【ソーシャルレンディングへの、コロナショックの影響は】延滞、貸し倒れリスクの上昇に注意|オーナーズブックでは返済期限延長事例が発生
個人投資家Y.K氏。
2018年初旬からソーシャルレンディング投資を始め、約3年が経過。
合計20社以上のソーシャルレンディング事業者に投資口座を開設し、累計投資額は400万円以上。
30代男性会社員・首都圏在住。
全世界で猛威を振るっている、新型コロナウイルス。
そんなコロナウイルス・新型肺炎の蔓延は、ソーシャルレンディング業界、ならびに、ソーシャルレンディング投資家に、どのような影響をもたらすのでしょうか。
ソーシャルレンディングとは
貸金業の登録を受けた金融事業者(ノンバンクの貸金業者)が新たに実施する融資プロジェクトへと、個人投資家が、クラウドファンディング形式で相乗り投資をする、というのが、ソーシャルレンディング(融資型クラウドファンディング)の基本体系となります。
ソーシャルレンディングの基本的な仕組み
- 貸金業の登録事業者が、新たに、第二種金融商品取引業の登録を取得し(第一種金融商品取引業の登録を取得するケースもある)、「ソーシャルレンディング事業者」となる。
- ソーシャルレンディング事業者が、自身のサービスサイト上で、ファンドを公開、投資の募集を行う(第二種金融商品取引業)。
- 投資家(主に個人投資家)が、ソーシャルレンディング事業者のHPを経由して、ファンドに、出資申込を行う。出資が成立した場合、ソーシャルレンディング事業者と投資家との間で、匿名組合契約が締結される。
- ソーシャルレンディング事業者は、ファンドに集まった資金を元手にして、資金需要者(借り手。主に企業)に対し、融資を行う(貸金業)。この際、ソーシャルレンディング事業者と借り手企業との間では、金銭消費貸借契約が締結される。
- 借り手企業は、(投資家ではなく)貸し手であるソーシャルレンディング事業者に対して、利息・元金の返済を行う。
- ソーシャルレンディング事業者は、借り手から回収した利息を原資に、投資家に対する利益分配(配当)を実施する。また、借り手から回収した元金を原資に、出資者に対する元本償還を実施する。
ソーシャルレンディングのリスク・注意点
延滞が生じるリスク
上記した通り、
- ソーシャルレンディング事業者から投資家への「分配金」支払いの原資は、ソーシャルレンディング事業者が融資先から回収した「利息」であり、
- 出資者の「元本償還」の原資は、融資先から回収した「元金」部分となります。
このため、借り手企業の経営状況が悪化し、融資先からソーシャルレンディング事業者への、利息・元金の返済が遅延した場合、ソーシャルレンディング事業者から出資者への、分配・元本償還にも、遅れが生じることとなります。
毎月分配型のソーシャルレンディング事業者の場合であれば、ある月を境にして、利払いを突如、止まりますので、投資家としては、出資したファンドにトラブルがあったことを、すぐに察知することが出来ます。
逆に、利払い・償還が、いずれも、満期の一括実施、となっているファンドの場合、最終的にファンドが運用終了期限を迎えるまで、ファンドの異状が投資家に感知されないケースもあり得ます。
貸し倒れ(デフォルト)に伴い、元本割れが生じるリスク
融資先企業の経営が悪化し、破産手続きに移行するなどした場合、ソーシャルレンディング事業者は、融資債権(元本部分)の一部しか、回収することが出来ないケースがあります。
この場合、ソーシャルレンディング事業者は、出資者への元本償還原資を確保することが出来ないため、投資家のもとへと償還されてくる元本は、出資した資金の一部、もしくは、ゼロ、となるリスクがあります。
担保が設定されていたとしても万全ではない
ソーシャルレンディング・ファンドの中には、ソーシャルレンディング事業者が、融資先への貸付にあたり、融資先が保有している(ないしは、取得する)不動産に対し、抵当権を設定する、というケースがあります(いわゆる、「不動産担保付きファンド」に相当します)。
この場合、借り手企業がソーシャルレンディング事業者への返済を滞らせ、期限の利益を喪失すれば、ソーシャルレンディング事業者は、適宜、担保権を行使し、担保物となっている不動産を市場で換価するなどして、債権回収を図ることとなります。
しかしながら、
- そもそもの担保価値評価が、いい加減であったり、
- 不動産市況が悪化しており、担保不動産が、適正な価格で売却できない、という場合、
たとえ、不動産担保付きの融資であったとしても、貸付債権全額の回収が、困難となるリスクがあります。
参考:
【検証】ソーシャルレンディングは「担保あり」なら安全なのか|不動産担保付きファンドの注意点、人的担保と物的担保の違いについて
コロナ・ショックの概要
2020年初頭から、世界経済に甚大な影響を与え続けている、新型コロナウイルス。
その影響力は、経済界のみならず、人々の働き方など、ライフスタイルにまで及んでいます。
飲食業界への影響
2度にわたって発令された、緊急事態宣言などの外出抑制措置の影響で、国内の飲食業界は、大きな打撃を受けています。
帝国データバンクの調査によれば、2020年(1月~12月)の飲食店倒産件数は、酒場等を中心に780件となり、過去最高を記録。
緊急事態宣言解除後も、営業の時短要請は継続する等、厳しい状況が続いています。
そうした中、テイクアウト・デリバリー需要は高まりを見せており、デリバリー業界大手「出前館」を運営する株式会社出前館が、今年3月に公表した、2021年8月期第2四半期決算説明会資料によれば、「出前館」サービスへの加盟店舗数は、2020年8月末時点と比較し約1.7倍の5.9万店、アクティブユーザー数も、2020年8月末時点に対し約1.4倍の582万人と、コロナ禍を背景に、急成長を遂げています。
更に最近では、実店舗での対面積極・料理提供を前提とせず、最初からデリバリー特化で営業する新業態として「ゴーストレストラン」等も流行。
これまでの飲食業界の常識が、今、大きく変わろうとしています。
東京都内オフィスの空室率上昇
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、大企業を中心に、テレワークの導入が進行。
かれこれ数年前から高まっていた、ワークライフバランスへの関心と相まって、人々は、「新しい働き方」「新しいオフィスの形」を模索するようになりました。
そうした流れに伴い、これまでの「事業活動拠点の東京一極集中」傾向が少しずつ緩和。
オフィス物件仲介大手の三鬼商事株式会社が公開したデータによれば、2021年2月時点での、東京のオフィス空室率は、5.24パーセント。空室率の上昇そのものは12ヶ月連続。空室率が5パーセント台に乗るのは、2015年6月以来、5年8か月振りの事です。
通販・キャッシュレスへの関心の高まり
新型コロナウイルスの影響は、購買活動のスタイルにも変化をもたらしています。
外出自粛などにより、対面接客型の実店舗での購入に変わり、ネット通販での商品購入が一般化。
宅配大手「ヤマト運輸」では、こうした通販需要拡大の影響で、2021年3月度の小口貨物取扱実績(宅配便・クロネコDM便)が、昨年度比+16パーセントの、20億個強まで増加。
国内EC大手「楽天」も、2020年度通期及び第4四半期決算説明会動画において、2020年度の流通総額が、初めて4兆円台(前年同期比19パーセント増の、4.5兆円)に達したことを発表しています。
さらに、実店舗での購買シーンにおいても、これまでのような現金を介した売買ではなく、非接触型のキャッシュレス決済が浸透。
業界大手であるPayPay株式会社は、2021年1月、同社の展開するキャッシュレス決済サービス「PayPay」の登録ユーザー数が3,500万人を突破し、1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の総人口とほぼ同程度となったことを発表しています。
ソーシャルレンディングへのコロナショックの影響は
「融資型クラウドファンディング」として隆興してきたソーシャルレンディングに、コロナショックはどのような影響をもたらすのか。
考え得る影響としては、下記のような物があります。
ソーシャルレンディングへのコロナ影響①延滞・貸し倒れが増える恐れがある
想定し得る限り、わたしたち個人投資家にとって、最もネガティブな影響としては、「コロナウィルスによる景気減退等の影響によって、ソーシャルレンディング案件の延滞や貸し倒れが増えてくる可能性がある」というものです。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響等により、融資先(借り手)の業績が悪化する
まず、考えられるのが、ソーシャルレンディング事業者から資金融資を受けている企業(いわゆる、借り手企業)の業績が、コロナウィルスの影響で悪化してしまうことです。
上掲も致しました通り、ソーシャルレンディング事業者から、わたしたち個人投資家への、分配・償還の原資は、ソーシャルレンディング事業者が、融資先(借手)から回収した、元利金です。
このため、融資先の経営状況が悪化し、借り手からソーシャルレンディング事業者への元利金返済が遅延してしまえば、当然、ソーシャルレンディング事業者からわたしたち個人投資家への分配・償還にも、遅延が生じてしまうこととなります。
昨今、飲食業界等を中心に、業績悪化に悩む企業も増えています。
こうした企業が、ソーシャルレンディング事業者から資金融資を受けており、かつ、今後、経営不振に陥る中で、ソーシャルレンディング事業者への元利金返済を滞らせるようなことがあれば、当然、ソーシャルレンディング事業者各社からの分配・償還にも、多大な影響が生じてくることとなります。
借り手が当初計画していた返済原資確保が、コロナショックの影響で、不調に終わる
ソーシャルレンディング・ファンドの中には、借り手からソーシャルレンディング事業者への返済原資として、
- 借り手が保有(もしくは、取得)する不動産の売却代金や、
- 借り手が行っている事業の、事業譲渡代金などを、
見込んでいるケースが、多数あります。
たとえば、東証マザーズ上場、ロードスターキャピタル社の運営するソーシャルレンディング・サービス「オーナーズブック」において募集された、「目黒区マンション第4号第1回」の案件概要には、借り手からオーナーズブック側への返済原資として、不動産物件の売却や、他の金融機関等からの借入等が想定されている旨が、明記されています。
しかしながら、新型コロナウィルスの影響等により、不動産市況が冷え込んでしまえば、借り手が元来想定していた、不動産物件の売却が不調に終わる可能性があるほか、
国内金融機関(銀行等)が、不良債権を抱えることを恐れ、貸し渋りなどを行えば、そうした金融機関からの借換(リファイナンス)も、奏功しない可能性が想定されます。
新型コロナウイルスの影響によって、従前のビジネスモデルなどが(少なくとも短期的には)通用しなくなるケースもあり得るため、想定されていた事業譲渡等のM&Aが、うまく妥結されない、という事態も、十分に予想されます。
すると、借り手企業としては、ソーシャルレンディング事業者に対し返済を行うための原資が、予定通りに確保できないこととなるため、
結果的に、延滞や、貸し倒れ、といった事態を誘発してしまうこととなることが想定されます。
ソーシャルレンディング事業者による債権回収も難航する
ソーシャルレンディング事業者が募集してきたファンドの多くには、不動産担保が設定されており、万が一、借り手企業からソーシャルレンディング事業者への元利金返済が遅延すれば、ソーシャルレンディング事業者は、担保権を執行し、当該不動産を市場で売却等することによって、債権回収を図ることが出来ます。
しかしながら、新型コロナウィルスの影響等による不動産マーケットの冷え込みが深刻な場合、担保物である不動産の売却(換価)が、不調となる可能性があります。
うまく買い手がついたとしても、担保権を設定した当時の価額と比べ、大きく値下がりした価格での売却を強いられることとなり、
結果として、貸付債権満額の回収が出来ない、などという事態も想定されます。
例えば、都内のオフィス物件の場合、売買価値算定の重要な基準となるのは、想定される賃料収入(坪当たり平均賃料×坪数)です。
しかし、上述の三鬼商事のデータにもあるように、都内オフィス物件の、1坪あたりの平均賃料は、ここ7カ月連続で下落しているほか、空室率も上昇傾向にあります。
物件の収益力が下がれば、売買価格も必然的に低減することとなり、担保価値も目減りしてしまうこととなります。
こうした傾向が継続・拡大すれば、たとえ、不動産担保付きのソーシャルレンディング・ファンドであったとしても、その担保価値算定がコロナショック以前のものである場合、貸付債権額の回収が困難となる可能性があります。
ソーシャルレンディングへのコロナ影響②案件(ファンド)が減少する可能性がある
上記で見て参りましたように、ソーシャルレンディング事業者から資金融資を受けた借り手企業の業績悪化による延滞・貸し倒れ発生可能性が高まっている関係上、ソーシャルレンディング事業者が、そもそものファンド組成そのものを、当座の間、見送る可能性があります。
ソーシャルレンディング事業者というのは、
- 投資家から資金を集め、利益を投資家に対し分配する、金融商品取引業者、としての側面と、
- 投資家から募った資金を、第三者に対して融資し、その後、利息と併せて、貸付債権を回収する、貸金業者としての側面を、
有していますが、新型コロナウイルスの影響による各種市況の冷え込みを見て、「貸金業者」としてのソーシャルレンディング事業者が、自ら融資事業にブレーキをかける可能性がある、ということです。
※貸金業者として、しっかりと回収できる案件に対して融資をする、というのは、当然の姿勢ですから、各融資先の行政悪化が予測されるなかで、貸し出しを細くする、という行為は、ごく合理的なものです。
新たな融資を行うケースが減れば、その分、ソーシャルレンディング投資家から資金を募る、ファンドの組成自体が、減少するわけですから、わたしたち個人投資家の目線から見れば、
「投資できるファンドの数が減る」
という事態となります。
実際にコロナショックの影響で貸付期間延長が生じた例
2021年3月31日、不動産担保付きソーシャルレンディング「オーナーズブック」は、2019年9月(コロナショック前)に募集した、「大阪市中央区ホテル素地第1号第1回」ファンド(以下、同ファンド)について、「不動産の売却が最終期限内に整わない」ことを理由に、融資先から、最終弁済日の1年間延長の申し出を受け、これを受託したことを明らかにしました。
延べ2,148名の投資家から、7億5千万円の資金を集めた同ファンドは、元来、2021年4月に、償還期限を迎えるはずでしたが、借り手企業が、元本返済のための資金を確保することが出来なかった、ということです。
オーナーズブック側は、担保権を行使し、債権回収に乗り出すことも出来たわけですが、金融庁から発出されている、貸出期間延長などを含む、融資債権に関する柔軟な対応を求める要請等の存在を踏まえ、敢えて、アグレッシブな債権回収は差し控え、返済期限の延長に応じた、とのこと。
しかしながら、元来のファンド運用期間が、結果として延長になり、投資家への元本償還が遅れることとなったことは、まぎれもない事実。
コロナショックの影響で、ソーシャルレンディング・ファンドの償還が延期となった事例として、しかと記憶に留めるとともに、今後の分配・償還の進捗状況に、注意を払う必要があります。
コロナ関連で全世界的な市況悪化が見込まれる今、新たな投資には慎重な態度を
このように、新型コロナウイルスにより、ソーシャルレンディング市場にも、ネガティブな影響が及ぶことが懸念される状況です。
市況の悪化がどこまで継続するか、見通せない時期でもありますから、
ソーシャルレンディング投資を含む、新たな投資のスタートには、この時期、特に慎重な態度で臨まれることを、おすすめ致します。
また、ソーシャルレンディング事業者各社が発信する最新情報についても、常にチェックするよう、心がけるようにしましょう。
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