FIRE(早期退職)実現のためには、結局、いくら必要なのか|サイドFIREの場合も含め、毎月の貯金額も検討
今話題のFIRE(早期リタイア)とは
最近、ブログやSNS、各種報道などでも見聞きする機会の多くなった、FIRE(ファイア)という言葉。
実はこの言葉は、「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとった略語であり、
- 会社からの給与が無くとも生活していけるだけの金銭的な基盤を確立することで、
- 勤務先からの経済的独立を確保し、
- 早期退職を実現したうえで、
- 長いセカンドライフを、自分のペースでゆっくりと、自分のやりたいことに集中して楽しもう、
というライフスタイルのことを指します。
元々は、さかのぼること数年前から、主にアメリカ(北米)から始まったムーブメントで、昨今、日本の若者の間でも、大きな注目・関心を集めつつあります。
参考:
FIRE(経済的自立確保&早期退職)の意味とは|アーリーリタイア生活のメリット&デメリットから検証
FIRE達成のステップ・方法は
FIRE達成の具体的な方法論は、結局、ひとそれぞれであり、「絶対に〇〇しなければならない」という定説・ルールのようなものがあるわけではありません。
ただし、FIRE達成者の具体的な取り組みを検証していくと、最終的なFIRE達成までの基本的な流れには、共通する部分があります。
それは、どのFIRE達成者も、下記の通り、
- まずは、自分にとっての本業(及び、適宜の副業・サイドビジネス)で、しっかりと稼ぐこと
- 稼いだお金を使ってしまうのではなく、節約し、貯めること(貯蓄率を高めること)
- 貯金によって作った元手(元本)を、資産運用によって殖やすこと
という、3ステップを踏んでいる、ということです。
①FIRE達成のために「稼ぐ」ということ
会社からの経済的な独立を果たすためには、まず、何はともあれ、自分が現在勤めている会社で、精一杯、出来得る限り最大限の給料(給与)を稼ぐことが大前提となります。
自社に昇給関係の規定が整備されているようであれば、条件として指定されている資格の取得等も視野に入れつつ、出来るだけ早期に、昇給・昇格を果たすことが出来るように努めます。
更に、現在の勤務先では、十分な昇給が期待できない、ということであれば、自分自身の「1時間当たりの単価」を向上させるべく、転職活動にも積極的に取り組むことが必要となります。
また、勤務前後の時間を有効活用するためにも、本業で得たスキルなどを活用し、副業(サイドビジネス)に取り組む人も多くいます。
※ただし、就業時間前後に副業に取り組む場合、本業の勤務先の副業関連規定に、十分に留意する必要があります。
②FIRE達成のために「節約し、貯める」ということ
昇進や昇給、転職、副業等によって、どれだけ多額の所得を得ようとも、湯水のように、せっかく稼いだお金を使ってしまっていては、一向に、FIRE達成のために必要なお金は貯まりません。
FIRE達成を引き寄せるためには、精一杯「稼ぐ」という行動と並行して、稼いだお金を、出来るだけ多く、「貯める」こと、すなわち、所得全体に対する「貯蓄率」を高める仕組み・工夫も、必要となります。
そのために重要なのは「節約」の徹底です。
そして、FIRE達成のために行ってきた節約生活は、最終的にFIREを達成したあともまた、数十年というながきにわたり、継続していく必要があります。
③FIRE達成に向け、貯めた資金を「殖やす」ということ
稼ぎ、そして貯める、というだけでは、FIRE達成のために必要な資金を早期に確保することには限界があります。
また、FIRE達成後は、出来るだけ資金元本を減らさぬよう、投資・運用によって、「お金に働いてもらう」というプロセスが重要になります。
このため、FIRE達成に向けては、
- インデックス投資や
- 不動産投資(不動産クラウドファンディングの活用なども含む)、
- 高配当株投資等、
様々な投資分野について勉強し、安定的に収益を上げていく方策を習得する必要があります。
FIRE達成の具体的なメリットは
上記したように、FIRE達成に向けては、稼ぎ、貯め、そして殖やす、という、長期にわたる取り組みをやり抜く必要があります。
それは大きな労力を伴うものですが、その分、FIRE達成には、下記するように、様々なメリットがあります。
自分の人生に関する「自由」を手にすることが出来る
- 時間的な自由:
FIREを達成することが出来れば、もはや、何時に起き、何時に食事をして、何時に寝ようが、全て、その人の自由です。
通勤のために早起きする必要もなければ、翌日の仕事のために、好きな創作活動を早めに切り上げる、等といった必要もありません。
残された自分の人生における「時間」を、全て、自分の好きなように活用することが出来る、というのは、FIRE達成者にとって、大きなメリットと言えます。 - 地理的な自由:
FIREを達成し「通勤」という制約から解放されれば、もはや、どこに住もうと、その人の自由です。
「通勤に便利」というだけの理由で、家賃の高い都会に住み続ける必要はありませんし、そもそも、どこかに定住する、という必要すら、なくなるかもしれません。
かねてより憧れていた海外移住にチャレンジするもよし、キャンピングカーで日本中を巡りながら、まさに文字通り、「旅をしながら暮らす」のも、全て、その人の自由となります。 - 精神的な自由:
FIREを達成し、経済的な独立を果たすことができれば、もはや、仕事・お金のために、やりたくもない仕事をしたり、会いたくない人と会うような必要はなくなります。
「ライスワーク(Rice Work)」から脱却し、自分が本当にやりたいこと、すなわち「ライフワーク(Life Work)」に専念することが出来るようになります。
FIRE達成を通じ、経済的な自由の獲得と合わせて、精神的な自由をも、獲得することが出来るわけです。
FIRE達成までの過程を通して、様々なことを学び、ノウハウを蓄積することが出来る
人はFIREを目指し、それを達成する過程で、様々なことを学ぶこととなります。
- 転職・副業に関するノウハウ:
FIRE達成のためには、まずはしっかりと「稼ぐ」ことが大前提となります。
必然的に、転職や、サイドビジネス、副業に関する知見を、集中的に獲得することが出来ます。
そうして習得したノウハウを、ブログやSNSなどで発信すれば、更なる収入源と出来る可能性もあります。 - 年金や健康保険制度など、公的な社会保障制度に関する知識:
FIREに向けた試算を行うにあたっては、自分自身が、何歳から、いくら程度の金額の年金を受け取ることが出来るのかを、事前に(出来る限り正確に)把握する必要があります。
また、FIREによる早期退職によって、様々な社会保障制度の対象外となる事も想定されます。それらのメリット・デメリットを逐次把握していかないことには、FIREそのものを目指すべきか、否か、の判断すら、正確に行うことは出来ません。
このため、FIRE達成を目指すにあたっては、自然と、公的年金制度や社会保障制度について、人並み以上の知識を吸収・取得していくこととなります。 - 節約に関する知見:
稼いだお金のうち、いかに高い割合を、貯蓄に回すことが出来るか、は、FIREの達成可能性を高め、かつ、実現スピードを速めるために、欠かせないポイントとなります。
当然、節約に関するノウハウを蓄積することが必要不可欠となり、また、そうして得たノウハウは、FIRE達成後にも、十二分に生かすことが出来ます。
同じように節約に悩んでいる人に対して、効率的な節約ノウハウを助言・アドバイスすることが出来れば、他者の役に立っている、という充実感を得ることも出来ましょう。 - 投資・資産運用に関するノウハウ:
FIRE達成のためには、貯めた資金を「殖やすこと」、すなわち、資産運用に関するノウハウが欠かせません。
「老後2千万円問題」などが騒がれる昨今、資産運用に関する知見は、FIREを目指す者のみならず、全国民必携の知識となりつつあります。
参考:
FIREによるアーリーリタイアは、本当におすすめなのか|FIREをおすすめする人、おすすめしない人
FIREを目指すデメリットとは
上記したように、FIRE、及びFIREを目指す過程には、様々なメリットがあります。
しかしながら、その反面、FIREには、メリットばかりではなく、下記のようなデメリットもある、ということに、注意しておくことが必要です。
①無理な節約生活によって、家族の信頼関係に支障をきたすこともある
一人暮らしの若者が、自分の判断のもとに、自分の主義・理想を達成するためにFIREを目指すのは、ともすれば、容易なことと言えるかもしれません。
しかしながら、配偶者がいたり、はたまた、子供がいる、といったような人がFIREを目指す場合、一筋縄ではいきません。
効率的にFIRE達成を目指すためには、当然、家族の協力が不可欠ですが、最近提唱されるようになったばかりの、耳慣れないムーブメントについて、積極的に賛同してくれる配偶者ばかりとは限りません。
また、子供にも、子供なりの意見があります。
世帯主が、FIRE達成を早めるために、家賃や生活費の安い地方に転居したい、と考えたとしても、子供が「絶対に転校は嫌だ」と主張した場合、親として、どのように判断するべきかは、意見の分かれるポイントとなりましょう。
こうした岐路において、FIRE達成を優先するあまり、配偶者や子供、その他親族等の意見をないがしろにすれば、そのことがきっかけで、以後の家族内の信頼関係に、思わぬ亀裂が入ってしまうような事態にも、つながりかねません。
②非効率な副業に終始すれば、体調不良を招いたり、本業で不調をきたすこともある
昨今、副業を解禁する会社も増えてきましたが、今でも尚、副業に対して消極的な会社も少なくありません。
その理由はいくつかありますが、中でも大きな根拠と言われるのが、副業に取り組むことで、就労者の、体力的・精神的な回復がおろそかになり、
- 体調不良に陥ったり、
- 肝心の本業において、ミスが連発するなど、不調が生じてしまう、といった事態が、
容易に起こりえる、という点です。
FIRE達成を早めるためには、当然、単純な収入量を増やすべく、副業は有効な手段です。
しかし、どれだけ副業に取り組もうとも、結局、一番頼りになるのは、その人がメインで取り組んでいる「本業」です。
副業に熱心になるあまり、本業がおろそかになってしまうようでは、当然、本末転倒です。
③そもそも、早期退職には何かと不利な点が多い
数十年以上の長きに渡り、「新卒採用・終身雇用」が大原則とされてきた日本社会において、「早期退職」という選択肢は、あまりメジャーな物ではありません。
このため、様々な社会制度を俯瞰したときに、FIRE、及びアーリーリタイア、という選択は、色々と不利な結果を招きやすいのも事実です。
その最たるものと言えるのは、退職金制度でしょう。
基本的に、退職金は、就労者が、定年退職した場合に、満額が支給されます。
そして、就労者が早期退職した場合、勤続年数の長短によって、支給退職金は、順次、減額されることとなります。
※そもそも、退職金制度自体が、「早期退職を出来るだけ防ぎ、会社に人材を長く定着させること」を目的としているため。
FIRE達成には、いくら必要なのか
ここ数年、広く様々な社会層から、大きな関心を集めつつある、FIRE。
それでは、目下就労中、という立場にある人が、現にFIREを目指していく場合、いくら程度の資金が必要となるのでしょうか。
FIRE本でよく見かける「年間支出の25倍貯蓄、4パーセント運用ルール」とは
FIREに関する本を既に読みこんでいる人の中には、FIRE達成に必要な金額の計算方法として、
- 年間支出額の、25倍相当額を貯蓄して、
- 毎年、年利4パーセントで運用していけば、
- 貯金した元本を一切減らすことなく、その後、投資の利回りだけで生活していくことが出来る、
という話を聞いたことがあるでしょう。
「年間支出額の25倍」とは、いくら程度なのか
「年間支出額の25倍」と聞くと、なかなかイメージがわきづらいでしょう。
各年間支出ごとに、その25倍相当額を具体的に計算してみると、下記のようになります。
年間支出 | 25倍相当額 |
200万円 | 5,000万円 |
300万円 | 7,500万円 |
400万円 | 1億円 |
500万円 | 1億2,500万円 |
600万円 | 1億5,000万円 |
700万円 | 1億7,500万円 |
800万円 | 2億円 |
年間支出額を単純に25倍した数値を列記
こうしてみると、「25倍」というのが、いかに大きい数字が、というのが分かります。
年間支出500万円の人が、50歳までに1億円強を貯めるには、毎月いくら貯金すればよいのか
仮に、「年間の支出額の25倍相当額を貯蓄しないと、FIREは達成できない」のだとすれば、果たしてその貯蓄額を達成するためには、毎月いくら程度の金額を、貯蓄に回す必要があるのでしょうか。
例えば、現在40歳、年間支出500万円、という人が、50歳でのFIREを目指し、支出の25倍に相当する、1億2,500万円を貯蓄する、という場合、
- 貯蓄のために使える期間は、10年間(40歳から50歳までの間)、
- 1年間あたりの必要貯蓄額は、1,250万円(1億2,500万円÷10年間)、
- 1か月あたりの貯蓄額は、100万円強、
となります。
条件通りの貯蓄を実際に行うのは、極めて大変なことだ、というのが、お分かり頂けたことと思います。
「年利4パーセント運用」とは
続いて、「年利4パーセントで運用する」という部分について考えてみましょう。
まず、重要になるのが、「年利4パーセント」というのは、基本的に、「税抜き後」である必要がある、ということです(生活資金に充てる必要があるため、当然です)。
税抜き後で4パーセント、ということは、税引き前では、少なくとも5パーセント程度、多ければ7パーセント~8パーセント程度の利回りが必要となります。
※投資収益に対する課税率は、投資分野によって様々です。特に、申告分離課税の対象となるか、総合課税の対象か、という点は、重要なポイントとなります。
そして、実際問題として、毎年コンスタントに、税引き前5パーセント~8パーセントもの投資収益をあげていくのは、決して簡単な事ではありません。
まず、投資の大原則として、期待利回り(リターン)が大きくなればなるほど、リスク(利回りの標準偏差)も大きくなります。
「年率リターン0.1パーセント程度で良い」と考えるのであれば、リスクもまた、上下3パーセント程度で収まるかもしれません。
しかし、「年率で5パーセント以上の期待利回りが必要だ」とするのであれば、上下20パーセント~30パーセントのリスクを許容しなくてはならなくなる恐れもあります。
また、投資におけるリターンを追求しすぎると、実際以上にリスクを小さく偽った(ないしは、実態以上にリターンを大きく偽った)、怪しげな投資商品にひっかかってしまうリスクもまた、必然的に高まることとなります。
基本的に、「年間支出の25倍貯蓄・4パーセント運用」は、米国基準の話
まず、理解しておきたいのは、米国人著者による書籍を日本語に翻訳しただけのFIRE本等でよく触れられている、「年間支出の25倍貯蓄。年率4パーセント運用」というのは、FIREムーブメント発祥の地、と言われる、アメリカ合衆国を基準とした話だ、という事です。
- 日本とアメリカでは、年金制度、退職金制度などの社会保障制度の内容に、大きな違いがありますし、
- 投資からの収益(配当所得や、株式の値上がり益等)に対する課税制度にも、異なる点が多々あるほか、
- 過去数十年の、主要インデックスの値上がり状況にも、相違があります。
- 勿論、インフレ率にも、大きな違いがあります。
例えば、アメリカの主要企業500社で形成されているS&P500指数は、過去数十年で、数十倍という、極めて大きな成長を記録してきました。
一方、日本の主要株式指数と言われる日経平均株価やTOPIXは、そこまでの値上がりを記録できていません。
また、毎年、年率換算で数パーセント程度のインフレーションを経験してきたアメリカと違い、日本では、ここ数十年、アメリカほどの大幅な物価上昇は生じていません。
少なくとも、読者の皆さんが日本在住の日本人であり、「日本基準」でのFIRE達成を目指すのであれば、「年間支出の25倍貯蓄・4パーセント運用」に固執する必要はありません。
日本独自の年金制度・社会保障制度について情報を収集しながら、自身の
- 支出
- 収入
- 期待利回り
を主な変数にしながら、自分自身にあったFIRE計画を立案していけば良いのです。
そもそも、FIRE達成後は、毎月いくら程度の支出を見込んでいるのか
仮にFIREを達成したとして、その後の恒常的な生活に、毎月、いくらくらいの資金を必要とするのか、すなわち、どの程度の支出を見込んでいるのか、という点は、FIREに関する試算を行ううえで、最も重要な変数と言えます。
そして、この変数にどのような数値を当てはめるのか、は、FIREに取り組む人それぞれの属性等によって、千差万別です。
主に影響を与えるファクターとしては、下記のような物があります。
その人の家族構成
- 独身なのか。それとも、配偶者がいるのか。
- 結婚している夫婦がFIREを目指す場合、子供はいるのか。現在子供はいないとしても、将来、子供を持つ予定はあるのか。その子供については、どのような教育方針を持つ予定なのか(都会に暮らし、高度な学校教育等を受けさせたいのか。それとも、地方に暮らし、自然の中で、伸び伸びと成長してほしいと願うのか)。
- 両親は健在なのか。介護が必要となった場合、誰が、どのような介護を行う予定なのか。両親が介護施設に入居することとなった場合、その費用はいくら程度が必要で、誰が、どの程度の金額を負担する予定なのか。
FIREを目指す本人の年代
- 生活費を切り詰めても苦にならない程度の年代(概ね、若い年代)なのか。それとも、極度の節約生活を送ることは難しい、壮年期以降の年代なのか。
- 社交や自己投資等に資金を必要とする年代か。それとも、社交の第一線からは身を引いており、さほどの交際費・交遊費を必要としない年代なのか。
- 自身や配偶者の医療費がかさむ年代なのか。それとも、さほどの医療費を必要としない年代なのか。
その人本人の、日頃の生活レベル
- 毎月多額の生活費用を要するような、豪奢な生活に慣れているのか。
- それとも、倹約生活に慣れており、さほどの生活上の支出を要さない人なのか。
FIRE後の生活する予定の居住地域・国
- 一般的な生活を送るにあたって、物価の高い国で余生を送る予定なのか。それとも、先進国一般レベルの物価を要する国・地域で生活する予定なのか。
- 生活にあたり、公共交通機関の利用は見込める地域なのか。それとも、自家用車等の手配を要する地域なのか(自家用車の活用を要する場合、車両取得費用や、車検代、修理費用、自動車税、といったコスト負担が必要となる)。
FIRE達成後は、毎月(ないしは、毎年)、いくら位程度の収入を見込むことが出来るのか
昨今、FIRE、と一言に言っても、実は、様々な種類があります。
FIRE達成後は、就労系の所得が完全に途絶えるのか。それとも、一定程度の副業による収入は期待できるのか。
この点を検討することで、FIRE達成の必要額は、大きく上下することとなります。
フルFIREを希望している場合の必要額
会社からの早期退職を済ませたら、「あとは一切働かない」というライフスタイルを示すのが、フルFIRE(完全FIRE)です。
この場合、FIRE達成後の生活資金としては、
- FIRE生活突入前に用意した貯金、及び、
- 公的年金等、
- そして、FIRE達成後の投資によって得た投資収益のみ、
となるため、必然的に、FIRE達成のために必要な資金の量も多くなることとなります。
サイドFIREでOK、と考える場合
フルFIREと違い、「FIRE達成後も、気が向いたときに(ないしは、必要が生じれば)簡単な仕事を行う」ことを是とするのが、「サイドFIRE」という考え方です。
FIRE達成を果たした後も、適宜、簡単なアルバイトや、インターネット経由で出来る副業等に取り組むことを前提としているため、当然、FIRE達成のために必要な資金量も、小さくなります。
欧米では、
- バリスタFIRE
- コーストFIRE
等という呼ばれ方をすることもあります。
退職金・年金収入の見込み額把握も必要
FIRE達成希望者にとって重要となるのが、「自分が、いくら程度の退職金を、いつ頃、受け取ることが出来るのか」という点に関する事前把握です。
特に、上場企業等に新卒から勤務し、定年間近まで就労する場合、退職金支給額は、数千万円規模となる事もあります。
※ただし、FIREに伴い早期退職する場合、退職金は満額支給されることはなく、適宜減額されることを覚悟しておく必要があります。
また、国民年金、ないしは厚生年金に加入している場合、自分自身が、
- いつから(=何歳から)、
- いくら位程度の年金を受け取ることが出来るのか、
- 繰り上げ受給により、年間の年金受取額を増やすことは出来るのか、
といった点について、ねんきんネットなどのツールも積極的に活用し、事前に検討しておくことも必要です。
FIRE前後の投資・資産運用において、いくら程度の運用利回りを見込むのか
FIRE達成に必要な元本を確保するため、そして、FIRE達成後の生活資金を確保するためには、資産運用への取り組みが欠かせません。
そして、FIRE達成にいくら程度の投資元本額が必要か、を計算するにあたっては、その人自身が、果たしてどの程度の投資利回りを見込んでいるか、にも左右されます。
なお、FIRE達成前後に個人投資家が取り組むことの出来る投資分野には、下記のような物があります。
不動産投資
アパート物件や、マンションの区分所有物件等を取得し、主にそこからの賃料収入に期待する投資スタイルです。
数年前までは、サラリーマン投資家の場合でも、アパートローンを組むことによって、数千万円~1億円前後の物件を取得することが出来ましたが、スルガ銀行の不正融資問題等を経て、銀行側が融資に消極的になっている、とも言われています。
そうした時代背景を受けて、昨今では、1口数万円程度の少額から投資できる、不動産クラウドファンディングという仕組みも整備されつつあり、注目を集めています。
インデックス投資
個別の株式銘柄に対して集中的に投資するのではなく、
- 日経平均株価や、トピックス、
- S&P500指数など、
株式市場等の「平均値」を示す指数(インデックス)に連動した投資成果の獲得を目指す投資信託(ETFを含む)に対して投資するスタイルを「インデックス投資」と言います。
- 個別の株式銘柄選びの手間暇から解放される
- 信託報酬等のコストが低い投資信託が増えている。また、買付手数料無料・信託財産留保額ゼロパーセント、といった投資信託も多い
- 主に米国株式市場のインデックスは、ここ数十年、高いリターン・パフォーマンスを記録してきた
等といった理由で、FIREを目指す個人投資家にも、絶大な人気を誇っています。
高配当株投資
主に上場企業からの配当金収入を目的に、配当利回りの高い企業株式を取得・保有する投資スタイルです。
- 高配当株の場合、相場全体が下落している局面でも、(その後の増配への期待などから)売られにくい、と言われている
- 配当金を再投資して、高配当株を買い足すこともできる(ただし、課税口座で配当金を受け取る場合、課税後の金額を再投資することとなる)
- 一旦取得した株式も、証券口座を通じて、いつでも気軽に売買することが出来る(ただし、売却のタイミングによっては、含み益に対する課税や、含み損の実現等が生じるケースがある)
等といったメリットがあります。
基本的に、配当性向の強い企業は、成熟産業に属しているケースが多く、大幅な株価上昇(キャピタル・ゲイン)は狙いづらい、というのが難点ですが、特にFIRE達成後の安定収入を確保したい、と考えている個人投資家においては、高配当株投資に魅力を感じるケースも多々あります。
ソーシャルレンディング
貸金業、及び第二種金融商品取引業の登録を得ているソーシャルレンディング事業者の募集ファンドに対して出資し、その後、ソーシャルレンディング事業者からの分配金収入に期待する、という投資モデルを指すのが「ソーシャルレンディング」という言葉です。
欧米のP2Pレンディング(ピアツーピア・レンディング)をモチーフとして投資スタイルですが、日本の場合は、個人向けの消費者金融ではなく、あくまでも、事業資金を必要としている一般企業が、融資対象となっている、という特徴があります。
- 一口数万円程度の少額から、「匿名組合出資」というスキームを活かし、実質的に、貸金業者の融資プロジェクトに対して、相乗り投資を行うことが出来る
- 提示されている期待利回りが高い(概ね、年率換算数パーセント~10パーセント弱程度)
- 不動産担保付きのローンファンドや、上場企業に対して融資する案件も募集されている
等といったメリットがある一方で、貸し倒れに伴って元本割れが生じるリスクや、ソーシャルレンディング事業者自身の不正リスク・経営破綻リスクから隔離されていない、等といった難点もあり、留意が必要です。
FIREにいくら必要か、実際に試算をしてみよう(サイドFIREも同時検討)
「FIREにいくら必要か」を試算するためには、
- 老後、すなわち、公的年金の受給を開始してから、と、
- 現役世代、すなわち、年金受給開始「前」とを、
明確に分けて考える必要があります。
「終生支給」が原則とされる、公的年金の受給開始により、その人の収入状況は一変しますし、併せて、基本的に、年金受給年代になると、支出も大幅に減る傾向があるため、です。
このため、FIREの必要額を試算するにあたっては、
- まず、毎月の老後生活に、どの程度の赤字が生じるのか、を把握し、
- 一般的な老後生活の長さ(=現役引退後の寿命と関連します)をしたうえで、
- 数十年間にも及ぶ長い老後生活を支えるための、トータルでの必要資金量をシミュレーションし、
- そこに、現役期間のうち、FIREによる早期退職を済ませた「後」の期間分の生活を支える資金量を加算し、
- 必要な貯金量の総計を、求める必要があります。
些か煩雑なプロセスとはなりますが、FIREを机上の空論で終わらせず、実際に実現可能な「目標」にするためには、そもそもFIREに「いくら必要なのか」に関して、出来るだけ精緻なシミュレーションは欠かせません。
そもそも、老後の生活には、いくら必要なのか
最初に、「老後資金がいくら必要なのか」を検討するにあたっては、令和元年(2019年)6月3日に金融審議会「市場ワーキング・グループ」が公開した、「高齢社会における資産形成・管理」 という資料が参考になります(いわゆる「老後2,000万円問題」のきっかけとなった文書です)。
長い資料のうち、FIREに向けたシミュレーション・試算において留意したいポイントとしては、主に下記のような点があります。
高齢者の長寿化の進行
目下、日本国において、平均寿命は、男性が約81歳、女性が約87歳となっており、1950年頃の時点では、男性の平均寿命は58歳程度、女性の平均寿命は61歳程度であったことを考えると、飛躍的な伸びとなっています。
2015年時点での推計では、同年時点で60歳の人のうち、4人に1人が、95歳まで生存する、との予測値もあります(※1995年時点での推計では、同割合は、約半分の14パーセント程度でした)。
実際にFIREにいくらかかるのか(より具体的には、FIRE後の老後生活には、いくらかかるのか)、を試算するにあたっても、この「長寿化」については、十分に留意する必要があります。
仮に、65歳から公的年金の受給を開始したとすると、その後、30年程度の長きに渡り、「老後生活」が続く可能性が、十分にあるため、です。
また、平均寿命と連動して、平均的な「健康寿命」も延びていますが、
- 男性では9年弱、
- 女性の場合で12年強の、
いわゆる「非健康余命」の存在にも、留意が必要です(男性の場合は72歳ころから、女性の場合は75歳ころから、就労が難しかったり、日常生活に何らかの制限が加わった形での日々を送ることが想定されています)。
また、軽度の認知症の人も合わせると、目下、65歳以上の人のうち、4人に1人が、認知や判断能力に、何らかの問題を抱えているとも言われており、特に、80歳前後から、認知症の有病率は急速に上昇します(90~94歳の段階では、男性の49パーセント程度、女性の65パーセント程度に、認知症がみられる、と言われています)。
このように、老後生活のうちの特に後半部分においては、日常生活に何らかの不便を抱えることが想定されており、FIREに必要な貯金量などをシミュレーションするにあたっても、あらかじめ、介護付きの有料老人ホームへの入居などにコストがかかることを、織り込んでおいたほうが無難と言えるでしょう。
世帯構成の変化
かつては、「親」「子」「祖父母」の三世代世帯が一般的だった(1975年時点では、全体の半分以上が、三世代世帯)日本ですが、近年では、
- いわゆるDINKS(Double Income No Kids)などとも呼ばれる、夫婦2人のみの世帯や、
- 単身の世帯が割合を高めており(※晩婚化等の影響がある、とされています)、
- 三世代世帯は、2017年時点では、全体の11パーセント程度にまで減少しています。
長きに渡って、”家族”の一般的なモデルケースとされてきた、「結婚後も親と同居し、親の老後の世話は、子供が見る」という形態は、もはや形骸化しており、老後の生活の場として、老人ホームなどを選ぶ世帯も増えつつあります。
子のいる世帯の場合、「老後生活については、子供に面倒を見てもらえるだろう」等と期待している人もいるかもしれませんが、それは幻想に終わる可能性が高く、FIREについて試算するにあたっても、「老後は、年金を受給しながら、子供の家に同居する=さほどコストはかからない」等と楽観するのは、やめておいたほうが良いでしょう。
持ち家比率の低下
かつては自宅について、「持ち家」が当たり前でしたが、近年、特に若年層を中心に、持ち家比率が低下しています。
- 40歳~49歳:
1988年時点では約70% → 2013年では60%程度 - 30歳~39歳:
1988年時点では50パーセント程度 → 2013年では38パーセント程度
仮に、これらの世代が、このまま持ち家を保有せず、「賃貸」のままで老後を迎えた場合、老後の必要資金シミュレーションに、大きな影響を与えることとなります。
後述する、老後の生活資金の収支においては、その支出として、住居費は、1万円前後の修繕費程度しか見込んでおらず、賃貸で家賃支払いが生じることを想定していないため、です。
FIREを検討するにあたっても、出来ればFIRE達成前に住宅ローンを組み、「終の棲家」を入手しておくほうが、好ましい、というのが実情です。
老後生活を支える退職金の支給額などは、低下傾向
かつては、「公的年金+会社からの退職金」で、老後生活を賄っていくことが一般的、とされていました。
後述の試算の場合でも、
- 退職金が2000万円程度、満額支給され、
- 60歳の定年退職意向も、継続雇用制度によって、65歳の年金受給開始まで働き、
- かつ、持ち家であれば、
老後生活に本来支障はない、とされています。
しかし、退職金給付制度がある企業の、全体の割合は、近年、徐々に低下をしており、2018年では、約80%となっています(企業規模が小さくなると、更にその割合は小さくなります)。
また、定年退職者の退職給付額を見ると、平均で1,700万円から2,000万円程度、とされており、ピーク時と比較すると、約3~4割程度、減少しています。
さらに、昨今の働き方の多様化等を考えると、退職金をあてに出来ない個人(短期間での転職を繰り返している人や、フリーランス等)は増えていくことが予想されており、「公的年金+退職金で老後は悠々自適」というスタイルは、もはや、過去の物となりつつあります。
老後の、平均的な支出・収入の状況
バブル期と比較すると、近年、大多数の年代で、世帯主の収入は、低い状況が継続しており、支出に関しても、概ね同じような傾向がみられます。
また、支出に関しては、加齢に応じて減少していくことが顕著であり、50代(現役世代)と比較すると、60代の平均的な支出額は、2割ほど低下し、70代になると、この傾向はさらに強くなります。
このように、高齢になるにつれて、基本的に、支出は減っていくのですが、年金の所得代替率も、併せて低下傾向にあるため、高齢夫婦・無職世帯(夫が65歳以上、妻が60歳以上)の平均的な家計収支の状況としては、毎月5万円程度の赤字が出ている、とされています。
高齢世帯の平均的な収入内訳
内訳 | 金額(円) |
社会保障給付(年金) | 191,880 |
勤め先収入 | 4,232 |
事業収入 | 4,045 |
その他収入 | 9,041 |
合計 | 209,198 |
引用元:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190412/02.pdf
基礎年金+夫の厚生年金で、合計19万円強の年金収入があり、総計21万円弱程度の収入があることが分かります。
※ただし、あくまでも平均値です。
高齢世帯の平均的な支出内訳
内訳 | 金額(円) |
食料 | 64,444 |
住居 | 13,656 |
水道光熱 | 19,267 |
家具・家事用品 | 9,405 |
被服・履物 | 6,497 |
保健医療 | 15,512 |
交通・通信 | 27,576 |
教育 | 15 |
教養娯楽 | 25,077 |
その他の消費 | 54,028 |
非消費支出 | 28,240 |
合計 | 263,718 |
引用元:https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/market_wg/siryou/20190412/02.pdf
毎月の赤字額(収入-支出)は約5万円となっており、この赤字については、本人が預貯金などを取り崩して工面することが前提とされています。
年間の赤字額は、約60万円となり、仮に、こうした生活が30年間続けば、必要な補填額は、約2,000万円程度に及びます(この試算結果を受けて、数年前、いわゆる「老後2,000万円問題」論争が勃発しました)。
元気な高齢者
2016年の時点では、65歳~69歳の男性の55%、同年代の女性の34%が働いており、この、高齢者就労率は、他の経済先進国(米国やカナダ、イギリス、ドイツ、フランス等)と比較しても、日本は突出しています。
高齢者の運動能力も、2000年当時と比較して伸長しており、「(働けるうちは)いつまででも働きたい」と考える高齢者も、少なくない、とされています。
インターネットの利用率や、数学的な思考能力・読解力も、日本の60歳~65歳の点数は、OECD 諸国の45歳~49歳の点数とほぼ同程度、とされており、この「元気な高齢者」傾向は、今後も継続すると予測されています。
FIRE希望者は、「1日でも早く早期退職をして、その後はゆっくりと過ごしたい」と考える傾向にありますが、時代は逆行していることに対して注意が必要です。
国としても、年金財政を支えるために、高齢者の就業継続をサポートする方向を明確にしていますから、若年のうちから早期退職を希望するような、国策とは逆行する「マイノリティ」に対しては、手厚いサポートは期待しづらいでしょう。
金融資産は、高齢者層に偏在している
2014年の時点で、個人の金融資産の65パーセント程度は、60歳以上の高齢者が保有しています。
1999年時点では、同割合は58パーセント程度だったことから、金融資産全体における高齢者の占有率が高まっている様子が伺えます。
また、一般的に、30代~50代前後は、資産に占める負債の割合が大きく、60歳前後から、負債の割合が急速に減り始めます。
若い現役世代は、住宅ローン等の負債が重く、60歳前後で退職金を受け取り、これを完済している様子がうかがえます。
平均値でいえば、65歳時点での金融資産(負債を含む)の保有状況は、
- 夫婦世帯:2,252 万円
- 単身男性:1,552 万円
- 単身女性:1,506 万円
とされており、老後の取り崩しを考えても、この数値ならば賄える、と言えましょう。
※ただし、そもそも、前述の「高齢者夫婦の平均的な支出」には、家賃が含まれていない(=持ち家に居住していることが前提とされている)ほか、老人ホームなどの介護費用や、老後生活に向けた、住宅のリフォーム費用などは含まれていない、という点に、留意が必要です。
結局「平均的な老後」のためには、どの程度の老後資金を蓄えておく必要があるのか
前掲の政府公開資料によれば、老後の無職夫婦の月間収支は、年金収入等を考慮しても、毎月5万円程度の赤字となっており、かつ、男女ともに、長寿化の傾向が顕著となっています。
- 60歳で、勤務先から定年退職し、満額の退職金を受け取り、
- その後、65歳まで、継続雇用制度で就業を続け(※現在、企業は、65歳までは、就業継続を希望する従業員を、雇用し続ける義務を負っています。ただし、それまで同様の正社員待遇を維持する義務はないため、多少給料が下がるのが一般的です)、
- 65歳で、フルリタイアして、年金受給を開始した場合、
その後、30年分の生活を考えると、年間60万円(毎月5万円の赤字×12ヶ月)×30年≒約2000万円は、赤字補填のための原資が必要となります。
さらに、この試算は、老人ホームへの入居費用や、老後生活に向けた住宅リフォーム費用等については考慮していないため、ある程度経済的に余裕のある老後を志向する、となると、年金収入以外に、3,000万円程度は、老後に向けた資金ストックが欲しいところです。
大手企業に勤務していて、かつ、60歳の定年まで勤務を続ければ、退職金は、概ね2,000万円程度は期待できるでしょうから、その後も65歳まで、しっかりと継続雇用制度によって会社に居座れば(=FIREを一切検討しなければ)、あと1,000万円程度預貯金があれば、老後生活は十分に賄えましょう。
しかしながら、
- 住宅が持ち家ではなく、賃貸である場合、及び、
- FIREによって、厚生年金の加入期間が短縮されたり、退職金の減額が想定される場合、
事情は、変わってくることとなります。
住宅が持ち家ではなく賃貸である場合、老後資金にはいくら上乗せが必要なのか
金融審議会などが公表している上記試算では、老後生活の拠点は、住宅ローンを完済した「持ち家」で想定されています。
仮に、「老後も賃貸住宅で」と考える場合、老夫婦2人のための慎ましい住宅であったとしても、月額5万円程度の家賃費用が上乗せとなります。
年間の家賃は60万円、老後生活が30年と仮定すれば、1,800万円分の資金上乗せが必要です。
FIREによって厚生年金加入期間が短縮されると、年金収入はいくら減るのか
老齢基礎年金、すなわち、国民年金部分は、1人月額6.5万円です(夫婦2人の場合、月額13万円)。
金融審議会公開のモデルケースの場合、毎月の年金収入は、約20万円でした。
すなわち、約7万円が、夫の会社員時代の厚生年金加入実績に基づく、報酬比例年金となります。
これは、22歳から定年退職まで勤務した場合、すなわち、定年退職を60歳とすれば、38年間勤務した場合の受け取り年金です。
仮に、FIREに伴い、勤続20年で早期退職する場合、厚生年金は約半分の、3万円~4万円程度となりましょう。
差額は年間で50万円程度におよび、仮に、30年間の老後生活を想定するならば、総額1,500万円程度の差額の原因となります。
また、FIREによって早期退職をする場合、退職金についても、減額されてしまう、という点にも、留意が必要です。
FIREで早期退職する場合、年金受給開始前までの生活には、いくら必要なのか
老後に向けて、いくら程度の資金を蓄えておけば良いのか、が判明したら、続いては、年金受給を開始するまでの間、いくら程度の資金量が必要なのか、を考える必要があります。
その際は、
- 早期退職後、一切就業しない、「フルFIRE」を前提とするのか、
- 会社からの早期退職後に、アルバイト等で少額ながら収入を得続ける、「サイドFIRE」を考えるのか、
によって、試算結果に違いが出てくることとなります。
サイドFIREではなく、あくまでも「フルFIRE」に固執する場合、いくら位程度の貯金が必要なのか
シミュレーションにあたり、下記の条件を仮定します。
- 公的年金の受給開始までの間、年間生活費は、400万円。
- 持ち家に居住しており、老後生活の毎月の赤字は、厚生年金等を満額受給する場合、5万円程度。
- 有料老人ホームへの入居を前提に、老後資金としては、3,000万円を蓄積する。
- 退職金は、満額支給の場合で2,000万円程度だが、FIREが早まれば早まるほど、減額される。
- 早期退職に伴う、受け取り厚生年金の減額程度は、あくまでも概算。
まずは、40歳でフルFIREをする場合、いくらかかるのか
年金受給開始まで | 25年間(65歳-40歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×25年間=1億円 |
厚生年金の減額(月額) | 5万円程度 |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | 5万円×12ヶ月×30年間=1,800万円 |
必要な老後資金 | 3,000万円+1,800万円=4,800万円 |
トータルの必要貯蓄額 | 1億4,800万円 |
期待できる退職金額 | 700万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 1億4,000万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
50歳で、フルFIREをする場合、いくら貯金が必要なのか
年金受給開始まで | 15年間(65歳-50歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×15年間=6,000万円 |
厚生年金の減額(月額) | 3万円程度 |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | 3万円×12ヶ月×30年間=1,080万円 |
必要な老後資金 | 3,000万円+1,080万円=4,080万円 |
トータルの必要貯蓄額 | 1億0,080万円 |
期待できる退職金額 | 1,200万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 8,800万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
40歳でフルFIREをする場合と比較すれば、勤務継続年数が長くなる分、
- 厚生年金の減額の影響も、多少軽減されるほか、
- 退職金の減額割合も、ある程度緩和されることが見込まれますが、
それでも尚、9,000万円弱程度の資金貯蓄が必要となります。
60歳でフルFIREする場合の必要貯金額はいくらなのか
年金受給開始まで | 5年間(65歳-60歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×5年間=2,000万円 |
厚生年金の減額(月額) | ほぼなし |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | ほぼなし |
必要な老後資金 | 3,000万円(厚生年金減額に伴う加算無) |
トータルの必要貯蓄額 | 5,000万円 |
期待できる退職金額 | 2,000万円(予定される退職金の満額支給) |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 3,000万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
- 同期入社の同僚の大半が、継続雇用制度を利用して、60歳で退職金を受け取ってから、あと5年間、会社にしがみつくが、
- 自分は、一足先に、フルリタイア生活に入る、
というFIREパターン。
厚生年金の加入期間は十分長期となるため、仮に継続雇用制度を利用せず、60歳でそのまま退職したとしても、受取額への影響は微小です。
退職金も、60歳まで勤務すれば、基本的に満額が支給されるため、老後資金としては、3,000万円程度を(退職金とは別に)用意しておけば良い、という試算結果となります。
もっとも、継続雇用制度によってあと5年間、給料をもらい続ける場合と比較すると、60歳~65歳の間の空白期間(=生活費は変わらず生じ続けるが、給与収入が無くなる期間)の存在が、いかに大きいか、が再実感されます。
サイドFIREを実現する場合、いくら位程度の貯金が必要なのか
フルFIREとは異なり、現在の勤務先から早期退職を果たした後も、アルバイトなどに従事して、多少の収入を得続けるFIREスタイルを、サイドFIREと呼びます(FIREムーブメント発祥の地、アメリカ等では、「バリスタFIRE」等とも呼ばれています)。
概ねの前提条件は、上述のフルFIREの場合と同様にしたうえで、早期退職の年代は問わず、早期退職後はアルバイト程度の仕事に就いて、年間100万円程度のアルバイト収入を得る、と仮定。
また、同じアルバイトを、年金受給を開始する、65歳まで継続する、と仮定してみましょう。
40歳でサイドFIREに踏み切る場合、貯金はいくら必要なのか
年金受給開始まで | 25年間(65歳-40歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×25年間=1億円 |
厚生年金の減額(月額) | 5万円程度 |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | 5万円×12ヶ月×30年間=1,800万円 |
必要な老後資金 | 3,000万円+1,800万円=4,800万円 |
トータルの必要貯蓄額 | 1億4,800万円 |
期待できる退職金額 | 700万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 1億4,000万円程度 |
アルバイト収入による補填 | 年間100万円×25年間=2,500万円 |
サイドFIREに踏み切るための必要貯蓄 | 1億1,500万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
アルバイト収入により、フルFIREと比較すれば、ある程度の収入補填は効くと言えども、依然として、1億円を超える貯金の確保が必要となります。
50歳で、サイドFIREをする場合の必要貯蓄額
年金受給開始まで | 15年間(65歳-50歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×15年間=6,000万円 |
厚生年金の減額(月額) | 3万円程度 |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | 3万円×12ヶ月×30年間=1,080万円 |
必要な老後資金 | 3,000万円+1,080万円=4,080万円 |
トータルの必要貯蓄額 | 1億0,080万円 |
期待できる退職金額 | 1,200万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 8,800万円程度 |
アルバイト収入による補填 | 年間100万円×15年間=1,500万円 |
サイドFIREに踏み切るための必要貯蓄 | 7,300万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
60歳でサイドFIREする場合はいくら必要か
年金受給開始まで | 5年間(65歳-60歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 400万円×5年間=2,000万円 |
厚生年金の減額(月額) | ほぼなし |
老後生活を30年と仮定した場合、厚生年金の減額の影響 | ほぼなし |
必要な老後資金 | 3,000万円(厚生年金減額に伴う加算無) |
トータルの必要貯蓄額 | 5,000万円 |
期待できる退職金額 | 2,000万円(予定される退職金の満額支給) |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 3,000万円程度 |
アルバイト収入による補填 | 年間100万円×5年間=500万円 |
サイドFIREに踏み切るための必要貯蓄 | 2,500万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
リーンFIRE実現のためにはいくら必要か
リーン(Lean)とは、「引き締まった」「無駄のない」等の意味を持つ英語。
企業経営に興味のある人は、2012年に日本語翻訳版が発刊された、『リーン・スタートアップ』という書籍を覚えている方もいるでしょう。
「スタートアップ企業を創業する場合は、まずは最低限(=リーン)のサービスを提供するところからスタートし、その後、ABテストなどで顧客の反応を観察しながら、徐々に、サービス内容や規模、人員を拡大していくのが良い」
という書籍で、往時、欧米、及び日本のスタートアップ界隈では、かなりの話題を博した良著として知られています。
そんな「リーン」という言葉と組み合わさった、「リーンFIRE」は、前述のフルFIREの一種とされていますが、
- 一般的なフルFIREが、基本的には、FIRE達成前と同程度の生活を前提とするのに対し(=区分を明確にすると、「ファットFIRE」とも呼ばれます)、
- リーンFIREの場合は、早期退職の達成と合わせて、生活水準を極端に落とすことを前提としています。
生活全般に必要な支出を、ぎりぎり最低限に留めることで、(ファットFIREの必要額ほどには)資産が貯まり切るのを待つことなく、出来るだけ早期にFIREへと踏み切ることを優先する、というFIREスタイルを指します。
実際の生活費の切り詰め方は人それぞれですが、共通して言えるのは、「月額数万円程度の節約とは、レベルが違う」ということ。
- 住居費のほぼかからない山奥に引っ越し、安い土地を自ら切り開いて、小規模な農園を営み、自給自足の生活を送る、ですとか、
- 日本と比較し、生活コストが極端に安い(場合によっては、数分の一程度で済む)、物価の安い国へと移住し、いわゆる「ひとりデフレ」状態を創出する、等々、
かなりドラスティックな手法で、生活コスト全体を切り詰めることが大前提とされています。
このため、「リーンFIREのためにはいくら貯金が必要なのか」をシミュレーションする際の前提条件は、前述の一般的なフルFIREや、サイドFIREのシミュレーション時とは、些か異なる様相を呈します。
- 公的年金の受給開始までの間、年間生活費は、200万円(前述のサイドFIRE等の場合は、400万円を想定していたが、その半額で計算)。
- 持ち家に居住。老後生活(=年金受給開始後)においては、赤字を出すことなく、あくまでも、支給される年金の範囲内で生活することを前提とする(場合によっては、老齢基礎年金のみで生活することを前提とする)。
- 有料老人ホームへの入居費用等は考慮しない。老後生活に向けた住宅のリフォーム費用等も考慮・加算しない。
- 退職金は、満額支給の場合で2,000万円程度だが、FIREが早まれば早まるほど、減額される。
- 早期退職に伴う、受け取り厚生年金の減額は、考慮しない(=どれだけ減額されようとも、支給される年金の範囲内での生活を前提とするため)。
40歳でリーンFIREをする場合、いくらかかるのか
年金受給開始まで | 25年間(65歳-40歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 200万円×25年間=5,000万円 |
期待できる退職金額 | 700万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 4,300万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
50歳で、リーンFIREに踏み切る場合、いくら貯金が必要なのか
年金受給開始まで | 15年間(65歳-50歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 200万円×15年間=3,000万円 |
期待できる退職金額 | 1,200万円程度 |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | 1,800万円程度 |
シミュレーション値は仮定です。
60歳でリーンFIREに踏み切る場合の必要貯金額はいくらなのか
年金受給開始まで | 5年間(65歳-60歳) |
年金受給開始までの必要貯蓄 | 200万円×5年間=1,000万円 |
期待できる退職金額 | 2,000万円(予定される退職金の満額支給) |
退職金を除いた、必要貯蓄額 | なし(退職金により、公的年金受給開始までの全生活費を賄うことが出来る) |
シミュレーション値は仮定です。
こうしてシミュレーションしてみると、40歳、50歳、60歳、どの年代でFIREに踏み切るかを問わず、リーンFIREを前提とする場合、これまでに試算した(年間生活費400万円程度想定の)フルFIREや、サイドFIREと比較し、圧倒的に小額な貯蓄額で、FIREに踏み切ることが出来る、ということが良く分かります。
特に、60歳で定年退職し、その後は継続雇用生活を利用せずにリーンFIREに踏み切る、という場合、公的年金受給開始までの生活費については、退職金で十分にカバーしたうえで、さらに老後に向けて、1千万円前後の余裕資金を残せる、という試算結果になります。
うまく、生活に必要なコスト水準を落としていくことが、FIRE達成の近道であることが分かります。
※逆に言えば、毎月のコンスタントな生活費を底上げしてしまう(=生活水準を上げてしまう)ことが、いかに、経済的な自由の確保のためには、悪影響を及ぼす行為であるか、ということも、如実に表す試算結果と言えましょう。
ただし、上記で試算されているリーンFIREの場合、公的年金受給開始までの年間生活費は200万円程度であり、月額にならすと、16万円程度となります。
終生実家に暮らし続け、親の資産や所得の世話になって暮らしていく、というのであれば、実現可能性もありましょうが、独立を果たして結婚したり、子供を授かったり、等と考えると、この金額では、月々の生活をやりくりすることは困難です。
もっとも、日本よりも物価の安い、東南アジア諸国や、南米などに移住すれば、この問題もクリアできる可能性があります。
ただし、経済のグローバル化の進展等により、経済新興国においては、インフレが進行しつつある、という点にも、注意が必要です。
物価安に期待して海外移住したが、その後、当国においてインフレーションが進行し、予定していた年間生活費では、十分な生活費を賄うことができなくなってきた、等という事態も想定されます。
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