FIRE(経済的自立確保&早期退職)の意味とは|アーリーリタイア生活のメリット&デメリットから検証
昨今、早期退職希望者の間で話題の「FIRE」とは
FIREとは、Financial Independence(経済的な独立)+Retire Early(早期退職)の頭文字をつなげた造語です。
「出来るだけ若いうちに、会社からの経済的な独立(=会社からの給料に頼らずとも、生計を立てることが出来る状態)を確立して、早期退職し、その後の人生を、自分が思うままに、好きに楽しもう」というムーブメントであり、ここ数年、アメリカら輸入され、特に、「定年まで会社に勤めて当然」という旧来型の価値観に対して疑問を持つ、若い会社員の方々の間で、注目を集めつつある考え方のひとつです。
FIRE達成までの具体的な方法
一般的な会社員が、FIREを達成するためには、主に、
- 退職後の必要元本をいち早く貯めるために「稼ぐ」
- 稼いだ資金を少しでも減らさぬよう「貯める・節約する」
- 稼ぎ、そして節約することによって貯めた資金を、「投資する」ことによって増やす
という、3つのプロセスを踏むことが一般的です。
①FIRE達成のために、とにかく「稼ぐ」
米国版FIREでは、
- まずは、年間生活費の25倍相当額を、貯蓄・投資によって確保する。
- そのうえで、年率4パーセント程度で資産運用する。
- その後、毎年、利回りの範囲内の金額で生活することが出来れば、資産が目減りすることはない」
ということを意味する、「25倍・4パーセントルール」が広く提唱されています。
これをそのまま日本に当てはめることが出来るかどうか、については、議論・検証の余地がありますが、何はともあれ、FIREを達成するためには、まず、その必要資金を確保するために、出来る限り早く、多くの金額を「稼ぐ」ことが必須条件となります(「節約」だけで、その後の生活元本を確保しようとしても、限界があるため、まずは、しっかりと稼ぐことが優先的、とされています)。
その具体的な方策としては、下記のようなものが挙げられます。
- まずは、目下、自分自身にとっての本業(会社員であれば、その勤務先)から支給される給与を最大化できるように、昇給・昇進等に関する社内規定を熟読し、早期の昇進・昇格(及び、それに伴う給与増)を目指す。
- 会社の資格取得補助金なども積極的に活用し、社内での昇進・昇格、及び、社外への転職活動等において有利となり得る資格の取得を進める。
- 現在の勤務先で、これ以上の昇進・昇格が見込めない場合(年功序列ルールが厳格であったり、そもそも、会社にそれほど多額の給与支払い原資がない、という場合等)、転職についても積極的に検討する。転職活動においては、とにかく、自分の1時間あたり単価を高く見積もってくれる会社への転職を目指す。「やりがい」等のソフトな指標を重視してしまうと、知らず知らずのうちに、低賃金労働を許容してしまうことがあるため、主に経済的な指標を重視して、転職活動を行う。
- 結婚している場合は、夫婦共働きを大前提とする(平均的な年収の2人であったとしても、共働きで所得を合算すれば、FIREへの近道となる)。
- 終業後は、スキルシェア・クラウドソーシングなどを活用した副業や、ポイ活、不動産投資など、より「稼げる」サイドビジネスの展開を積極的に進める。
②FIRE達成まで、ひたすら節約・貯める
どれだけ稼ごうとも、湯水のようにお金を使ってしまっていては、FIREは遠のくばかり。
なんといっても、FIREの場合、基本的には、年間生活費の25倍程度の資金をまず貯めることが大前提となります。
すなわち、「年間生活費」そのものを下げれば下げるだけ、FIRE達成の必要額は小さくなりますし、「貯蓄体質」が強化されやすい、というメリットもあります。
FIRE達成に向けた、具体的な「節約・貯蓄」ノウハウとしては、下記のようなものが挙げられます。
- マネーフォワードやZaimなどの家計簿管理アプリを積極的に活用し、「支出の見える化」を徹底する。そのうえで、削れる支出については、徹底的に節約していく。
- あまり視聴していない動画ストリーミングサービスなど、不要なサブスクリプション・サービスについては、どんどん解約を進める。
- 住宅コストを節約すべく、実家暮らしなどについても、人目・世間体などを気にすることなく、積極的に検討する。
- 食費の支払い等の決済においては、極力、ポイント還元率の高い(=実質的には割引と同義となる)クレジットカードを利用する。
- 通信費節約のために、格安SIMなども積極的に活用する。
- 場合によっては、生活コストの安い国への移住も含めて検討する。
- 節約が面倒に感じたら、その出費の「将来価値」を考える(=現在の1万円は、利回り7パーセントで複利運用できれば、10年後には、2倍になる)。
③FIRE資金の確保加速のために、投資する
稼ぎ、そして節約するだけでは、年間生活費の25倍もの金額を貯めることは困難です。
そこで、FIREを実践するにあたっては、「稼ぎ、そして、貯めた資金を、投資運用によって、更に増やす(=お金にも、働いてもらう)」というプロセスが必要となります。
なお、FIREを前提とした投資において、さしたるリスクを取ることは賢明ではありません。
このため、FX投資や仮想通貨投資、個別株式投資など、比較的リスクの高い投資スタイルは、あまり推奨されることがありません。
逆に、米国のFIRE本等を含めて、FIREを目指す投資スタイルとして推奨されることが多いのは、各市場の指数(主に平均値)に対して、投資信託・ETFなどを活用して投資する「インデックス投資」です。
また、インデックス投資の実践においては、iDeCoやつみたてNISA、といった、政府の投資支援制度を最大限に活用していくことがポイントとなります。
FIRE実現の意味・メリットとは
若い社会人がFIREを目指す意味、すなわち、具体的に想定されているメリットとしては、下記のような物があります。
人生にとって必要な、「自由」を手に入れる
FIREを実現することが出来れば、その人は、経済的な自由を手にすることが出来ます。
FIREの提唱するFinancial Independenceとは、主に「会社からの」経済的な独立、を意味しています。
昨今、会社員が自らのことを自虐的に「社畜」、すなわち、会社の家畜、と呼ぶことが増えています。
- 経済的なバックボーンが無いから、会社をクビにされてしまっては困る
- 上司・同僚に嫌われないように、自分がやりたくない仕事でも、いやいや、こなしていくしかない
- 会社の人間関係について悩みがあったとしても、経済的な理由から、退職することも出来ず、我慢するしかない
- 毎日、満員の通勤電車に揺られて通勤することは、誰にとっても苦痛だが、会社がそれを求めている以上、仕方ない
FIREを達成すれば、こうした制約から、晴れて、自由になることが出来ます。
自分の時間は、自分が好きなように使うことが出来ます。何時に起きようとも、何時に寝ようとも、それは、一人一人の自由です(勿論、その分の責任が伴いますが)。
やりたくない仕事、意味の見いだせない仕事を、嫌々継続する必要もありませんし、関わりたくない人とは、関わらない自由が確保できます。
住む場所に関する自由も、FIREを達成すれば、難なく手にすることが出来ます。
キャンピングカーで毎日旅をしながら暮らしてもいいですし、昔からあこがれていた異国に暮らしてもいいわけです。
むしろ、物価の安い外国に暮らすことは、FIREの常とう手段の一つでもあります。
経済的な自由の確保は、すなわち、精神的・心理的な自由にも直結しています。
自分の人生を、自分自身でコントロール出来るのだ、という満足感は、金銭に代えがたい価値があります。
無意味な「ライスワーク」から脱却し、「ライフワーク」のステージへ
経済的な理由、すなわち、食べるため、の仕事のことを、「ライスワーク」と言います。
自分がやりたくもないのに、ただただ、経済的な理由だけで、今の会社員生活を続けているのであれば、それは、「ライスワーク」と言えます。
これに対して、自分が本当にやりたい、と思っている仕事(社会貢献活動等)に取り組むことが出来れば、それは「ライフワーク」になります。
FIREを達成し、経済的な独立を果たすことが出来れば、もはや、お金のために、意味を見出せないままに、あくせくして働く必要はありません。
自分が本当にやりがいを感じることのできるビジネスに専念すればよく、もしかしたら、それは結果的に、お金にも結び付くかもしれません(ただしそれは、あくまでも結果であり、目的ではありません)。
時折、FIREを達成したら、あとは「仕事をしてはいけない」等と勘違いしている人もいるようですが、これは誤解です。
FIREを達成した後であっても、仕事は続けてもいいのです。
極論すれば、経済的な独立を果たし「いつでも、会社を辞められる」状況を整え、確保してからも、なんとなく、今の会社に愛着を感じて、仕事を続けている、というFIREの先輩も存在します。
実は、FIREの後半部分、すなわち、Retire Early(早期退職)の部分については、むしろ、Remain Employed(被雇用を継続する)、と読み替える、という考え方もあります。
大切なのは「雇われているか、どうか」ではなく、「経済的に独立を果たし、いつでも自由に退職できる状態を確保して働いているのか、それとも、会社に経済的に依存した状態で勤務しているのか」というポイントだ、というわけです。
また、FIRE実践者の中には、経済的に独立して会社を早期退職したあとも、敢えて、社会との接点を保つために、簡単なアルバイト作業などを継続している、という人もいます。
適度に社会と接点を持ち、体を動かすことは、むしろ、心身の健康にもつながる、という考え方もあるのです。
FIREを目指す中で、人生に必要な様々なノウハウが身につく
FIREを目指す過程で、ひとは、様々なことを勉強します。
「稼ぐ」というフェーズにおいては、効率の良い昇進・昇格の仕方や、副業への取り組み方などを学びます。
また、「節約・貯める」フェーズでは、効果的な節約ノウハウを蓄積することが出来ます(なお、FIRE達成後でも、この節約ノウハウは、必要不可欠なものです)。
「投資」という局面においては、これまで投資に取り組んだことのなかった人でも、投資について学んだり、政府の投資支援制度について勉強することとなります。
こうして身に着けたノウハウは、その後の人生において、かけがえのない財産となります。
また、FIREについて検討・準備する過程で、公的な社会保障制度や、会社の用意してくれている福利厚生の仕組み、そして、そのありがたみを、痛感する、という事もありましょう。
これまでは「無意味」とすら感じていた、そうしたセーフティネットの有難みを知ることで、会社勤めに対しる心理的な抵抗感が薄れ、
「なんだ、会社勤めって、思っていたよりも、悪くないじゃないか。それなら、明日からの仕事も、ちょっと頑張れるかな」
と思えれば、それもひとつの、精神的な自由の確立ルートのひとつでもあります。
大切なのは、
- 自身のことを「社畜」と卑下しながら、嫌々、働くのか、
- それとも、主体的に、会社・組織の良さ・有難みを意識しながら、自分にとってのベストな選択肢として、勤務を継続するのか、
という点です。
FIREは結局無意味?FIREのデメリットを整理する
上記したように、様々なメリットのあるFIRE(及び、その準備過程)ですが、中には、下記のようなリスク・デメリットを指摘する声もあります。
FIRE後に、キャッシュフローがショートするリスクがある
FIREを実践するにあたっては、まず、自分自身の年間必要生活費がいくらなのか、しっかりと把握する必要があります。
また、その生活費を投資収益で稼いでいくためには、投資のノウハウが欠かせませんし、そもそも、多額の元本が必要です。
このあたりの財務的な基盤、及び必要な計算・シミュレーションをないがしろにして、見切り発車でFIREに踏み切ってしまうと、FIRE後に、キャッシュフローがショートしてしまうリスクがあります。
仮に、40代半ばでFIREを達成した投資家がいた、と仮定して、その人が、FIRE後10年たってから、
「投資が上手くいかず、このままでは、年金の受給開始まで、資金が持たない。もう一回就職して、資金を貯め直したい」
と考えたところで、FIRE前のような雇用条件で再就職することは、基本的に、困難です。
FIREは、「後戻り」が出来ない、一方通行の決断となります。
その決断にあたっては、当然、かなりの慎重さが求められることとなります。
FIREのみを優先してしまうと、様々なトラブルが発生する
あまりにも早期のFIREを目指すと、必然的に、「投資」の部分のウェートが重くなります。
具体的には、投資の利回りを、どうしても、高く設定せざるを得なくなります。
高い利回りを求めようとすれば、必然的に、「ハイリスク・ハイリターン」な投資にも手を出さざるを得ず、下手をすると、FX投資や仮想通貨投資などで失敗し、元本を大幅に毀損し、FIREがかえって遠のいてしまう、等という結果にもなりかねません。
また、FIREという、あまり知られていないムーブメントに夢中になる事で、家族の同意を得られない、というリスクも考えられます。
例えば、FIRE達成のための早道として、「物価の安い東南アジアに移住しよう!」と張り切ったところで、配偶者や子供が、それに同意してくれるかは分かりません。
無理に、経済的な事情のみを考慮した移住等に踏み切ると、その後、家族の間に、思わぬ亀裂が走ってしまう原因ともなりかねません。
「年収の25倍、4パーセント運用ルール」は、現実に即しているか
アメリカのFIRE本などには、「年収(ないしは、年間生活費)の25倍を貯蓄し、年利4パーセントで運用、その運用益で暮らせば、元本は減らない」と主張されています。
確かに、年間生活の数十倍の資金を貯めて、その運用益で生活費を賄うことが出来れば、資産は目減りしません。
ただし、そもそも、「年利換算4パーセントで安定的に運用」することは、それほど簡単な事ではありません。
確かに、インデックス投資を活用して、S&P500等の指数に連動する投資信託を取得していれば、直近数十年間においては、年率5パーセント以上程度の成長を享受することが出来ました。
ただし、それが今後も継続するのかどうか、は、当然未知数です。
また、たとえ、年率換算で4パーセント程度のリターンを収めることが出来たとしても、それに並行して、年率で数パーセントのインフレーションが生じてしまえば、生活は相対的に苦しくなります。インフレ控除後の実質利回りが1パーセント~2パーセント、となってしまえば、よほど投資元本が大きくない限り、投資収益のみで生活費を賄うのは難しいでしょう。
FIRE達成後も、FIREに向けた倹約生活中と同程度、ないしはそれ以上の節約生活を強いられる、というのも、FIREの難しいポイントの一つです。
インフレや、年金の受給開始繰上、消費税の増税、等といったニュースにおびえながら、爪に火を点すような倹約生活を強いられつつ、びくびくとしたFIRE後を過ごす、というのは、誰にとっても、精神衛生上、良くありません。
早期退職することで、本当の意味で「美味しい」会社員生活を放棄してしまうことも
日本は、まだまだ、「年功序列」の意識が色濃く残った社会であり、基本的に、大方の会社において、40代後半~50代前後の年齢から、役職も付き、応じて、年収が大きく上がるようになります。
FIREに夢中になるあまり、20代~30代で早期退職してしまえば、結局、給与水準の安い時期だけ働いて、高年収時代の所得を確保しそびれる、という結果となり、長く会社に居座り続けた同期の面々と比較し、(少なくとも経済的には)損をすることとなりかねません。
また、早期退職によって、厚生年金の積み上がりが止まってしまえば、当然、その後の年金受給額も、(定年まで退職せずに勤め上げた場合と比較して)減額されてしまうこととなります。
さらに、FIRE志望者の大きなよりどころである「退職金」も、勤続年数に応じて変化することが一般的です。当然、早期退職した人よりも、長年(できれば、定年ぎりぎりまで)勤務し続けた人のほうが、退職金は高額となります。
このように、FIREが前提としている早期退職には、少なくとも、年功序列意識の残る日本社会においては、何かとデメリットが多い、という点に、注意が必要です。
Author Info
-
fill.mediaは、国内の融資型クラウドファンディング(ソーシャルレンディング)や、不動産クラウドファンディング、ロボアドバイザー、インデックス投資業界等の最新情報を提供する、投資・金融情報総合メディア。
FIRE(早期リタイア)専門の検証チームでは、昨今、主に若年投資家の間で大きな関心を集めつつあるFIRE(Financial Independence, Retire Early)に関する最新情報を専門的に扱います。
メディア掲載歴(一部・順不同)
・朝日新聞デジタル&m
・財経新聞
・SankeiBiz
・RBBTODAY
・楽天Infoseekニュース
・excite.ニュース
・BIGLOBEニュース
・@nifty ビジネス
・Mapionニュース
・NewsPicks
・ビズハック
・MONEY ZONE
・Resemom
・SANSPO.COM
・Trend Times
・zakzak
・とれまがニュース
・徳島新聞