ロボアドバイザーの行う「2つの分散投資」とは
ロボアドバイザーの行う、単一資産クラス内の分散投資とは
ロボアドバイザーの行う分散投資は、大きく分けて
- 単一資産クラス(シングル・アセット)内での分散投資と、
- 資産クラスをまたいだ、マルチ・アセットな分散投資
の2つに分類されますが、それぞれの分散投資の役割は、大きく異なります。
ロボアドバイザーの行う、単一資産クラス内の分散投資の仕組み
ロボアドバイザー投資初心者の方は、意外に思われるかもしれませんが、ロボアドバイザーは、個別の株式銘柄や債券銘柄への集中投資するわけではありません。
例えば株式であれば、個別の株式銘柄に投資するのではなく、
- インデックス(指数)と同じ銘柄・割合で、多数の銘柄に分散投資して、
- 当該インデックス指数と、原則として連動した投資成果の獲得を目指す、
いわゆる「インデックス・ファンド」(パッシブ・ファンド)と呼ばれる「投資信託」に対して投資するのが、ロバアドバイザーの基本的な仕組みです。
そして、ロボアドバイザーが投資対象とするインデックス・ファンドが、ポートフォリオに組み入れる株式銘柄数は、少なくとも数百、多い場合は数千銘柄にも及びます。
例えば、国内ロボアドバイザー業界において「大手」と言われることの多いウェルスナビが投資対象としている、「VTI」と呼ばれるETFの場合、その組み入れ銘柄数は、3千銘柄以上にも及びます。
このように、
- 個別銘柄ではなく、
- あくまでも、投資信託やETFを投資対象とすることで、
ロボアドバイザーは、単一資産クラス内で、高度な分散投資を行うことが出来ます。
参考:
ロボアドバイザーの投資対象は|資産クラス別の銘柄確認、投資対象選定のポイントまで解説|ソーシャルレンディングとの比較も
ロボアドバイザーが、単一資産クラス内で分散投資を行うメリット
銘柄ごとの非システマティック・リスクを排除できる
1つの資産クラスの中で、数百から数千もの銘柄に分散投資を行う最大のメリットは、分散投資の徹底を通じて、各銘柄ごとの、非システマティック・リスク(=銘柄固有のリスク)を、排除できるという点です。
個別の銘柄に投資しているだけでは、その企業の競合他社が画期的な新製品を開発したり、投資対象としている企業の経営陣に不祥事等があった場合、保有している株式の株価が、急激に下落してしまうリスクを避けることができません。
こうした、個別の株式銘柄ごとの固有のリスクのことを、専門用語では、「非システマティック・リスク」と呼びます。
これに対して、市場に上場している多量の株式銘柄に対して、分散投資を徹底していれば、各個別銘柄ごとのリスクに関しては、基本的に無視することができるようになります。
端的な例としては、例えば、自動車開発企業Aにおいて、何か大きな不祥事が発生した場合、当然、A社の株式は、大きく株価が下落することとなりますが、そうした状況を鑑みて、同じ自動車業界に属する他の自動車関連会社Bや、同業他社Cの株価は、相対的に値上がりする可能性があります。
このようにして、単一資産クラス内の分散投資は、各個別銘柄ごとの非システマティック・リスクを無効化するという、大きなメリットが期待されています。
※なお、単一の資産クラスの中の株式に対してのみ投資を行っている場合、上述のようにして、銘柄との非システマティック・リスクに関しては、分散リスクによって有意に排除することができますが、市場そのもののリスク、すなわち、「システマティック・リスク」そのものに関しては、排除することができない、という点に注意が必要です。
市場の非システマティック・リスクに関しても、これの軽減を望むのであれば、後述するような、マルチ・アセット、すなわち、資産クラスをまたいだ分散投資が必要となります。
同様の分散投資を、投資信託を用いずに行う場合、莫大な手間暇と投資額が必要となる
仮に投資家が、ロボアドバイザーが単一の資産クラスの中で行うような分散投資を、投資信託を用いることなく、自力で行おうとすれば、その投資信託が追随するインデックス指数と、全く同じ銘柄を、同じ割合通りに保有する必要があり、これには、多大な手間暇と、資金が必要となります。
例えば、トピックス(TOPIX)と言う、日本の東証一部上場銘柄すべてを対象としたインデックス指数と完全に連動した投資成果を得るためには、文字通り、東証一部上場企業すべての株式を、時価総額加重に応じて割合を調整したうえで、取得・保有する必要があります。
それぞれの株式銘柄には、「最低取得単位」(単元・株数)が定められていますから、これを投資家自身が自力で実現しようとすれば、少なくとも数千万円以上にも及ぶ、多額の投資資金が必要となります。
ロボアドバイザーの行う、単一資産クラス内での分散投資の場合、投資対象としては、個別銘柄ではなく、「投資信託」が利用されていますから、上記したような多額の投資資金を要さずとも、多数の銘柄への分散投資が実現できるという、仕組み上のメリットがあります。
参考:
ロボアドバイザーのポートフォリオ運用の仕組み・メリット&デメリットを考える
ETFも含めて、経費率の低い投資信託を活用できる
また、ロボアドバイザーの行う、単一資産クラス内での分散投資の場合、利用される投資信託が、「非上場投資信託」ではなく、主に海外市場に上場している、「上場投資信託」、すなわち、ETFが用いられている、という特徴があります。
ETFの場合、非上場の投資信託と比較して、経費率がさらに安く、銘柄によっては、年間の経費率が、0.05%を切ることも珍しくありません。
基本的にETFの場合、上場株式銘柄と同じように、あくまでも株数単位での売買が必要(=金額指定での買い付けが出来ない)というデメリットがあるのですが、ロボアドバイザーの場合は、少額からETFを取引する機能(例:ウェルスナビの提供する、ミリトレ機能等)を搭載しているケースも多く、投資家の分散投資をサポートする仕組みが整えられています。
単一資産クラス内で分散投資を行うデメリット
ボラティリティの低減効果は、ダウンサイドだけではなく、アップサイドにも及ぶ
投資対象を、数百から数千もの銘柄に分散することで、株式銘柄ごとの大きな値下がりのリスクを無効化する効果については、前述した通りです。
しかしながら、
- 値下がりのリスク、すなわち、ダウンサイドのリスクを軽減すると言う事は、
- 同時に、値上がりの可能性(機会)、すなわち、アップサイドのリスクに関しても、
これを毀損してしまうことになります。
例えば、単一の株式のみに資金を集中投資している場合、仮にその株式の株価が大幅に上昇した場合、多額の値上がり益を得ることとなりますが、投資対象銘柄を数百もの銘柄に分散している場合、一部の株式銘柄が大幅に値上がりしたとしても、ポートフォリオに及ぼすポジティブな影響は、軽微なものとなってしまいます。
参考:
ロボアドバイザーが「ダメダメ」な7つの理由とは|ロボアドバイザーを「使っちゃダメな人」も検証
投資家の主義・主張に反する銘柄も組み入れられることになる
さらに、分散投資の宿命として、投資家自身の考え方や、主義、信条、などといったものとは無関係に、あくまでも時価総額加重で、インデックスに含まれるすべての銘柄が、自動的にロボアドバイザーの投資対象となってしまう、というデメリットにも、留意が必要です。
例えば、前述のトピックス(TOPIX)の場合、東証一部市場に上場している全ての株式が、そのポートフォリオに(時価総額加重で)組み込まれることとなります。
投資家の中には、企業に対して、
- 女性役員比率の問題や、
- 環境保護活動への貢献程度、
- CSRへの取り組みなど、
様々なものを期待していますが、ロボアドバイザーの行う分散投資においては、あくまでも投資対象が「インデックス・ファンド」であり、そのインデックスに含まれているすべての企業株式が、投資信託を介し、実質的な投資対象となります。
当然のことながら、投資家の考え方や、重視しているポイント等とは全く別次元の問題として、「インデックスに含まれているから」というだけの理由で、株式が分散投資の対象となってしまうことがあります。
ロボアドバイザーを利用せずとも、同様の分散投資は容易
また、ロボアドバイザーによる分散投資の直接的なデメリットとは言えませんが、投資信託を用いた、単一資産クラス内での分散投資は、わざわざロボアドバイザーを利用せずとも、投資家が自分で適切な投資信託を取得・保有すれば、容易に実現できる、との指摘についても、留意が必要でしょう。
まず、ロボアドバイザーが投資対象とする投資信託やETFは、投資家が自分で、楽天証券やSBI証券。マネックス証券等と言った、ネット系の証券会社に口座を開設すれば、いつでも気軽に(オンラインで)売買することが出来るものです。
さらに、ロボアドバイザーを利用して、こうした投資信託を利用した分散投資を行う場合、投資家は、
- 投資信託の運用会社に対して、「信託報酬」と呼ばれる運用手数料を支払うほかに、
- ロボアドバイザーの運用会社に対しても、ロボアドバイザーの「利用手数料」を支払う必要があり、
コストが二重構造となってしまう、という難点があります。
参考:
ロボアドバイザーを解約すべき7つの理由|ロボアドバイザー解約のメリット&注意点もチェック
分散投資に、投資信託は実質不要?
また、同一資産クラスに属している場合、各銘柄同士の相関係数は、基本的に高いため、どの銘柄も、大局的に見れば、概ね、似たような値動きをする、という特徴があります。
同一資産クラス内で、一定程度の分散投資効果(=非システマティック・リスクの排除効果)を得るためには、わざわざ数百から数千もの銘柄に分散投資せずとも、50銘柄~60銘柄程度の分散投資で十分、との指摘もあります(≒概ね、分散投資対象が60銘柄程度に達した段階で、それ以上の分散投資効果は見られなくなる)。
株式投資などに親しんできた投資家の中には、「60銘柄程度の分散投資なら、自分で出来るな」と感じる投資家も少なくありません。
投資信託を利用する場合、前述の通り、投資信託の運用会社に対する信託報酬支払いが必要となりますが、投資家が自分で数十銘柄を保有するだけであれば、当然、ポートフォリオのランニング・コストは不要となります。
ロボアドバイザーの、複数アセットにまたがった分散投資とは
シングル・アセット(単一の資産クラス)内部での分散投資とは異なり、アセット・クラス自体をまたいで、複数の資産クラスに対して分散投資を行うことが出来るのも、ロボアドバイザーの特質のひとつです。
ロボアドバイザーによる「マルチ・アセット」の分散投資の仕組み
ウェルスナビやテオなどといったロボアドバイザーの場合、主に下記のような資産クラスに対して、分散投資を行います。
- 米国株
- 米国を除く先進国株
- 新興国株
- 先進国債券
- 新興国債券
- コモディティー
- 不動産
なお、ロボアドバイザーの場合、基本的には、資産クラス別に異なる投資信託(ETFを含む)を取得することで、分散投資を実現します。
複数の資産クラスに及ぶ分散投資の利点
低い相関係数によるリスク低減効果
複数の資産クラスにまたがった分散投資の最大のメリット、そして目的とされているのは、資産クラス同士の間の相関係数の低さに着目した、ポートフォリオ全体のリスク低減効果にあります。
仮に、2つの資産クラスの間の相関係数が、マイナスである場合(=負の相関関係にある場合)、互いの値動きは逆行しますから、一つの資産クラスが値下がりしているときに、もう一方の資産クラスでは、値上がりが生じていることとなります。
このようにして、互いの値動きが逆行することで、値動きが相殺され、結果的に、ポートフォリオ全体を見たときに、利回りのボラティリティー(リスク)が、低減される、という効果が期待されるわけです。
成長の果実を取り逃すことを防ぐ
仮に、単一の資産クラスに対してのみ投資をしている場合、世界経済全体の成長の果実を、取り逃してしまうリスクがあります。
例えば、1980年代以降に、「日本株式」という資産クラスに対してのみ資金を集中投資していた投資家の場合は、いまだに、バブル崩壊前の水準を回復できない日本株式の低迷ぶりによって、資産を大幅に増やすことができていない、というのが実情です。
これに対して、同時期に、米国株式のインデックス・ファンドに対して資金を投資していた場合は、資産を数十倍にも増やすことに成功している場合があります。
このように、単一の資産クラスにのみ、資金を集中投資する場合と比較し、資産クラス間の分散投資を十分に行うことによって、世界のどの地域において急激な経済成長が発生したとしても、その成長の果実を取り逃さないようにフォローすることが可能となります。
ロボアドバイザーによるマルチ・アセット型分散投資の注意点
資産クラスの分散によるリスク低減効果には、疑問の声も
資産クラスをまたいだ分散投資の最大の目的が、互いの資産クラスの間の相関係数の低さに着目した「分散投資効果」である事は、前述の通りです。
しかしながら昨今、経済のグローバル化や、複数の資産クラスに及ぶ分散投資ポートフォリオ運用が一般化してしまったことなどを受け、資産クラス同士の間の相関係数は、高まりつつあります。
このため、ロボアドバイザーが行うような、複数の資産クラスの分散投資を通したリスクの低減効果については、その大小・再現性に関して、疑問視する投資家もいます。
ロボアドバイザーを利用せずとも、同様の分散投資は実現できる
ロボアドバイザーの行うような、複数の資産クラスへの資金の分散投資は、一見、難しそうに見えますが、実は、一般的な個人投資家でも、さほど労せずして、実現できるものです。
具体的には、
- それぞれの資産クラスごとに、異なる投資信託やETFを買い揃えたり、
- 複数の資産クラスに対して資金を分散投資することを目的に設計・運用されている、「バランス型」の投資信託を活用する、
などといった手法が考えられます。
参考:
「ロボアドバイザーは、いらない」ロボアドバイザー不要論の根拠とは
分散投資を行う場合、資産クラス間のリバランスの必要が生じる
資産クラスをまたいだ分散投資を行う場合、バランス型ファンドを用いていない限りにおいては、資産クラスごとの値上がり・値下がりに応じて、投資家自身で、定期的なリバランスを行う必要があります。
ロボアドバイザーの場合は、こうしたリバランスに関しても、自動的に執行してくれますが、リバランスに伴って、値上がりしている資産クラスが売却されてしまえば、当然のことながら、含み益が実現し、課税関係が生じます。
また、値上がりによって売却される資産クラスは、主に株式系の資産クラスであることが一般的であるため、こうした資産クラスの売却により、ポートフォリオ全体の将来的な期待利回りが低減してしまう、というデメリットも指摘されています。
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