ソーシャルレンディングとリーマンショック|サブプライム・ローン問題から端を発したバブル崩壊と、ソーシャルレンディングの意外な関係とは
個人投資家Y.K氏。
2018年初旬からソーシャルレンディング投資を始め、約4年ほどが経過。
合計20社以上のソーシャルレンディング事業者に投資口座を開設し、累計投資額は400万円以上。
30代男性会社員・首都圏在住。
目次
株式投資家にも人気?ソーシャルレンディングとは
貸金業者の募集するファンドに対して匿名組合出資を行い、その後、ファンドからの利益分配金を受け取る、という投資スタイルを「ソーシャルレンディング」と呼びます。
個別の株式銘柄への投資等と違い、いわゆる「値動き」が存在しないため、
- 日々の値上がり・値下がりに、一喜一憂しないで済む
- 何か月後(もしくは、何年後)に、どの程度の利回りを得ることが出来るのか、ある程度、事前に約定されている
等といったメリットがあり、昨今、個人投資家の間で人気を集めつつあります。
ソーシャルレンディング投資の基本的な仕組み
株式投資や、投資信託への投資とは異なり、ソーシャルレンディングの場合、あくまでも、ソーシャルレンディング事業者の募集する「ファンド」に対して、「匿名組合出資」を行う形態を採ります。
その流れを端的に表現すると、下記のようになります。
- 事業資金を必要としている「資金需要者」が、ソーシャルレンディング事業者のもとに融資相談に訪れ、所定の審査に通過すると、両者の間で、融資条件等に関する大筋の合意が形成される。
- そのうえで、ソーシャルレンディング事業者(貸金業の登録、及び、金融商品取引業の登録を併せ持つ事業者)は、上記の資金需要者に対する融資を前提に、ファンドの募集を行う(=投資家からの出資を、オンラインで募集する)。
- 投資家は、ソーシャルレンディング事業者のホームページを通じて、あらかじめ投資家登録を済ませた上で、ファンドへの出資申込を行う。抽選通過等によって出資が確定した場合、ソーシャルレンディング事業者と投資家との間で、電磁的に(=オンラインで)匿名組合契約が締結される。この際、投資家は「匿名組合員」となり、ソーシャルレンディング事業者は「営業者」となる。
- ソーシャルレンディング事業者は、投資家から募った資金を元手に、件の資金需要者への融資を行う。この際、ソーシャルレンディング事業者と借り手との間で、金銭消費貸借契約が締結される。
- 借り手企業は、ソーシャルレンディング事業者に対し、利息、及び元金の返済を行う。
- ソーシャルレンディング事業者は、借り手から回収した利息を元手に、投資家への利益分配を行う。また、最終的には、借り手から元本を回収し、これを元手に、投資家への元本償還を行う。
ソーシャルレンディングから資金融資を受ける「借り手」とは
ソーシャルレンディング事業者から融資を受ける、いわゆる借り手企業の中には、下記するように、様々な業態の事業者が存在します。
業態 | 資金使途等 |
不動産事業者 | 不動産の仕入れ資金を、ソーシャルレンディング事業者から調達。 その後、不動産を売却することによって、ソーシャルレンディング事業者への返済原資を確保することが一般的です(※)。 |
貸金業者 | 自身の融資事業のための資金(貸付金の原資)を、ソーシャルレンディング事業者から借り入れることによって調達します。 自身は、ソーシャルレンディング事業者に対して利息を支払う必要がありますが、その利率よりも高い金利で、自身のクライアント(=借り手)に対して資金融資を行うことで、そのギャップを、自分の利益とします。 最終的には、借り手から債権回収を行い、その資金で、ソーシャルレンディング事業者への返済を行います。 |
債権買取業者 | いわゆるファクタリング事業者が、債権買取のための資金を、ソーシャルレンディング事業者から借り入れるケースがあります。 買い取った債権を回収し(ないしは、仕入れ値よりも高く別の債権回収業者に売却し)、その資金を元手に、ソーシャルレンディング事業者への元利金返済を行います。 |
再生エネルギー事業者 | 太陽光発電事業所の開発資金等を、ソーシャルレンディング事業者から調達します。 その後、太陽光発電事業等のエネルギー事業を軌道に乗せたうえで、事業ごと売却し、その売却代金を元手に、ソーシャルレンディング事業者へと返済を行います。 |
マイクロファイナンス機関 | 主に発展途上国で、農村の零細事業者などに対して、農機ローン(農業用の耕作機械などの購入代金を融資する)等を提供しているマイクロファイナンス機関が、自身の事業資金を、ソーシャルレンディング事業者から調達するケースです。 社会的インパクトを重視するファンド等において、マイクロファイナンス機関が融資対象となるケースが多々あります。 |
(※)近年は、不動産事業者が、不動産特定共同事業法に基づく許可を取得し、クラウドファンディング形式で、全国の個人投資家から、不動産取得資金を調達することがあります。
これは「不動産クラウドファンディング」として、昨今、大きな注目を集めつつあるビジネスモデルですが、実施にあたっては、必要な許可取得や、システム開発を要する他、投資家への利益分配を行う必要があります。
「どうせ、投資家に利益分配をしなければならないなら、その分を金利として、ソーシャルレンディング事業者に支払っても良いのでは」
と考える不動産事業者においては、わざわざシステム開発を行って不動産クラウドファンディング事業に参入するよりも、ソーシャルレンディング事業者から資金調達を行ったほうが、メリットが大きい、と考えるケースがあります。
国内の主たるソーシャルレンディング事業者
投資家がソーシャルレンディング投資に取り組む場合、あらかじめ、国内で営業しているソーシャルレンディング事業者に対して、投資家登録を行う必要があります。
国内でサービスを展開している(ないしは、していた)主要なソーシャルレンディング事業者としては、下記のような事業者が挙げられます。
事業者(サービス名) | 概要 |
SBIソーシャルレンディング | 東証一部上場のSBIホールディングスの傘下企業が運営。 国内ソーシャルレンディング業界における最大手として、長らく投資家の人気を集めてきましたが、2021年初頭から、一部の借り手を中心にトラブルが相次ぎ、自主廃業へと追い込まれることとなりました。 |
クラウドバンク | (第二種金融商品取引業ではなく)第一種金融商品取引業者である、日本クラウド証券が運営。 女優・モデルとして人気のトリンドル玲奈さんをイメージキャラクターに使用するなど、PR活動に積極的に取り組んでいる事業者でもあります。 |
maneo | 国内ソーシャルレンディング業界黎明期から、前述のSBIソーシャルレンディングと共に、業界の草分け的な存在として市場を牽引してきた事業者。 行政処分を受けて以降は、ファンドの延滞発生が相次ぎ、2021年10月現在、新規のファンド募集は停止されています。 |
ファンズ | 長らくソーシャルレンディング業界情報を発信してきたWEBメディア「クラウドポート」の運営会社がローンチしたソーシャルレンディング・サービス。 1円から投資できる、等といった切り口が話題となり、上場企業の参画なども相次いでいます。 |
参考:
【2021年10月最新版】ソーシャルレンディングおすすめ10社&危ない3社比較ランキング【投資初心者必見】
リーマンショックとは
2008年9月、米国の投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が経営破綻したことを契機に、グローバルレベルでの金融危機が発生。
日本を含む世界各国の金融・経済に、多大な影響を与えました。
リーマンショックの前兆「サブプライム・ローン問題」とは
リーマンショックが起こる前年、2007年に、米国にて、住宅バブルの崩壊が発生。
ここから、いわゆる「サブプライムローン」問題が生じ、住宅や証券、債券等と言った、様々な資産クラスにおいて、価値の暴落が生じていきます。
金融上の信用能力が低い人々(=サブ・プライム)向けの、住宅ローンの総称。
低格付けながらも、高い利回りが提示された、サブプライムローン債権をベースに、デリバティブ商品(金融派生商品)が組成され、往時、多数の投資銀行が、当該商品を大量保有していたことが知られています。
住宅バブル崩壊を契機に、サブプライムローンの不良債権化が深刻化、関連デリバティブ商品を保有していた投資銀行等の資産価値に、大きな下落をもたらすきっかけとなりました。
住宅市場の急速な景況悪化を受け危機的状況となっていた、連邦住宅抵当公庫(連邦住宅公社「ファニーメイ」や、連邦住宅貸付抵当公社「フレディマック」)に対しては、米国政府から様々な救護策が取られていましたが、市況の悪化を食い止めるには至らず、住宅ローン支払いの延滞や、それに応じての差押件数も、大きく増加を続けました。
リーマン・ブラザーズの経営破綻
様々な資産クラスにおける価値暴落は、往時、米国最大級(業界第4位)の投資銀行にまで成長していた、リーマン・ブラザーズをも直撃。
ぎりぎりまで続けられた身売り交渉も実らず、同社は2008年9月、破産手続きへと移行することとなります。
このときの同社の負債総額は、日本円にして約60兆円強。
米国の経済史上、最大規模の企業倒産となりました。
バブル崩壊の危機は、全世界へ
リーマン・ブラザーズの破産手続き開始を受け、同社が発行していた社債・投資信託等を保有している企業等の資産価値が大きく目減りすることが予測され、その影響は米国市場全体へと急拡大。
2000年代初頭のドットコム・バブル崩壊から、ようやく立ち直りつつあった米国経済は、大きな打撃を受けることとなりました。
ダウ平均株価に至っては、2008年の間に、30パーセント強もの大幅な下落を記録することに。
国内全土へと波及していった金融危機に対する、米国政府の対応の遅れ・稚拙さもあり、危機は米国内に留まらず、一気に世界レベルへと拡大することとなりました。
特に影響の大きかったのは、米国経済と密接な関係のある、イギリスや日本等の経済先進国であり、また、米国系のヘッジファンドが資金撤収を行った影響で、中国やインド、ロシアといった、往時の経済新興国にも、深刻な影響を与えることとなりました。
日本への影響
米国経済危機の影響は、日本の株式市場をも直撃し、2008年9月12日金曜日の終値ベースで、1万2,000円を超えていた日経平均株価は、同年10月下旬時点では、7千円を割り込むレベルまで下落。
一時は、約30年ぶりの安値を付けるところまで、株価は大きく下落しました。
ソーシャルレンディングとリーマンショックの”浅からぬ関係”
日本を含む世界経済に、大きな影響を与えた、リーマンショック。
実は、そんなリーマンショックと、その後のソーシャルレンディングの隆興には、浅からぬ関係がある、とも言われています。
リーマンショック後、銀行に対する資本規制が強化
リーマンショックがあれほど迄に巨大な物となった原因には、
「預金者の資金を守るべき立場であるはずの銀行(投資銀行を含む)が、サブプライムローン関連のデリバティブ商品等、リスクの高い投資商品を多く購入し、安全性を度外視した、無理な”利益追求”を図ってしまったこと」
「各銀行が、不動産市場における一時の好況に目をくらませ、慎重な融資・審査態勢を堅持できなかったこと」
等がある、と言われています。
このため、リーマンショック以降、各国政府は、銀行に対する各種規制を強化することとなりました。
具体的には、
- 高い自己資本比率の維持
- 資金流動性の確保
- レバレッジ比率の規制
等が主要項目とされ、以後、銀行の経済活動を、強く束縛していくこととなります。
「借りたいのに借りられない」という個人や企業が続出
政府の、銀行に対する規制強化を受け、各金融機関としては、まずは自己資本比率の強化など、「守り」の力を高めることが最重要課題となりました。
これを受け、銀行の貸し渋りが深刻化。
結果的に、
- 企業のような大型担保を持たない個人や、
- 事業計画はしっかりしているのだが、社歴が浅い会社
- 損益モデルは確立されているが、担保として供する有力な資産を持たない会社
等においては、「銀行からお金を借りたいのだが、借りられない」という事態が発生するようになりました。
企業の資金需要に応える新たな資金源としての、ソーシャルレンディング
そうした状況下において、欧州や米国では、「個人が個人に(もしくは、中小企業に)お金を貸す」、P2Pレンディングという仕組みに、大きな注目が集まるようになりました。
イギリスで創業したZOPA(ゾーパ)や、米国のレンディング・クラブなどは、大企業と言ってもよいレベルまで成長。
そして、欧米で先行している金融モデルを追いかける形で、日本国内でも、ここ数年、ソーシャルレンディングが、大きな注目を集めるようになっています。
次の”リーマンショック”が発生した場合、ソーシャルレンディング業界はどのような影響を受けるのか
2008年のリーマンショック発生当時には、まだ日本では、ソーシャルレンディングという仕組みは、極めてマイナーなものでした。
その後、約10年が経過し、今や、日本国において、ソーシャルレンディングは、投資家からも、資金需要者からも、大きな注目を集めるレベルまで、成長してきました。
そうした中、もしも今後、再び、リーマンショック・レベルの金融危機が発生した場合、ソーシャルレンディング業界は、どのような影響を受け得るのでしょうか。
不動産市況の悪化は、不動産担保付ローンファンドを直撃する。
リーマンショッククラスの金融危機が再発した場合、国内の不動産市況は、大きなダメージを受けることが予想されます。
地価も大きく下落するでしょうから、ソーシャルレンディング事業者が担保権を設定する、借り手所有不動産の価値も、連動して下落していくことでしょう。
ソーシャルレンディング事業者から借りた資金を原資に、不動産を購入し、その転売益を原資に、ソーシャルレンディング事業者に対する元利金返済を行う、というスキームのファンドの場合、その事業進捗、ひいては、元利金返済に、大きなトラブルが発生することが予測されます。
ソーシャルレンディング事業者としても、借り手が期限の利益を喪失した場合、担保権を行使し、債権回収を図ることとなりますが、その際、担保権が設定されている不動産を、市場にて換価しようとしても、十分な高値での売却が出来ない、等と言う事態が想定されます。
銀行の貸し渋りの再燃は、借り換えを困難にする。
ソーシャルレンディング事業者から融資を受ける借り手企業の中には、
- まずは、ソーシャルレンディング事業者から(高利で)資金を借り、
- その後、銀行等金融機関から借り換えを行い、ソーシャルレンディング事業者への返済を行う、
という事業計画を描いているケースも、少なくありません。
しかし、リーマンショッククラスの金融危機が再発した場合、各金融機関は、まずは「守り」の態勢の強化に注力することが最優先される関係で、特に、社歴の浅い中小企業等に対しては、「貸し渋り」の再燃が予想されます。
すると当然、借り手企業の借り換えが不調となるため、同社からソーシャルレンディング事業者に対する元利金返済にも、支障が生じることとなります。
リファイナンス頼みのファンドは、元金返済が厳しく
リーマンショッククラスの金融危機は、各投資家の投資意欲にも、大きなマイナスをもたらすこととなります。
このため、ソーシャルレンディング事業者が新規組成するファンドにおいても、投資家からの資金応募は、少なくとも当座の間、極めて軟調なものとなることが予想されます。
ソーシャルレンディング事業者から融資を受けている借り手企業の中には、既存ファンドへの満期・元本返済原資を確保するために、ソーシャルレンディング事業者に、新ファンド(=リファイナンス用の新ファンド)を組成してもらうことを計画している所も、少なくありませんが、上掲のような事情により、新規ファンドの資金応募が低調な物となった場合、こうした借り手企業においては、既存ファンドへの返済原資の確保が、一気に難しくなることが想定されます。
次のリーマンショックに、ソーシャルレンディング投資家はどのように備えるべきか
リーマンショッククラスの経済危機ともなれば、小手先レベルの施策では、その影響を免れることは難しいでしょう。
わたしたち個人投資家は、「次のリーマンショック」への備えとしては、とにかく、原点に立ち返る事、すなわち、
- 投資は、純然たる余裕資金のうち、ごく一部を充てること。
- 現預金などの流動性資金比率を、常に一定以上に保つこと。
これらの原則の徹底が求められます。
特に、ソーシャルレンディング・ファンドの場合、一旦ファンドへと出資した資金は、当該ファンドが満期償還を迎えるまで、返ってこない、すなわち、途中解約が出来ない、という、流動性上のデメリットがあります。
突如、大きな金融危機が発生した場合、出資中の資金を即座に手元に回収する、ということは、ソーシャルレンディング投資の場合、出来ないのです。
この点を、重々、肝に銘じたうえで、常日頃から、慎重な投資態度を貫くことこそ、【次のリーマンショック】への、最善の備えであるだろうと、私は信じています。
それでは、本寄稿はここまで。
拙文に最後までお目通しを頂き、本当に、有難うございました。
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