盛り上がるFIREムーブメントの裏に隠された「嘘」とは

実は嘘だらけ?今話題のFIREとは

FIREは、”Financial Independence, Retire Early”の頭文字をとった造語。
(会社からの)経済的な独立(Financial Independence)を確保して、いち早く早期退職(Retire Early)を果たし、その後、自分のペースで、有意義なセカンドライフを楽しもう、というライフスタイルを指しています。

FIRE達成のメリット

  • 会社への通勤のために居住地を決定する必要が無くなるため、海外移住も含めて、自由に住む場所を決めることが出来るようになる。
  • FIRE達成を果たした後は、自分の時間を、自分の好きなように活用することが出来るようになる。
  • 経済的な理由のために取り組む仕事(Rice Work)から解放され、自分が真にやりがいを感じることのできるライフワークに専念することが出来るようになる。
  • FIREを目指す過程で、副業に関するスキルを伸ばしたり、各種税制・社会保障制度について勉強したり、投資について学ぶ機会などが多くある。

参考:
FIRE(経済的自立確保&早期退職)の意味とは|アーリーリタイア生活のメリット&デメリットから検証

FIREの嘘とは

「年間生活費の25倍貯蓄」ルールの嘘

FIREに関する指南書等をよく読んでいると、年間の生活に必要な資金の、25倍に相当する金額を、まずは貯蓄しよう、と言う言葉をよ見かけます。

しかしながら、少し考えてみればわかりますが、この、年間生活費の25倍貯蓄ルール、と言うのは、実際問題として、その実現は、まるで嘘のように難しいことです。

例えば、現在の手取りの年収が400万円で、年間の生活費を、300万円にまで切り詰め、残りの100万円を毎年貯金に回していると言う会社がいたとします。
この会社員の、1年間の生活費の25倍に相当するのは、300万円の25倍、すなわち7,500万円です。
そして、この1年間の貯金額は100万円ですから、7,500万円を貯金するためには、75年間もの長い歳月がかかります。

こうしてみると、年間生活費の25倍を貯蓄する、というのが、いかに非現実的な話であるかが、よくわかろうというものです。

「税引き後年利4パーセント運用」の嘘

FIREの「税引き後年利4パーセント運用」の嘘
FIRE本でよく見かける、「税引き後年利4パーセント運用」ルールも、一部”まゆつば物”との指摘があります。
※画像はイメージです。

続いて、アメリカ人の著者が書いたFIRE指南書などでよく言われているのが、

  • 貯めたお金(件の、年間生活費の25倍相当額)を、毎年、年利4%で運用すれば、
  • 貯蓄元本を取り崩すことなく、セカンドライフに必要な資金を全てカバーできる、

との主張です。

これもまた、FIREにまつわる大きな嘘の1つ、と言われているポイントです。

「税引き後」で年率4%の利回り、という事は、「税引き前」では、年率換算で、6%から8%程度の利回りが必要ということになります。

※実際の、投資収益に対する実際の税率は、その投資分野が、申告分離課税制度の対象となっているのか、それとも、総合課税の対象とされるのか、また、総合課税の対象とされる場合、その人の給与所得等の額はどの程度か、などといった点に左右されることとなります。

もしも、年率換算で、税引き前8%の利回りが必要、となると、これは、かなりの高利回りが求められていると言うこととなります。

そして、投資の世界の鉄則として、投資の利回り(リターン)と、リスクとは、基本的に、正比例するとされています。

例えば、FIREを目指す投資家に人気の高い投資手法である、インデックス投資の場合、米国株などをポートフォリオに組み入れた、比較的積極的に運用するアセットアロケーションの場合で、年率換算の税引き前の期待利回りとしては、約5%とされることがままあります。

そして、年間の期待利回りが約5%程度であるポートフォリオの場合、リスク(利回りのボラティリティ)に関しては、年率換算で、約15%から20%とされることが一般的です。
統計学の観点からは、

  • 標準偏差の1倍の範囲内に、実際の利回りが着地する確率が約65%、
  • そして、標準偏差の2倍の範囲内に、最終的な利回りが収まる確率は、約95%、

と言われています。

すなわち、期待利回り5%、標準偏差20%のポートフォリオを運用する投資家の場合、

  • 利回りが、プラス25%からマイナス15%の範囲に収まる確率が、約65%、
  • そして、利回りが、プラスの45%から、マイナス35%の範囲に収まる確率が、約95%程度、

と言うことになります。

すなわち、投資を始めてから、単年で、全投資資金量の3分の1程度が、一挙に失われてしまう可能性が、一定程度は存在している、と言うことです。

このように、高い利回りを求めれば求めるほど、それに比例するようにして、ポートフォリオのリスクも段違いに向上していく、と言う点についてあまり触れられていないのは、既存のFIRE本の重大な欠陥の1つとして、よく指摘されています。


参考:
FIREを目指すポートフォリオ運用とは|米国株、債券、現金等、FIRE後のおすすめポートフォリオについても検証

「副業礼賛」の嘘

多くのFIRE本では、本業に取り組むこと以外に、本業の終わった後の空き時間等を活用して、パートタイムジョブ等の、いわゆる「副業」に取り組むことを、積極的に推奨しています。

しかしながら、こうしたFIRE本の「副業礼賛」についても、大きな嘘が隠されている、との指摘があります。

確かに、本業の終業後に取り組む副業には、その人の1日あたりの所得を最大化させると言う、大きなメリットがあるのですが、本来副業に取り組むような、いわゆる余暇の時間は、その人が本業を通じて蓄積した疲れなどを取り除くための、リカバリーに必要な時間であるはずです。

副業にまで取り組んでしまえば、当然、リカバリーには十分な時間を割くことができませんので、結果的に、本業でミスを連発したり、失態を繰り返してしまうなど、本業自体に大きな支障をきたすようなリスクが顕在化してくることとなります。

また昨今、大手企業を中心に、副業解禁に踏み切るところも増えてきてはいますが、日本の企業の大半は、依然として、社員の副業には、消極的な姿勢を見せています。
前述したような、リカバリーの不足によって本業に支障をきたすリスクに加えて、社員が副業に取り組めば、情報漏洩等、様々なリスクが生じるためです。

FIREを優先するあまり、本業の勤め先が定める副業規定に違反してしまうようなことがあれば、勤務先での信用を失い、FIREが近づくどころか、早期退職に必要な貯蓄を蓄積できる日は、はるかに遠のいてしまうこととなります。

また、昨今では、クラウドワークスやランサーズなどといった、クラウドソーシングを活用した副業に取り組む人も多くいますが、クラウドソーシング業界では、業務の発注者側による、受注者に対する搾取が問題視されています。
実際、クラウドソーシングに個人で副業として取り組む場合、基本的には個人事業主扱いとなり、労働法の保護等の対象外となるリスクが指摘されており、長時間労働などが助長されてしまう危険性が問題視されています。

「インデックス投資は安心・確実」の嘘

FIREの「インデックス投資は安心・確実」の嘘
FIRE希望者の多くが、FIREを目指す投資手法として「インデックス投資」を選びますが、投資である以上、かなりリスクもあります。
※画像はイメージです。

多くのFIRE本で投資手法として推奨されていることの多いインデックス投資に関しても、「安心・安全で、初心者でも利益を上げやすい」などと喧伝されていることをよく見かけますが、これもまた、大きな嘘です。

インデックス投資と言うのは、個別の株式銘柄等に対して資金を集中投資するのではなく、数百から数千もの銘柄に分散投資を行う投資信託を活用することによって、インデックス(市場の指数)に連動した投資成果の獲得を目指す投資手法です。

分散投資が進むことによって、各銘柄ごとの非システマティック・リスクに関しては、これを排除できると言うメリットがありますが、どれだけ個別銘柄ごとのリスクを排除したところで、市場全体が落ち込んでいくような、大規模な経済変動が到来した場合、値下がりのリスクを避けて通ることはできません(=市場のシステマティック・リスクそのものは無効化できない)。

現に、FIRE希望者にも人気の、米国株式市場の主要株式を網羅したインデックス指数であるS&P500指数は、2000年代初頭のドットコム・バブル崩壊時や、その後のリーマン・ショック到来時などにおいては、その資産評価額が、一時期、危機到来直前期の50%程度にまで落ち込むことがありました。
また、一旦バブルが崩壊し、不況が長期化すると、インデックス指数が、バブル崩壊前の水準を取り戻すまで、10年以上もの歳月がかかることもあり、十分な留意が要します。

FIRE達成を目的として、インデックス投資に取り組む場合、こうしたリスクについても、決して看過することはできません。

「物価の安い国への海外移住でFIRE達成」の嘘

FIREにおいては、日本以外の、より物価の安い国へと、海外移住することによって、居住コストや食費などを中心とした生活費用を大きく引き下げ、FIRE達成を近づけよう、という旨が提唱されることがままあります。

確かに、FIREを目指す過程で、海外移住を行うことには、それなりのメリットがあります。
物価が低い国へと移住すれば、「1人デフレ」のような状態を作り出すことも可能ですし、子供を連れて海外移住すれば、子供に、より早い段階から、グローバルな教育を施すこともできましょう。

しかしながら、FIREを目的とした海外居住には、

  • ビザの問題や、
  • 言葉の問題、
  • 現地での仕事探しの困難など、

様々な問題点や、リスクがあります。

こうしたリスク等に関して度外視して、FIRE達成のために海外移住を妄信的に推奨することには、大きな問題があると指摘されています。


参考:
FIREのための海外移住は「あり」なのか|海外移住のメリット&デメリットから検証

「定年退職まで働くのは馬鹿らしい」の嘘

FIREの大前提として、「入社した会社に定年退職まで勤務し続ける事は、古めかしいライフスタイルであり、馬鹿らしいことである」という哲学があります。
しかしながら、この考え方自体、日本の一般的な慣習を考えれば、大きな嘘が隠されていると言わざるを得ません。

昨今、能力主義が掲げられ、転職なども昔と比べるとある程度一般化してきましたが、それでもなお、日本は依然として、「新卒入社・定年退職」こそが、就業・雇用の前提とされている国です。

社会保障制度や税制、労働法等といった制度は、あくまでも、そのスタンダードに則って暮らす、いわゆる「マジョリティ」(多数派)の利益を最優先して構成されているため、敢えて、FIREという極端なライフスタイルを選択し、「少数派」(マイノリティ)となる以上は、その選択に伴う、大小さまざまな弊害をクリアしなければなりません。

年金制度

日本の年金制度は、全国民が加入する「国民年金」と、会社員の加入する「厚生年金」の、2階建てで構成されています。
また、そのうち、厚生年金部分に関しては、その保険料の半額を、勤務先の企業が負担してくれる、と言う、日本の年金制度ならではの特徴もあります。

実際の年金受け取り時においては、厚生年金分の受け取り額は、

  • 厚生年金の実際の加入期間と、
  • 加入期間中に支払ってきた厚生年金保険料の大小によって、

大きく変化します。

FIREによって早期退職をしてしまうと、当然のことながら、厚生年金の加入期間が短縮されることとなるため、将来的な年金受け取り時において、厚生年金分の受取額が、大きく減額されてしまうこととなります。

退職金制度

日本の企業の大多数が採用している退職金制度は、あくまでも、”定年退職者”が最も有利となるように(=満額受給できるように)制度設計されています。
FIREに伴い、現在の勤め先から早期退職する場合、退職金は目減りしてしまうことが一般的であり、最悪の場合は、退職金の大部分も相当する額が、早期退職に対するペナルティーとして、減額されてしまうこともあります。

年功序列の給与モデル

日本企業の大半が、もはや昨今では、能力至上主義を提唱するようになってきていますが、やはり、大部分の企業では、年功序列色の強い給与支給モデルが、依然として利用されています。
同じ仕事をこなしていたとしても、新卒入社したばかりの社員よりは、入社からしばらく経ったベテラン社員の方が、当然、給与水準が高く設定されています。

また、数十年に及ぶ会社員生活の中でも、定年退職前の、50歳代前後が、最も高給を取りやすい、いわゆる「(会社員生活の中で一番の)稼ぎ時」とされています。

このため、FIREに伴って早期退職をしてしまうと、その人は、自身のサラリーマン人生における最も効率の良い稼ぎ時を、みすみす逃してしまうことになります。

「会社員」という社会的信用の喪失

FIREと言うムーブメント、ライフスタイル自体、日本ではまだまだ社会的に認知されておらず、”FIRE”と言う言葉を聞いたところで、それが、「会社からの経済的独立を確保した上での早期退職」を意味するものである、と即答できる人ほど、むしろ少数派であると言えるでしょう。

こうした状況下において、FIRE達成者の社会的な信用と言うものは、必然的に厳しく、早期退職によって定職を失うと、その後、住宅ローン審査やクレジットカード作成審査など、様々な局面で、不便を被ることがあります。

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FIRE(早期リタイア)検証チーム
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