「FIRE達成後においては、年率換算で、税引き前4パーセント程度の利回りで資産運用を行い、その値上がり益で安定的に生活をしよう。そうすれば、貯蓄した元本を一切取り崩す必要が無い」というアイディアです。
確かに、ここ数十年程度のアメリカの株式市場の成長などを考えれば、年率・税引き後で4パーセント程度の利回り達成は、決して無謀な事ではない、と考える投資家もいるでしょう。
しかしながら、それだけの利回りを、数十年間もの長きにわたり、途切れることなく、継続的に出していく事は、決して簡単なことではありません。
日本では、FIREを目指す投資家の多くが、主にインデックス投資を積極的に活用して、FIREに必要な資産元本の蓄積速度を速めたり、FIRE達成後の生活費をまかなう値上がり益の原資とすることを計画しています。
確かに、インデックス投資は、FX投資や仮想通貨投資などと比べると、投資対象銘柄が多く、その分、ポートフォリオのリスクを低く抑える効果が期待できる、とされています。
しかしながら、インデックス投資の利回りは、ソーシャルレンディングや不動産クラウドファンディング等と異なり、あらかじめ具体的に提示されているものでは決してなく、「何年後に、どの程度の利回りを得ることができるか」は、あくまでも、「市場の成長がどの程度に達するか」に、依存するすることとなります。
このため、インデックス投資のみに頼って、年率換算4パーセント程度(税引き前では、5パーセント~6パーセント程度)の利回りを、FIRE後の数十年間にも渡り、コンスタントに出していくことを画策するのは、いささか無理筋である、と言わざるを得ません。
また、この「年率4パーセント」という条件において、毎年のインフレ率がどのように考慮されているか、についても、慎重に検討する必要があります。
仮に、目論見通り、年率換算4パーセントの利回りをコンスタントに獲得できたとしても、その間、年率5パーセントのインフレーションが恒常的に生じた場合、実質的な購買力は相対的に低下してしまう、という大きな問題点があるため、です。
さらに、高い期待利回りを求めて無理をするあまり、
- その他、様々な高リスクな投資商品や、
- 詐欺まがいの投資商品にまで、
投資家が手を出してしまうようなことがあると、FIREを達成するどころか、最低限必要な老後資金さえ、失ってしまうような結果ともなりかねません。
早期退職により退職金が大幅に減額されるという問題
FIREを目指す投資家の多くが、早期退職にあたって、現在の勤務先から受け取る退職金を、FIRE後の資産運用の元本にすることを計画しています。
しかしながら、日本の主要企業の退職金制度の多くは、基本的に、
- 新卒から会社に入り、
- その後、定年退職までの数十年間にわたり、その会社に勤めあげた人物に対して、
満額の退職金を支給することを前提としています。
すなわち、FIREに伴ってアーリーリタイアをする場合、満額の退職金を受給する事は基本的に難しく、早期退職の程度に応じて、退職金が減額されてしまう事は避けられません。
社会保険加入期間が短縮されることによる年金受給額の減少
老後に受け取ることができる年金は、
- 国民年金と、
- 会社員時代に加入した厚生年金との
「2階建て」で構成されており、このうち、2階部分に相当する厚生年金の受給額は、会社員時代の給与の月額(標準報酬月額)、及び、その給与をを受け取り続けた年月の長さと、基本的には比例するように計算されています。
すなわち、会社の厚生年金に加入している期間が長ければ長いほど、老後に受け取ることができる年金額は上積みされることとなります。
逆に言えば、FIREによってアーリーリタイアする場合、会社の厚生年金に加入する期間が必然的に短くなりますから、その分、老後に受け取る年金額も、減額されてしまうこととなります。
老後に期待できる年金が減る以上、必要な生活費との間の差額を、資産運用等で埋める必要があり、そのためには当然、多額の投資元本が必要となる、という問題があります。
早期退職によって失われる社会的信用
FIREによる早期退職は、ここ数年以内にアメリカから取り入れられたムーブメントの一環であり、日本では、まだまだ浸透していない(=社会的な認知を受けていない)と言うのが実情です。
このため、実際にFIREに伴い早期退職をすると、その後、その人の対外的な社会的信用能力は、基本的に、会社員時代と比較すると、大きく低下してしまうことが一般的です。
例えば、住宅の取得を検討している人であれば、FIRE達成前であれば容易に住宅ローンの審査を通過することができたところ、FIRE達成後に同じ住宅ローン審査を依頼する場合、審査の通過が難しくなることがよくあります。
また、クレジットカードの作成審査においても、FIRE達成前と比較すると、FIRE後の審査は、格段に厳しくなると言われています。
早期退職で「本当の稼ぎ時」を逃すのは、無謀に過ぎる
日本の企業は、まだまだ、年功序列制度が色濃く残っており、会社員が受け取る給与額は、
- 建前としては、「能力次第」、と言われてはいるものの、
- 実際には、その会社員の年齢と、強い相関関係があります。
同じレベルの仕事をこなしたとしても、入社から間もない新卒入社社員が、入社後数十年が経過したベテラン社員と同じ給料を受けとることは、現実問題として、無理というものです(役職手当の関係などもあります)。
すなわち、会社員としての本当の”稼ぎ時”は、会社員自身が中年を過ぎて以降、すなわち、その人が50歳代以降に達してからであることが多く、若いうちに会社を退職することを前提とするFIREにおいては、そうした、会社員生活における「本当の稼ぎ時」を、みすみす、逃してしまうことを意味します。
極度の節約・倹約生活は、FIRE「後」にさらに厳しさを増す
冒頭に述べたように、FIREにはいくつかの種類があり、中には、「ファットFIRE」のように、FIRE達成後も、生活レベルを一切落とさない、と言うスタイルも存在します。
しかしながら、”超富裕層”と呼ばれるような人々を除けば、そうした悠々自適なFIREを達成できる人はごく一部であり、基本的に多くの会社員は、FIRE達成前、そしてFIRE達成後も、それなりの倹約生活を強いられることとなります。
このうち、FIRE達成「前」の節約生活に関しては、FIRE達成と言う大きな目標がある分、家族一丸となって積極的に取り組むことができましょうが、同じレベル(場合によってはより強度の強い)節約生活が、FIRE達成後も、数10年にもわたって継続する、と言う事実を目の当たりにしたときに、「絶対無理」と、尻込みしてしまう家族が多いのも事実です。
病気や事故など、思わぬ出費に対処できないFIRE達成者の弱み
FIREの大きな弱点の1つが、特にFIRE達成後においては、病気や怪我などが大きな出費に対して、なかなか対応することが難しくなる、という問題点が挙げられます。
FIRE達成前のシミュレーションの時点で、予算組みにある程度の余裕を持って計算することができていれば、多少の支出の増加に対しては対応できるケースもありますが、FIRE達成を最優先するあまり、ギリギリの資産シミュレーションをしてしまっている場合、実際に何か大きな出費を伴うトラブルが生じた際に、これに対して資金を拠出することができなくなると言う事態が想定されます。
「やっぱり再就職」は無理な相談
FIREを考えるにあたって十分に覚悟しなければならないのは、FIREが、基本的には、「片道通行の決断」(=やり直しの効かない決断)である、ということです。
FIREによって、新卒から入社した、馴染みのある会社から早期退職する場合、その後、FIREを達成して数年経ってから、
「やはり、もう少し収入が必要だ」
と判断し、再就職をしようとしても、早期退職前と同じような条件で、中途採用に応じてくれる会社は、決して多くはありません。
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