資産運用にロボアドバイザーはおすすめなのか|インデックス投資家がロボアドバイザーをおすすめしない理由も検証
目次
ロボアドバイザーの行う資産運用とは
投資家が、ロボアドバイザーの発するいくつかの質問に回答すると、ロボアドバイザーは、各投資家ごとの「リスク許容度」を診断したうえで、当該リスク許容度に見合った、最適ポートフォリオの提案を行います。
そして、投資家がそのポートフォリオ内容に同意し、ロボアドバイザーの指定する最低投資金額を入金すると、ロボアドバイザーは、ポートフォリオを実際に構築するために必要な銘柄の取得を行います。
また、取得後の値上がり・値下がり等によって、ポートフォリオの内容が、各投資家ごと(リスク許容度ごと)の最適ポートフォリオと乖離した場合、ロボアドバイザーは、資産の売却・買い足しなどにより、「リバランス」を実施します。
なお、国内の主要ロボアドバイザーが基本的に実施しているのは、「バイ&ホールド」戦略に基づく、インデックス投資です。
スマートベータ機能を搭載したロボアドバイザーは既に存在しますが、少数の個別株式に対して集中投資を行うような、いわゆる「アクティブ投資」と呼ばれる投資手法を採用したロボアドバイザーは、主流派とは言えません。
ロボアドバイザ-による資産運用の仕組み
ロボアドバイザーによる資産運用の仕組みを、簡単に時系列で表すと、下記のようになります。
- 投資家が、ロボアドバイザーの発する複数の質問(※1)に対して、オンライン、ないしはアプリ上で回答する。
- ロボアドバイザーは、投資家の回答内容に応じて、各投資家の「リスク許容度」(※2)を自動的に算出する。
- ロボアドバイザーは、各投資家に対して、各々のリスク許容度に見合った「最適ポートフォリオ」(※3)を提案する。
- 投資家が、ロボアドバイザーの提案するポートフォリオ内容に同意し、最低投資金額以上の入金を行うと、ロボアドバイザーは、ポートフォリオを構築するために、投資対象銘柄(※4)の取得を進める。
- 資産運用開始後、資産クラスごとの値上がり・値下がり等によって、ポートフォリオのバランスが崩れた場合、ロボアドバイザーは、値上がり資産の売却や、値下がり資産の買い足しによって、「リバランス」(※5)を行う。
(※1)ロボアドバイザーの質問内容
ロボアドバイザーは、投資家に対し、主に下記のような内容の質問を行います。
質問 | 目的 |
年齢 | 年齢が若い投資家ほど、その後の就労可能期間(資産形成期間)が長い。高齢の投資家の場合、資産形成期が終了しており、資産活用期に入っていることが一般的であるため、大きなリスクを取ることが難しい。 |
年収 | 年収が高い投資家ほど、資産運用に回せる資金量が多く、かつ、一時的な相場低迷が生活に与える影響が小さい。 |
金融資産残高 | 金融資産(預金や、株式等)残高の大きい投資家ほど、高いリスクを取れる。金融資産の少ない投資家の場合、一時的な相場の低迷が、資産全体に対して及ぼしてしまうダメージが、相対的に大きい。 |
投資経験 | 株式投資等の経験のある投資家の場合、リスク(リターンの標準偏差)とリターンの関係等について、一定程度の知識があることが考えられる。投資経験のないユーザーの場合、一時的な相場下落で動揺し、資産運用を中止してしまうリスクが高い、と判断される。 |
相場下落時の対応 | 「追加投資」など、アグレッシブな対応を予定している投資家は、リスク許容度が高い。逆に、「(相場が下落したら)売却する」と回答する投資家は、心理的なリスク許容度が高くない、と判断される。 |
(※2)ロボアドバイザーの算出する「リスク許容度」
投資において「リスク」とは、「リターンの標準偏差」のことを指します。
例えば、「期待リターン5パ―セント。リスク20パーセント」という資産があった場合、その資産は、20年後には、2倍(5パ―セント×20年。複利は考慮しない)に成長していることが期待できます。
しかし、その成長の過程では、資産評価額は、「(元本に対して)プラス25パ―セント~マイナス15パ―セント」(標準偏差1倍)の間で、行ったり来たり、をする可能性が高くあります。
投資業界では、標準偏差の2倍までを想定することが普通(その場合、全分布の95パ―セント程度をカバーできる)とされていますから、想定する下落幅としては、マイナス35パ―セント(期待リターン5パ―セント-20パーセント×2)までは見ておくべき、と解釈されます。
これは、投資している資産の1/3以上が、1年で吹き飛んでしまう可能性が(十分に)ある、ということを示しています。
※標準偏差2倍を超えるダメージが生じる可能性も、数パーセントですが、あります。現に、リーマン・ショック時等においては、多くの投資家の資産が、2標準偏差を超えて下落しました。
そして、「リスク許容度」とは、まさに、この「リターンの標準偏差」を、どの程度まで受け入れることが出来るのか、を示します。
基本的に、世界経済は、一時的(※一時的、といっても、その期間が、10年以上に及ぶこともあります)に大きな下落を記録したとしても、その後回復し、下落前の水準を超えて成長していく、とされています。
しかしながら、その下落期間中、資産の大幅な下落(=拡大する含み損)に耐えられず、資産運用を中止してしまえば、含み損が確定してししまい、投資そのものが、大きな失敗で終わってしまいます。
このため、ロボアドバイザーなどを活用してインデックス投資に取り組む場合、「自分が、どの程度の資産価値減少までは、経済的に、かつ、心理的に、耐えられるのか」を、事前に把握しておく必要があります。
それが、「リスク許容度診断」にあたるわけです。
参考:
ロボアドバイザーの診断する「リスク許容度」とは|リスク許容度診断の仕組み、プログラムによる自動診断の限界まで徹底検証
(※3)ロボアドバイザーの提案する「ポートフォリオ」とは
国内の主要ロボアドバイザーは、
- 米国株式
- (米国を除く)先進国株式
- 新興国株式
- 先進国債券
- 新興国債券
- 不動産
- コモディティ
など、様々な資産クラスにまたがった、「マルチアセット・ポートフォリオ」を、投資家に対して提案します。
わざわざ複数の資産クラスに対して資金を分散投資するのには、主に下記のような理由があります。
①相関係数が「1未満」の資産に分散投資することで、標準偏差を低位に保つ
互いの相関係数が1未満である資産クラスに対して資産を分散投資することで、ポートフォリオ全体のリスク(標準偏差)を押し下げる効果が期待できます。
相関係数が小さくなればなるほど(最小はマイナス1)、リスク低減効果は大きくなります。
※ただし、かつて分散投資の王道と言われた「株式:債券」の間の相関係数も、昔ほどには小さくない(=相関係数が大きくなりつつあり、標準偏差を低減させる効果が見込みづらくなってきている)、と言われています。
また、リターンの高い資産クラスと、リターンの低い資産クラスとを組み合わせると、ポートフォリオの期待リターンは、(ハイリターンの資産クラスだけの場合と比較して)小さくなってしまいます。
②資産の「ガラパゴス化」を防ぐ
資産を、一部の資産クラスや地域に絞って保有していると、その地域・資産クラスが、他の地域等と同程度の成長を遂げることが出来なかった場合、大きな機会損失を強いられることとなります。
TOPIX(東証一部上場の全銘柄インデックス)が、2021年9月現在、依然として、バブル崩壊前の最高値を更新できずにいるのに対して、S&P500(スタンダード・アンド・プアーズ500種指数)は、日本がバブル崩壊後の低成長に苦しむ中、10倍以上の成長を記録しています。
この間、(日本株と合わせて)米国株式にも投資していた投資家であれば、(日本の低成長に足を引っ張られたとは言えども)米国経済の成長に伴う利益を享受できたでしょうが、反面、日本株のみを投資対象としていた投資家は、数十年にも及ぶ低成長を受忍しなければなりませんでした。
参考:
ロボアドバイザーのポートフォリオ運用の仕組み・メリット&デメリットを考える
(※4)ロボアドバイザーの投資対象は
国内のロボアドバイザーの多くは、資産クラスごとの具体的な投資対象として「ETF(上場投資信託)」を活用しています。
- 一般的な投資信託(非上場)と比べて、信託報酬が安い
- 非上場投資信託と比較して純資産額が大きく、早期に繰上償還となってしまうリスクが小さい
- 取引所の開場時間中であれば、いつでも売買を行うことが出来るうえ、価格(市場価格)が購入時に決まっている
等といったメリットがあるため、です。
また、投資家が自分でETFを購入する場合、金額指定での購入は出来ず、あくまでも、「〇株」という、株数あたりの購入をする必要がありますが、ウェルスナビのように、より少額からETFを取得する機能(ミリトレ)を提供しているケースもあります。
参考:
ロボアドバイザーの投資対象は|資産クラス別の投資対象銘柄の確認、ロボアドバイザーによる投資対象選定のポイントまで解説
資産運用にロボアドバイザーがおすすめされる理由
有人型で提供されてきた投資一任型サービスと比較すると、手数料が安い
投資一任型のロボアドバイザー・サービスが提供している、
- 各投資家ごとの、リスク許容度の診断
- リスク許容度に応じた、最適ポートフォリオの作成・提案
- ポートフォリオを具体的に構築するための、必要銘柄の取得(買い付け)
- 取得した銘柄の値上がり・値下がりに応じた、リバランスの執行
といったサービスは、元来、プライベート・バンカー(以下、PB)やファイナンシャル・アドバイザー(以下、FA)と呼ばれる職業の人々が、有償で提供してきたサービスを、モチーフにしています。
PBやFAが提供してきたサービスは、各投資家の様々な経済状況に寄り添ったものが多く、利用メリットの小さくないものでしたが、1人のPB・FAが対応できる投資家の人数に限界がある(きめ細かなサービスを提供するために、数十人程度が限界)関係で、どうしても、投資家1人あたりの最低預かり資産高を高額に設定せざるを得ず(例:最低1億円、等)、結果的に、ターゲットは富裕層に限定されていました。
上記のような投資一任型サービスの敷居を、多少なりとも下げたサービスとして、証券会社各社が提供している、ラップ口座サービス(いわゆる、ファンド・ラップ)がありますが、ラップ口座の場合、
- 最低預かり資産額が、数百万円程度に設定されており、一般個人投資家にとっては、依然として、些かハードルが高い、という難点があるほか、
- 預かり資産残高に対して、年率で2パーセント~3パーセント程度の、極めて高い手数料を支払う必要がある、
というデメリットがあります。
この点、ロボアドバイザ-・サービスの場合、サービスそのものは、アルゴリズム・プログラムによって自動的に提供されている関係上、限界費用(ユーザーが1人増えることによって増加するコスト)が小さく、むしろ、ユーザー数が増えれば増えるほど、ユーザー1人あたりに換算した費用コストは低下する、という特質があります。
このため、投資家においても、従来型の(有人型の)投資一任型サービスと比較して、低い手数料負担で、サービスを利用することが出来る、というメリットがあります。
参考:
ロボアドバイザーと手数料|投資家にとって、ロボアドバイザーの手数料は、高いのか
様々な資産クラスに対して、幅広く分散投資を行うことが出来る
国内で提供されているロボアドバイザ-・サービスの多くが、複数の資産クラス(先進国株式や、成長国株式、債券、コモディティ等)に対して、資金の分散投資を行います。
また、各資産クラスごとの投資対象には、幅広い銘柄へと時価総額加重で分散投資を行う投資信託(上場投資信託=ETFも含む)を活用することに拠り、
- 様々な資産クラスへ、
- 幅広く、資産を分散投資することが出来るよう、
サービス設計が為されています。
※ただし、同様の分散投資は、わざわざ投資一任型のロボアドバイザー・サービスを利用せずとも、投資家自身が、証券会社に口座を開設し、数本の投資信託を購入することでも、実現できます(また、そのほうが、手数料も含めたトータル・コストが低い、という指摘があります)。
ロボアドバイザ-に投資を一任することにより、長期投資が実現しやすい
特に株式に関しては、
- 短期的には、上下動を繰り返すが、
- 長期的には、経済成長に伴い、右肩上がりの伸びを見せる傾向が強い、
と言われています。
このため、株式等の資産クラスに投資する場合、基本的には、「バイ&ホールド」(=こまめな資産売買を繰り返すのではなく、一旦投資信託等を取得したら、あとはひたすら、継続的に保有する)戦略が合理的である、とされています。
しかしながら、投資家自身がトレードを行う場合、特に、不況によって、資産評価額が急激に落ち込む等すると、更なる下落への恐怖心から、資産を安値で売却してしまい、損失を確定させてしまう(※売却を完了するまでは、あくまでも、含み損です)、という傾向があります。
これらは、基本的に、投資家(=人間)の精神構造・心理構造が、投資というゲームに向いていない、ということが原因である、と言われています。
この点、投資一任型のロボアドバイザーを活用すれば、銘柄の取得や、適宜のリバランス、といった作業は、いずれも、ロボアドバイザー側に一任することが出来ますので、トレードが投資家の感情に左右されることも無く、淡々と、長期投資を実現しやすい、というメリットが指摘されています。
値上がり・値下がりに応じたリバランスを自動化できる
複数の資産クラスにまたがった、長期的なインデックス投資において、最も手間のかかる作業と言われているのが、「リバランス」です。
例えば「株式50:債券50」というポートフォリオで資産運用を始めた投資家がいた場合、その後、株式が値上がりすると、ポートフォリオのバランスが「株式60:債券40」のように、本来の理想的なポートフォリオから乖離してきてしまうこととなります。
上記例の場合であれば、「株式のシェアが増える=ポートフォリオのボラティリティが上がる」こととなりますので、本来はさしたるリスクを取るべきではない投資家が、リターンの標準偏差が不相応なほどに大きい(=上揺れの可能性もあるが、大きな下揺れの可能性もある)ポートフォリオを運用してしまうこととなります。
こうした事態を避けるべく、特に長期的なインデックス投資を行う場合、
- 値上がりした資産クラスの「売却」や、
- 値下がりした資産クラスの「買い足し」によって、
ポートフォリオを本来の内容に戻す「リバランス」を実施する必要があります。
しかしながら、投資家が自分自身でリバランスを行う場合、
- どの銘柄を、どの程度売却するのか、という点を決断する必要がありますし(※なお、資産売却を伴うリバランスの場合、含み益の実現による課税関係にも、配慮が必要です)、
- 逆に、資産を買い足す場合、「今は割高なので、もう少し割安になってから買い足しをしたほうがいいのではないか」などと、買付執行のタイミングについても、あれや、これや、と逡巡することとなります。
この点、ロボアドバイザーを利用していれば、定期的なリバランスのほか、市場の急変に応じた「臨時リバランス」についても、自動化することが出来る、という利点があります。
参考:
ロボアドバイザーの行うリバランスとは|リバランスの仕組み、メリット・デメリット、課税関係まで検証
ETF(上場投資信託)でも、分配金が自動再投資できる=複利効果が最大化できる
長期投資において、複利の効果を最大化するためには、投資信託等から分配されてくる分配金を、即座に再投資し、元本に組み入れる必要があります。
しかしながら、ETF(上場投資信託)の場合、未上場の投資信託と違い、分配金が投資家のもとへと直接送金され、これを再投資したい場合は、投資家自身で、新たにETFを買い付ける(再投資を手動で行う)必要があります。
この点、ロボアドバイザー・サービスを利用すれば、ETFからの分配金は、ロボアドバイザー事業者にて開設してある投資一任口座へと入金され、そのまま、自動的に、新たなETF取得資金として元本に組み入れられ、再投資されるため、複利効果を最大限に活かしやすい、という利点があります。
ETFを、株価よりも小口で取得することが出来る(ETFへの少額投資が可)
ETFの場合、未上場の投資信託と違い、金額指定での購入(〇円分、買う)は行えず、あくまでも、1株単位、株数での取得が大前提となります。
例えば、国内ロボアドバイザー業界大手「ウェルスナビ」の場合、米国株式への投資のために、VTI(Vanguard Total Stock Market ETF)というETFを取得しますが、このVTIの1株あたり単価は、2021年9月10日現在、230ドル程度(日本円にして、2万5千円程度)です。
すなわち、投資家が、ロボアドバイザーを用いずに、自分でインデックス投資を行い、かつ、VTIを1株以上、取得したい、と思えば、最低でも、2万5千円以上の投資を行う必要がある、ということです。
この点、小口購入の仕組みを搭載したロボアドバイザー(例:ウェルスナビの場合、「ミリトレ」)の場合、1株あたりの価額に満たない投資金額であっても、「0.05口」のような形で、ETFを小口取得することが出来ます。
また、(ETFの場合、未上場の投資信託ほどには、ノーロード=買付手数料無料、という商品が少ないのですが、)ロボアドバイザーを活用すれば、ETFの購入手数料については、投資家負担が無し、とされるケースもあります。
※ただし、SBI証券や楽天証券、といった、大手のネット証券各社では、バンガード社が取り扱う主要ETFについて、「買付手数料無料サービス」の対象としているケースもあります。
積立投資を自動化することが出来る
国内のロボアドバイザー・サービスの大半で、毎月の積立投資を自動化する機能が提供されています。
投資家指定の銀行口座からの引き落とし、及び、引き落とした資金による投資信託等の買い付けも、いずれも自動的に執行されるため、投資家において、
- 資金拠出、及び取得手続きに、手間暇をかける必要がありませんし、
- 機械的に買い付けを行うため、「買い時」の判断に迷う必要もありません。
※ただし、投資信託の積立買い付けサービス(いわゆる、投信積立)については、何も、ロボアドバイザーに限った話ではなく、楽天証券やSBI証券、マネックス証券、といった主要ネット証券では、例外なく提供されているサービスです。
参考:
ロボアドバイザーと積立投資|積立投資のメリット・デメリットのほか、「一括投資」との比較も検証
リスク許容度診断・ポートフォリオ作成が無料で行える
ロボアドバイザー・サービス(投資一任型でも、助言型でも)を利用すれば、投資家が、ロボアドバイザー側の発する複数の質問に回答することによって、
- 投資家のリスク許容度を、5段階~10段階程度で診断してもらったり、
- それぞれのリスク許容度に見合った、最適なポートフォリオ(主に、現代ポートフォリオ理論に基づき、リスクを一定としたときにリターンが最大化される、有効フロンティア上のポートフォリオ)を提案してもらうことが、
基本的に、無料で出来ます。
「資産クラスごとの銘柄選びは、自分で好きに行いたい。ただし、どの資産クラスをどの程度購入しておくべきか、ポートフォリオの内訳を知りたい」
という、ある程度投資に慣れた投資家にとっては、むしろこの点が、ロボアドバイザー活用の最大のメリットと言えるかもしれません。
ロボアドバイザー事業者が、サービス利用をおすすめしてくる理由
ここからは、少し視座を変え、なぜ、国内の証券会社・運用会社が、投資家に対し、ロボアドバイザーの利活用を積極的におすすめしてくるのか、という点を整理してみましょう。
投資家から、預かり資産残高に応じて、手数料(=ストック型の収入)を収受できる
国内のロボアドバイザー事業者の大半は、各投資家からの預かり資産残高に応じて、「年率1パーセント」等の手数料を徴収しています。
各投資家1人1人からの手数料収入は(特に、預かり資産残高の少ない投資家の場合)微々たるものですが、
- 登録ユーザー数が増えれば増えるほど、手数料収入も蓄積されていく、というメリットがあるほか、
- 毎月の積立によって、(少しずつ、ながら)毎月コンスタントに手数料収入がストックされていく、
という利点もあります。
成果報酬型の手数料体系とする場合、資産の値上がりに応じて、高率な手数料を徴収できる
ロボアドバイザーの中には、SUSTEN(サステン)のように、完全成果報酬型の手数料体系を採用している事業者もあります。
この場合、投資家の立場から見ると、「(市況悪化等で)ロボアドバイザーの運用成績が悪い時には、手数料を徴収されない」というメリットがある一方で、ロボアドバイザー運用会社側から見ると、「資産評価額がHWM(ハイ・ウォーター・マーク。過去の最高値)を更新すると、比較的高い手数料率で、手数料を徴収できる」というメリットがあります。
自社が運用する投資信託を、投資家に向けて販売することが出来る
「ロボアドバイザー」と呼ばれるサービスを提供する企業の中には、投資家の投資対象を、自社が運用している投資信託に設定しているケースがあります。
さらには、楽天証券の運営する「らくらく投資」のように、
- 投資家に対し、いわゆる通常のロボアドバイザーと同様、いくつかの質問を発して、
- その質問への回答内容から、各投資家への「おすすめ投資コース」を提案し、
実質的には、各投資ごとに、1つのずつ、投資信託を販売する、というビジネスモデルを採用しているケースもあります。
この場合、ロボアドバイザー提供会社側から見れば、自社運用の投資信託の販売促進を図ることが出来る(当然、投資信託の保有者からは、信託報酬を徴収できます)、というメリットがありますし、投資家側から見ると、一般的な投資一任型ロボアドバイザーとは違い、一般NISA口座を利用した売買が行える(=単に投資信託の買い付けているだけですから、当然です)、というメリットがあります。
提携関係にある運用会社の投資信託を販売することで、コミッションを受け取ることが出来る
主に海外の、利用手数料無料のロボアドバイザーの事例として、
- ロボアドバイザーが、投資家資金を利用して、自社が提携関係にある投資信託運用会社の投資信託を取得し、
- 当該運用会社から、投資信託の販売高に応じて、手数料収入(コミッション)を受け取る、
というケースがあります。
この場合、当該ロボアドバイザーとしては、ユーザーから直接的に利用料を徴収するのではなく、ユーザーへと投資信託を販売することで、そのマージンを受け取っている、という形態となります。
仮に、その投資信託が、コストや市場カバー率、トラッキングエラーの小ささ、といった点において、真に投資家にとってメリットのある物であればよいのですが、そうではない場合、投資家とロボアドバイザー事業者との間で、利益相反が生じる、という問題があります。
資産運用のために、ロボアドバイザーをおすすめしない理由
特に、長年、個別株式投資や、インデックス投資に取り組んできた投資家の中には、「ロボアドバイザーは利用に値しない」と、ブログ等にて公言しているケースもあります。
そうした「アンチ・ロボアドバイザー」と呼ばれる人々の主張の裏側には、下記のような、ロボアドバイザーならではのデメリットの存在があります。
ロボアドバイザ-の投資対象は、投資家が自分でも買い付け出来る
国内のロボアドバイザーが投資対象とする投資信託やETFは、投資家が自分で証券口座を開設すれば、わざわざロボアドバイザーを介さずとも、自分で買い付けできるものが多くあります。
仮に、全く同じ投資信託・ETFが購入できなかったとしても、ロボアドバイザーは、基本的にはパッシブ型ファンド(=インデックス指数に連動することを目指す投資信託・ETF)を購入しますので、同じ指数に連動する他の投資信託・ETFを探し、その中で手数料(購入時手数料や、信託報酬、信託財産留保額等)が安いものを選ぶことが可能です。
自分で投資信託等を取得したほうが、総コストは遥かに安いし、NISAも使える
仮に、全く同じ投資信託・ETFに投資する場合、ロボアドバイザーを介さずに、投資家が、自分自身で買い付け・保有したほうが、遥かに低コストとなることが一般的です。
例えば、ロボアドバイザー「ウェルスナビ」が取得する米国株式ETF「VTI」の場合、楽天証券でもSBI証券でも、買付手数料無料の海外ETFに含まれています。
VTIの経費率は0.03パーセントですから、
- ロボアドバイザー(ウェルスナビ)を通じて、VTIを取得・保有する場合、買付手数料は無料だが、バンガード社の信託報酬等(0.03パーセント)のほかに、ウェルスナビへと、年率1パーセントの手数料負担が必要となりますが、
- 投資家が、楽天証券やSBI証券等を利用して、自分でVTIを買い付け、保有する場合、買付手数料は同じく無料で、保有中にかかる手数料は、バンガード社の信託報酬等(同上)のみ、
となります。
この手数料差は、投資家の投資金額大きくなればなるほど(そして、長期運用によって、複利効果が大きくなれば、なるほど)、重大な差分となります。
さらに、投資一任型ロボアドバイザーの場合、基本的に、少額投資非課税制度(NISA)は利用できません(※ただし、ウェルスナビは、一般NISAに対応済)が、投資家が自分で投資信託・ETFを取得する場合、NISA口座を利用した買い付けが行える、という、大きなメリットもあります。
リスク資産としての債券買い付けには疑問符も
ロボアドバイザーの場合、株式系の資産クラス(米国株式や、米国を除く先進国株式、新興国株式)と合わせて、債券系の資産クラス(先進国債券や、新興国債券)を取得することが一般的です。
しかしながら、日頃からインデックス投資に取り組んでいる投資家から見ると、ロボアドバイザーの行う債券投資には、下記のような疑問符がつきます。
- (債券クラスは、元来、株式クラスとの強い逆相関が期待され、ポートフォリオに組み込まれることが多いが、)昨今、株式と債券との間の相関係数は、昔ほど低くない(=かつてのような、逆相関によるボラティリティ低下効果が期待しづらい)。
- 先進国債券は、目下、歴史的な低金利環境下にあり、中長期的には、金利が上昇する(金利の下落余地が小さい、ないしは、無い)見込みです。そして、債券利回りが上昇すれば、債券価格は下がります。すなわち、ポートフォリオにおいて債券を保有する、ということは、将来的に値下がりする可能性が高い資産をわざわざ保有している、というのと同義である。
- それでも尚、自身の資産全体ポートフォリオの中の「無リスク資産」として、株式以外の資産クラスを保有したいのであれば、わざわざ債券ETFを購入する(そして、ロボアドバイザーに、保有残高に応じて手数料を支払う)ようなことはせず、現預金を別途保有しておけばよい。
- どうしても、いくばくかの金利収入を得たいのであれば、個人向け国債(変動10年)を保有するなり、証券会社のMRF(マネー・リザーブ・ファンド)に資金を入れておけばよい。
特に、外国債券については、為替変動リスクの影響を考慮する必要があるため、「(ハイリスク・ハイリターンな資産である)株式系ETFのリスクを低減させるために、わざわざ、為替リスクを負って、債券系ETFを取得する意味はあるのか」と、疑問視する声も少なくありません。
iDoCoの節税メリットのほうが優先、という意見も
個人型確定拠出年金制度(iDeCo)を利用すれば、
- 毎月の拠出金が、全額、所得控除されるうえ、
- 運用期間中の分配金・利益は非課税(課税繰り延べ)となるほか、
- 受け取り時にも、退職所得控除、ないしは公的年金控除の対象となる、という、
様々なメリットを享受することが出来ます(ただし、60歳まで解約が出来ない、等のデメリットにも注意が必要です)。
また、ロボアドバイザー投資と同様、インデックス指数に連動した投資信託を取得することで、中長期的なインデックス投資に活用することも可能です。
例えば、SBI証券ならば、iDeCo口座を通して、下記のような投資信託に投資することが可能です。
ファンド名 | 連動指数 | 信託報酬 |
三菱UFJ国際-eMAXIS Slim米国株式(S&P500) | S&P500 | 0.0968%以内 |
ニッセイ-<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド | MSCI コクサイ インデックス | 0.1023%以内 |
SBI-SBI・全世界株式インデックス・ファンド (愛称:雪だるま(全世界株式)) | FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス | 0.1102%程度 |
情報引用日:2021年9月11日
相場の低迷期においても、インデックスを保有しているだけで手数料がかかる
投資一任型ロボアドバイザー(完全成果報酬型を除く)を利用する場合、仮に、相場が長期的に低迷し、資産評価額が累計投資額を下回るような状態(=元本割れしている状態)が長期間継続したとしても、その間、年率1パーセント程度の利用手数料が、恒常的に生じ続けることとなります。
では、実際に、「長期の相場低迷」というのが、どの程度の期間、発生し得るのか、という点ですが、その場合、下図が参考になります。
上の図は、S&P500指数のチャートです。
2000年に、いわゆる「ドットコム・バブル」が崩壊してから、
- 2001年の米国同時多発テロ事件
- サブプライム・ローン問題の発覚
- 直後の、リーマン・ショック到来
などの事件を経て、S&P500指数が、ドットコム・バブル崩壊前の水準まで回復するためには、10年以上(4,000日間以上)の歳月を要しました。
仮に、ドットコム・バブル崩壊直前に、S&P500指数へとリスク資産全額を投資した投資家がいた、と仮定するならば、その投資家の資産評価額は、10年以上もの長きに渡り、元本割れの状態を継続した、ということとなります(しかしながら、この長期低迷期を乗り越え、S&P500指数(に連動するファンド)保有し続けていれば、その後、S&P500指数は一気に急成長し、ドットコム・バブル崩壊前の高値(1,552ドル強)の約3倍(4,537ドル強)の高値を付けるまでになります)。
そして、ロボアドバイザーの最大の問題のひとつが、このように、長期的な相場低迷期(資産評価額の元本割れが継続しかねない期間)においても、恒常的に手数料が生じ続ける点です。
「相場低迷期に、インデックスを手放さない(バイ&ホールドに徹する)」というのは、インデックス投資家の矜持のようなものであり、かなりの心的負担を伴います。
特に、前述の2000年来の低迷期の場合、リーマン・ショックの直前(2007年10月)には、一旦、ドットコム・バブル崩壊前の水準まで、一時的な回復を見せたうえで、その後、リーマン・ブラザーズの経営破綻などを経て、相場がさらに急落していく(一時的には、ドットコム・バブル崩壊後の最安値を更新)、という経緯を辿りました。
このような経緯を経ても尚、インデックス保有を継続しよう、という投資家にとり、その間恒常的に生じ続けるロボアドバイザー利用手数料は、大きな心理的・経済的負担となりかねません。
「インデックス投資への、中長期的な取り組み」を標榜するロボアドバイザー自身が、その手数料体系によって、インデックス投資の長期継続の妨げとなりかねない、という点は、ロボアドバイザー業界のひとつのジレンマと言えます。
ロボアドバイザーと投資家の、利益の不一致
「ロボアドバイザーはおすすめしない」と主張するインデックス投資家がよく指摘するのが、(預かり資産残高に応じて手数料を徴収する)ロボアドバイザー事業者と、投資家との間の、「利益の不一致」問題です。
仮に、ロボアドバイザー運用会社が、第三者割当増資等で、1億円の資金調達を行った、と仮定します。
この場合、ロボアドバイザー運用会社は、
- その1億円を、投資アルゴリズム、並びにプログラムの改修・アップデートに投じることも出来るし、
- 新規投資家獲得のための、広告宣伝費に充てることも出来る、
とします。
すると、ロボアドバイザー運用会社の選択内容に応じて、ロボアドバイザー運用会社、及び、既存投資家(=ロボアドバイザーを利用して投資している投資家)の利害は、それぞれ、概ね、下図のようになります。
投資アルゴリズム開発 | 広告宣伝に活用 | |
ロボアドバイザー事業者 | アルゴリズムがアップデートされたとしても、直ちに投資成績が改善するかは不透明。投資成績が改善されても、投資家が資金を引き出してしまえば、自身の手数料収入は減ってしまう。 | 広告宣伝によって投資家登録が増えれば、預かり資産残高も当然増える=自身の手数料収入増が明確に期待できる。 |
投資家 | アルゴリズム・アップデートの効果が出るかは不透明だが、投資成績の向上につながる可能性もある。 | ロボアドバイザーの利用者が増えたところで、少なくとも短期的には(※)、既存投資家にとってメリットはない。 |
(※)長期的には、利用者増加に伴い、手数料の値引きなどが行われる可能性もあるが、未知数。
こうしてみると、
- ロボアドバイザー事業者側とすれば、投資成績を着実に向上させるかどうかが不透明な、アルゴリズム開発・プログラム改修に資金を投資するよりも、投資家数を着実に増加させ、結果的に、預かり資産残高向上、ひいては、自社の手数料収入増加に直結する、広告宣伝に、費用を投じたほうが得策である一方、
- そのロボアドバイザーを既に使用している既存投資家からすれば、同じロボアドバイザーを利用する投資家が増えたところで、自身の投資損益においては、全くメリットが無い、
という、重大な利益不一致が生じていることが分かります。
投資家からすれば、
「既存投資家にとって特にメリットのない、新規投資家獲得のために広告宣伝費を使うのではなく、アルゴリズムの改善、ないしは、利用手数料の引き下げ原資のために、資金を投下してほしい」
と考えるのが素直でしょう。
リバランスによる株式系資産クラスの売却、及び課税関係
ロボアドバイザーの多くは、投資家のポートフォリオが、運用継続に伴う値上がり・値下がりによって崩れてくると、ポートフォリオ内容を再調整する「リバランス」を実施します。
そして、ロボアドバイザーの行うリバランスにおいては、「値上がりしている資産の売却」が行われるケースがあります。
すなわち、株式系の資産クラスの資産評価額が、値上がり等によって、相対的に(=債券系の資産クラスに対して)上昇していると、
「ポートフォリオにおける株式の比率が高すぎる」
として、株式(投資信託ないしはETF)の売却が行われるケースがあります。
基本的に、インデックス投資家の多くは、世界経済の中長期的な成長を信頼する、というスタンスをとっており、その投資リターンの源泉は、(コモディティや、不動産、債券等ではなく、)株式、特に、米国を中心とした、先進国株式です。
いくら、値上がりによってポートフォリオに占めるシェアが増大している、といえども、今後、中長期的なリターンの源泉となるはずの株式系資産クラスを、わざわざ売却してしまう、という行為について、インデックス投資家の多くは首をかしげます。
また、値上がりしている資産クラスを売却すると、当然、キャピタルゲインに対する課税関係が生じます。
課税によって資産が目減りしてしまうと、結果的に、複利の効果も低減することとなり、長期的なリターンに悪影響をもたらします。
なお、ロボアドバイザー側としても、値上がりしている銘柄の売却に伴うキャピタルゲイン課税について問題視しており、出来るだけ、売却を伴うリバランス(=定期的なリバランスにおいて実施されることが多い)ではなく、積立投資に伴う、「値下がりしている資産クラスの買い足し」によるリバランスを実行し、売却リバランスを最低限に留めるように志向するケースがあります。
しかしながら、投資家ごとに積立投資の設定額には差があり、積立投資に伴う買い足しリバランスだけでは、ポートフォリオを十分に再調整できない場合、どうしても、売却を伴うリバランスが発生してしまうこととなります。
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