FIREはなぜ「難しい」のか|難しいはずのFIREを少し簡単にしてくれる、ちょっとしたコツとは

FIREが難しいと言われる5つの理由

「年間生活費の25倍貯蓄」はあまりにも難しい

書店などによく並んでいるFIRE本を読むと、FIREのための前提条件として、「まずは、年間の必要生活費の25倍に相当する資金を、しっかりと貯蓄しよう」という旨が提唱されているのをよく見かけます。

しかしながら、実際問題として、一般的なサラリーマンにとっては、年間生活費の25倍もの資金を貯金するのは、あまりにも難しい、というのが実情です。

例えば、手取りの年収が500万円、そのうち400万円を年間生活費に回し、残り100万円を貯金している、というサラリーマンがいたとします。
この会社員の年間生活費の25倍に相当するのは、400万円×25倍=1億円です。
一方、この会社員の年間貯蓄は100万円ですから、1億円を貯めるためには、100年かかることとなります。

こうして考えると、普通の会社員が、年間生活費の25倍もの資金を貯金するのが、いかに難しいことか、というのが、よくわかります。

「税引き後年率4パーセント運用」も、現実問題として難しい

FIRE本のいう「税引き後年率4パーセント運用」も、現実問題として難しい
FIRE本で頻繁に提唱されている「4パーセント運用ルール」。これを、途絶えることなくコンスタントに実現するのは、プロの投資家であっても、簡単な事ではありません。
※画像はイメージです。

同じく、FIRE本でよく提唱されているのが、「貯めた資金を、税引き後年率4%の利回りで運用すれば、元本を取り崩すことなく、月々の生活費を賄っていくことができる」という点です。

しかしながら、税引き後にコンスタントに年率4%の利回りで運用していく、と言うのは、プロ投資家であったとしても、かなり難しい、というのが実情です。

投資収益に対する税率は、

  • その投資分野が、申告分離課税制度の対象となっているか、
  • それとも総合課税の対象とされているか、
  • 後者の場合は、その人の給与所得等はいくら程度なのか、

などといった点に左右されますが、税引き後で4%の利回り、という事は、税引き前では、おおむね6%程度から8パーセント程度の利回りが必要だ、ということになります。

これだけの利回りを、コンスタントに確保していく事は、いわゆるプロの機関投資家であっても、難しいのが実情です。

一般個人投資家が、これだけ高い利回りを求めようとすれば、必然的に、かなりリスクの高いポートフォリオ運用せざるを得ず、暴落等によって、資産の大半を失うリスクがあるほか、リスク説明すら不十分な、いわゆる投資詐欺のような手口に引っかかってしまう危険性も、いや増すこととなります。


参考:
FIREムーブメントへと寄せられている批判を分析|批判に負けず、より良いFIREを果たすためのコツは

子持ち家族の場合、FIREは特に難しい

一般論として、子育て期間中の人が、FIREに取り組む場合、素敵なメリットがたくさんあります。
会社の仕事のスケジュールを気にすることなく、子供の学校行事等に参加できたり、「会社員生活以外のお金の稼ぎ方」というものを、子供に、”親の背中”で教えていくこともできましょう。

一方、子供のある家庭がFIREに取り組むのは、実務の観点からは、本当に難しい、というのが実情です。

何より、子育てには、時に信じられないほどに、お金がかかるものです。
また、FIRE達成のために住居費の安い地域に転居しようにも、転校・学区等の問題が出てきます。
街中から離れてしまうと、子供が慣れ親しんでいる習い事を継続することも、難しくなってしまうかも知れません。


参考:
子育てとFIREの関係|子持ち家族の子供連れFIREのメリット&デメリットとは

年金受取額減少・退職金減額などを考量すると、いよいよ難しい

FIREによって、会社から早期退職すると、必然的に、厚生年金の加入期間が短くなります。

老後に受け取ることとなる年金は、

  • 国民年金と
  • 厚生年金

の2階建てで構成されており、このうち”2階部分”に相当する厚生年金は、「厚生年金の加入期間」と、「加入期間に受け取ってきた給与」、そして、「(給与からの天引きで)支払ってきた年金保険料」の大小によって、左右されることとなります。
また、全額をその人自身が支払う国民年金とは異なり、厚生年金の場合は、同額を会社が負担してくれると言う、就労者にとっては実にありがたいメリットがあります。

こうした点を踏まえると、早期退職によって厚生年金の加入期間が短くなる、というのは、投資家が将来受け取る年金額を考慮した際に、極めて大きなデメリットとなります。

また、日本の退職金制度の大半は、「新卒から入社して、その後、定年退職に至るまで、その会社で精一杯勤め上げた人間の労をねぎらうための制度」であるというのが、大前提とされています。
このため、FIREに伴う早期退職をする場合、その人が受け取ることができる退職金は、満額からはほど遠く、現実的には、かなりの割合で、減額されてしまうというのが実情です。


参考:
日本のFIREの問題点|日本版FIREが「無理」「無謀」と言われる理由とは

「FIRE後になってから再就職」は本当に難しい

FIREを検討している人の中には、「FIREによって早期退職したとしても、まだしばらくは若い。FIRE後にお金が必要になったら、再就職をしてお金を稼ぎ直せばいい」といった風に考えている人も少なくありません。

しかしながら、FIREによって早期退職をした人の再就職は、現実問題としては、極めて難しいというのが実情です。
少なくとも、FIREによる早期退職前に、自分の勤務先から受け取っていたような給与と同額を、再就職でも希望するのは、非現実的である、と言わざるを得ません。

難しいはずのFIREを簡単にするコツとは

難しい事前シミュレーションはFPや税理士等と相談

FIREの難しい事前シミュレーションはFPや税理士等と相談
FIREに取り組むにあたっては、様々な項目について、事前にかなり綿密にシミュレーションを実施する必要があります。難しい部分については、FPや税理士などに相談するのも、有効な手立てと言えるでしょう。
※画像はイメージです。

FIREに関する具体的な計画を練るに当たっては、まず、下記のような点を綿密にシミュレーションする必要があります。

  1. FIRE後の月々の生活には、概ね、どの程度の支出が伴うのか
  2. 自分は、何歳から、いくら程度の年金を受け取ることができそうなのか
  3. 年金を受け取る前、そして年金を受け取る以降については、毎月の生活費の収支は、どの程度の黒字(もしくは赤字)となりそうなのか
  4. 毎月の生活費収支が赤字である場合、その赤字を補うためには、概ね、どの程度の投資収益を得ていく必要があるのか
  5. 具体的な投資収益の利回りとしては、年間、税引き後で、何%程度を期待するのが現実的なのか
  6. 必要な投資収益を得るためには、いくら程度の投資元本が必要なのか
  7. 上記の投資元本を蓄積するためには、毎月いくら程度を貯金に回し、どの程度の期間を要するのか

上記のような事項に関して、細かくシミュレーションをする事は、一般的な会社員にとっては難しいのが実情です。

無理に自分自身で難しいシミュレーションをしようとするのではなく、ファイナンシャル・プランナーや税理士、会計士など、いわゆる”お金のプロ”の手を借りることも、検討してみるべきでしょう

敢えて難しいFIREを選ばず、簡単に実現できるFIREから取り組む

日本ではあまり知られていませんが、FIREムーブメントの発祥の地と言われるアメリカでは、現在、FIREには、以下の4つの種類があると言われています。

①ファットFIRE

FIRE達成後も、生活水準を落とすことなく、潤沢な資金を背景に、悠々自適のセカンドライフを満喫しよう、というFIREスタイル。
誰もが夢見るようなFIREスタイルとなりますが、当然、実現するにはお金もかかり、一般的な会社員には、実現は少々、難しいと言われています。

②リーンFIRE

FIRE後の生活にかかる支出を極力切り詰めることによって、ファットFIREのように潤沢な資産を要さず、できるだけ早期にFIRE生活に踏み切ろう、というFIREスタイルです。
前述のファットFIREほどには大きな資産を必要としない、些か庶民的なFIREである、というイメージがありますが、FIRE後の生活はかなりの倹約を強いられることとなるため、俗に言う”ミニマリスト”のようなライフスタイルを好む人以外にとっては、実際の実現は、やや難しいのではないか、とも危惧されます。

③バリスタFIRE

FIRE達成後も、パートタイムでの仕事や副業、自分の特技を生かした個人事業等に関しては継続し、毎月数万円程度の副収入を得ることによって、FIRE後の生活費を補填していこう、と言う考え方です。
FIRE後も、ある程度の収入を見込むことができるので、これまで述べたファットFIREやリーンFIREよりは、比較的、気軽に取り組みやすいFIREスタイルであると言えます。

④コーストFIRE

無理のない範囲内での資産運用によって、フルリタイアに必要な資金を達成していくための、いわゆる投資の「元本部分」の貯蓄を終えた人のことを、”コーストFIRE済み”であると表現します。
例えば、フルリタイアのために5,000万円が必要だ、と言う人がいた場合、その人は、フルリタイアを希望する年の15年ほど前までに、その半額に相当する2,500万円程度を貯蓄し、あとは、毎年年率5%の複利運用を着実に行うことができれば、15年後には、自然と、フルリタイアに必要な資金を手にしていることとなります。

大事なのは、自分にとって「難しすぎない」FIREスタイルを選ぶこと

このように、FIREにはいくつかの種類があり、FIREに取り組む人それぞれの考え方や経済状況、好みのライフスタイル等に応じて、その人自身が、主体的に選択していくことが可能です。

一般的な会社員がファットFIREを実現することは、残念ながら、難しいでしょうし、家族がいて、急に生活費を切り詰める事は現実的ではない、と言う人にとっては、リーンFIREへの取り組みは困難だと言わざるを得ないでしょう。

しかしながら、バリスタFIREや、コーストFIREへの取り組みなら、どうでしょう。

こうして考えていけば、難しかったはずのFIREが、少しだけ身近なもののように感じられるはずです。


参考:
FIREは、実は全部で4種類?|ファットFIRE、リーンFIRE、バリスタFIRE、コーストFIRE|それぞれの特色・注意点を徹底解説

あまり難しく考えず、「敢えて退職しない」選択肢もあることを知る

FIREを必要以上に難しく見せているのは、「FIREを達成する以上は、必ず退職をしなければならない」と言う、その人の固定観念かもしれません。

FIREムーブメントの最もコアな考え方は、「会社に、経済的に、そして精神的に従属することを、やめよう」、と言う点です。

FIREに向けて取り組む過程の中で、人は、

  • 副業に取り組むことで、得意なスキルを伸ばしたり、
  • 節約を頑張ることで、節約に関するノウハウを蓄積したり、
  • 資産運用にチャレンジすることで、投資に関するノウハウを蓄積することなどが

期待できます。

こうした取り組みを進める中で、段々と、会社への経済的な、そして精神的な依存は、軽減されていくことがよくあります。

そして、FIREのために必要な資金量の貯蓄を終える頃には、「会社に対して従属している」という感覚が薄れ、もっと仕事を主体的に、かつ純粋に楽しめるような精神状況になっている可能性もあります。

FIREに関する勉強を進める中で、会社の福利厚生や、社会保障制度といった仕組みのありがたさについても、痛感しているかもしれません。

こうした段階に達した後で、実際に会社から離れるかどうかは、改めて考えても良いわけです。
無理に難しく、杓子定規に考えるのではなく、”やめようと思えば、いつでもやめられる”と言う状況で、会社での勤務を継続し、給与を受取続け、社会保障メリットを享受し続けても、何ら問題はないわけです。

「極端に難しく考えすぎないこと」もまた、FIREに楽しく取り組むためのコツの1つと言えるかもしれません。

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FIRE(早期リタイア)検証チーム
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