FIREの失敗の「よくあるパターン」とは|失敗を避けるポイントも検証

FIREの失敗パターン

「25倍貯蓄・4パーセント運用」ルールを妄信して失敗

アメリカ人著者によるFIRE指南書でよく見かけるのが、

  • 年間生活費の25倍に相当する資金を貯蓄し、
  • それを年率4パーセントで運用していけば、
  • 貯蓄を減らすことなく、FIRE後のセカンドライフを満喫できる、

とする主張です。

いずれも、実際の実現は極めて困難であるほか、そもそも、日本の実情(日本独自の社会保障制度や、退職金制度等)を反映していない、という問題があり、これを盲信していると、思わぬ失敗に直面するリスクがあります。

「年間生活費25倍貯蓄」には、失敗して当たり前

例えば、手取りの年収が300万円で、年間の生活費が250万円、年間50万円を貯蓄に回している、と言う会社員がいたとします。
この人の年間生活費の25倍に相当するのは、250万円×25倍=6,250万円です。
これに対して、その資金を、年間50万円の貯蓄で貯めていくためには、125年もの歳月がかかります。

こうしてみると、「年間生活費の25倍を貯蓄する」というのが、いかに難しく、失敗の公算が大きいものであるかは、一目瞭然といえましょう。

年率4パーセント運用も、失敗のリスクが高い

FIRE指南書によく登場する「年率4パーセント運用」ルールも、失敗のリスクが高い
米国人著者によるFIRE指南書でよく登場する「年率4パーセント運用」もまた、FIREが失敗に終わりやすい要因の一つと言われています。
※画像はイメージです。

続いて、「税引き後年率4%での運用」と言う点も、同じく、失敗のリスクが極めて高いものといえます。

「税引き後」で利回りが4%、という事は、「税引き前」では、その表面利回りは、6%から8%程度が期待されることとなります(※実際の税率は、申告分離課税制度を利用できるかどうか、によって変化してきます)。
概ね、7%程度の税引き前の利回りが期待されている、とすると、これは、かなり厳しめのハードルだと言えます。

基本的に、投資の世界では、リスクと利回り(リターン)とは、正比例する、と言われています。

  • 「ハイリスク」なのに「ローリターン」な投資商品などと言うものが、市場から淘汰される(=買い手がつかない)のと同じ仕組みで、
  • 「ローリスク」なのに「ハイリターン」と言う投資商品もまた、「そんなうまい話は存在しない」と言うことです。

例えば、株式系の資産クラスを中心に据えたインデックス投資の場合、年率の期待利回りは約5%前後と言われていますが、その代わりに、年率換算で15%から20%程度の標準偏差(リスク)を受け入れる必要があります。
基本的には、標準偏差の2倍程度のボラティリティーは覚悟しておく必要がありますから、統計学上、投資家の実際の利回りは、+45%程度から、− 35%程度の間に、約95パーセント程度の確率で、落ち着くこととなります。

さらに、昨今のリーマンショックのような大きな経済変動が生じた場合は、標準偏差の2倍をも超過するような、大幅な下落を記録することもままあります(標準偏差の2倍を超過するよう値動きが生じる可能性は、統計学上、約5%程度存在します)。


参考:
FIREはなぜ「難しい」のか|難しいはずのFIREを少し簡単にしてくれる、ちょっとしたコツとは

このように、高い利回りを求めていけばいくほど、その分、失敗のリスクも高まる、と言うことです。

副業や節約を優先しすぎて失敗

FIREを達成するためには、まずは本業において、しっかりと昇給や昇進を勝ち取り、自分の1時間あたりの単価(≒時給)を上げていき、出来るだけ早期に、可能な限りの高給を稼ぐことが、肝要であるとされています。
また、現在の勤務先が、さほどの昇給を見込めないような小規模企業である場合は、転職活動等についても、積極的に取り組んでいく必要が生じることとなります。

副業での失敗は、意外と多い

しながら、一般的な会社員にとって、本業への取り組みだけでは、FIRE達成はなかなか見えてこない、というのが実情です。
結果的に、本業だけではなく、サイドジョブ、いわゆる「副業」への取り組みも重要になります。

この「副業上」と言うものは、一見、その人の1日あたりの所得を最大化する手法として、極めて効果的なのですが、「諸刃の剣」と言う側面もあります。

副業に夢中になるあまり、

  • 休養不足等によって本業に支障をきたしたり、
  • 本業の勤務先が定めている、副業規定に違反してしまう、等と言った事態が起これば、

本業での信頼を根本から失ってしまい、最悪の場合には、失職する恐れがある等、大きな失敗へと直結するリスクがあります。

過度の節約は家族の不和、ひいては、家族生活の失敗をも招く

FIREを目指す過程での過度の節約は家族の不和、ひいては、家族生活の失敗をも招く
FIREを目指すにあたっては、節約・倹約の徹底も必要となりますが、度を過ぎると、家族喧嘩の原因にもなりかねません。
※画像はイメージです。

FIREを目指す上では、本業や副業でしっかりと稼ぐとともに、そうして稼いだ資金を、節約・倹約を通して、いかにしっかりと貯めていくか、すなわち、収入に占める「貯蓄率」をどれだけ高めることができるか、と言うのも、重要なポイントとなります。

しかしながら、家族の間で、FIREに向けて、よほどしっかりとしたコンセンサス(同意)が形成されている場合を除けば、FIRE達成に向けての過度の節約・倹約は、家族間の思わぬ不和を生んでしまう契機とも、なりかねません。

特に、子育て期間中の人がFIREに取り組む場合、そもそも、子育てにはかなりお金がかかる、という問題があります。
子供の習い事や、塾、予備校などにかけるお金を節約するあまり、子供が受験に失敗するようなことがあっては、子供の一生涯に対しても、悪影響を及ぼしてしまうようなリスクがあります。


参考:
FIREムーブメントへと寄せられている批判を分析|批判に負けず、より良いFIREを果たすためのコツは

早期退職に伴うペナルティを理解しておらず失敗

FIREムーブメントは、ここ数年の間にアメリカから輸入されてきたばかりの考え方であり、日本社会ではまだまだ認知されておらず、浸透もしていない、というのが実情です。

こうした状況下にもかかわらず、力業でFIREを進めようとすると、様々な弊害が生じ、結果として、諸々のペナルティーを被ることとなるリスクがあります。
FIREに伴う様々なペナルティーとしては、主に以下のようなものがあります。

厚生年金の受取額の減少

日本の年金制度は、「国民年金」と「厚生年金」との2階建てで構成されており、このうち厚生年金部分に関しては、

  • 厚生年金の加入期間の長短と、
  • 加入期間中の支払い保険料の大小(≒標準報酬月額)によって、

最終的な受け取り年金額が変化していきます。

また、国民年金部分とは違い、厚生年金に関しては、被保険者の支払う年金保険料と同額を、会社が負担してくれると言う、大きなメリットがあります。

FIREに伴って早期退職する場合、どうしても、厚生年金への加入期間が短縮されてしまうこととなり、その結果、将来的な年金受取時についても、厚生年金部分の受取額が、一般的な会社員生活を送った人よりも、かなり少なくなってしまう可能性が高くあります。

会社員としての「稼ぎ時」を逸失する

能力主義が提唱されるようになって久しいですが、それでもなお、多くの日本企業には、年功序列意識が色濃く残っています。
全く同じ仕事をしていても(むしろ、仕事のクオリティーやスピードは落ちたとしても)、新卒から間もない新入社員よりは、入社して数十年が経ったベテラン、中年社員の方が、当然のように、受け取り給与は大きくなります。
役職手当の存在なども考えれば、会社員としての「本格的な稼ぎ時」は、20代や30代ではなく、むしろ、50歳を過ぎたあたりから到来する、とも言われています。

FIREによって早期退職すると、この「会社員としての稼ぎ時」を、みすみす棒に振ることとなってしまいます。

「無職の人」として、社会的信用を失う

日本では、FIREによって早期退職を果たした人、というもの自体が、まだまだ少数派ですから、早期退職を済ませて「これといって定職がない」という状態の人に対して、社会の見る目は、決して甘くはありません。
特に、”社会的信用”、と言う点では、FIREによって早期退職をすると、一挙に低下してしまうことが一般的です。

例えば、住宅ローンの審査や、クレジットカードの作成審査等においても、通常通りに会社勤めをしている人と比較して、FIREによって早期退職をした人に対しての審査は、想像以上に厳しくなることが一般的です。

退職金の減額

一般的な会社員にとって、会社の定年退職時に受け取る退職金は、その後の老後生活を支えるための、大切な資金です。

基本的に、日本で”退職金”と言う時は、新卒で入社した社員に対して、定年退職に伴い、これまでの労をねぎらうと言う意味で、満額が支給されるものを指すことが普通であり、欧米で言うような、いわゆる「リストラ」に伴い割高な退職金が支払われるようなケースは、あまり一般的ではありません。

このため、FIREに伴って早期退職をしようとすると、どうしても、その人の受け取り退職金は、大幅に減額されてしまうこととなります。


参考:
FIREのリスクとは|早期退職がもたらす思わぬリスクを徹底検証

上記したような、FIREに伴う様々なペナルティーをよく理解しておかないと、FIREを優先して取り組む、足元をすくわれるようにして、思わぬ失敗を被る事となる恐れがあるため、注意が必要です。

FIREで失敗を避けるコツ

お金のプロに相談し、失敗リスクを最小化する

FIREに向けて計画を練る段階では、自身のFIRE達成後の生活や、老後の生活資金等に関して、かなり緻密なシミュレーションを行う必要があります。
FIREにおいて失敗してしまう人の大半は、この「事前シミュレーション」が不十分であったり、シミュレーションの内容があまりにも甘すぎたり、と言うケースが多くあります。

こうした失敗リスクを最小化するためには、ファイナンシャルプランナーや税理士、公認会計士等といった、いわゆる「お金のプロ」のアドバイザリーを活用することが有効です。

早期退職に伴う厚生年金の減額程度や、FIRE達成後の生活を支えるための社会保障制度の活用方法など、様々な点について、専門家のアドバイスを受けることにより、FIRE達成前後の失敗リスクをできるだけ小さく保つことが重要となります。

自分に合ったFIREをよく選び抜くことで失敗を避ける

日本ではあまり知られていませんが、FIREムーブメント発祥の地と言われるアメリカでは、現在、FIREについては、以下の4種類があると言われています。

①ファットFIRE

FIRE達成後の生活水準を下げることなく、潤沢な資金を背景に、悠々自適のセカンドライフを楽しもう、というFIREスタイル。
もちろん、多額の資金が必要となりますので、一般的な会社員がこのFIREスタイルに固執すると、失敗のリスクが高くなります。

②リーンFIRE

FIRE達成後の生活に必要な資金をできるだけ切り詰めることによって、前述のファットFIREほどには大きな資金を蓄えずとも、より早期に、FIREに踏み切っていこう、というライフスタイルを指します。
いわゆる”ミニマリスト”のような生活を好む人にとっては、かえって性に合うかもしれませんが、特に家族・子供などと一緒にFIREに取り組もうと考えている人は、事前によく家族間で話し合いをしないと、その厳しい倹約生活などが原因となって、家族間で思わぬトラブルを生むリスクがあるため、注意が必要です。

③バリスタFIRE

FIRE達成後も、アルバイトや個人事業など、簡単な仕事に取り組み続け、月額で数万円程度の収入を得つつ、FIRE達成後の生活費を補填していこう、と言う考え方です。
FIRE後も、ある程度の収入を期待できるため、前述のファットFIREやリーンFIREよりは、一見、失敗のリスクが小さく見えますが、FIRE達成後に予定通りに定期収入を得ることができない、等と言った場合は、キャッシュフローがショートしてしまうようなリスクがあります。

④コーストFIRE

無理のない範囲の資産運用を続けて行けば、フルリタイアに必要な資金量を十分に確保できるだけの、投資の「元本部分」の貯蓄が済んだ投資家のことを、「コーストFIRE済み」であると表現します。
フルリタイアに必要な資金量の大小によっては、比較的達成しやすいFIREのようにも見えますが、予定通りの資産運用が失敗してしまう場合などのリスクについて、十分な配慮が必要です。

このように、一言にFIREといっても複数の種類があることをよく勉強し、自分自身の経済状況やライフスタイル、家族構成等に合ったFIREスタイルを選択することで、思わぬ失敗のリスクを、多少なりとも減らしていく効果が期待できます。


参考:
FIREは、実は全部で4種類?|ファットFIRE、リーンFIRE、バリスタFIRE、コーストFIRE|それぞれの特色・注意点を徹底解説

「いつでも辞められる」けれど「辞めない」という選択肢を知る

FIREの失敗のリスクは、つまるところ、現在の勤め先を「退職してしまう」によって、決定的に生じることとなります。
基本的に、「退職」(自己都合退職)と言うのは、やり直しの効きづらい、一方通行の決断であり、その分、「失敗」のリスクが大きいものです。

逆に言えば、いつでもFIREに踏み切れるだけの経済状況を確保した上で、それでもなお、会社を辞めずに、勤務を継続すれば、FIREに伴う決定的な失敗を犯してしまうリスクは、大きく減らすことができます。

FIREムーブメントのコアの部分は、必ずしも、”退職する”と言う行為そのものにあるのではなく、経済的、ひいては精神的に、会社に隷属してしまうような状態を脱出しよう、と言う”哲学”です。

いつでも会社を辞められるだけの資金量を蓄えれば、その後、会社に対する依存程度も少なくなり、より自主的に、やりがいを持って会社での仕事にも取り組めるようになるでしょう。
無理に退職する事はせず、そのまま、精神的、経済的なゆとりを持って勤務継続をする、と言う選択肢も「あり」なのだと知る事は、FIREに伴う失敗を避ける上で、最も重要なポイントの1つといえます。

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FIRE(早期リタイア)検証チーム
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